76.7話 悪夢の始まり1.7
「いや、その必要はない」
空元の後に続いて動こうとしていた俺たちはその言葉で足を止めていた。そして声がした方向を向くと、
「…………誰?」
誰が声にしたかはわからないが、俺たちの気持ちを代弁した問いかけが声の主へ問いかけられた。声の主の招待を知るためにも、全員がそいつの返事を待っていたのだが、
「俺のことはどうでもいいだろ?それよりも今は急いでいるんじゃないのか?」
そいつはまともな返答をせずに、俺たちにそう問い返してきた。確かにそうなのだが……。
「ならどうしてお前は俺たちを呼び止めたんだ?それに『必要がない』とはどういうことだ?」
このタイミングで俺たちを呼び止めた謎の男と、怪しむ要素しかない俺は睨みながらそう問うと、
「あぁ、それはその言葉通り、そこの彼についていく必要がないってことだ」
と空元を指さしながらそんなことを言ってきやがった。あんに見つけることが出来ないって言っているように聞こえた俺は
「それはつまり、京を見つけることが出来ないってことか?あぁ?」
どうして俺たちが人探しをしていることをこいつが知っているのかは知らないが、こいつの言葉を京は諦めろという意味でとった俺は殴りかかろうという気持ちを何とか抑えつつもう一度問い詰めた。すると、
「あっ、いや、すまない。そうだよな、このタイミングで現れて名前も名乗らなかったらそうだとそう思われるよな……」
まるで俺の気をそぐかのように両手を上に挙げて、敵対する気はないという意思表示をしながらそう返してきたんだ。その行動に、おそらく相手の思惑通り、気をそがれてしまった俺は頭の後ろをかきながら
「じゃあ、お前は一体何者なんだよ」
思ったことをそのまま呟くと、
「先ほどは名乗らなかくてすまなかったな。俺は谷村と言うんだ」
谷村は挙げていた両手を下ろしながらそう言った後、一度言葉を区切り、その後空元を見ながら
「熱海さんと会っていたと言う、そこの彼が言っていた君たちの知らない男の友人で、今熱海さんの居場所を知っている者とでも言えばわかりやすいかな?」
飄々とした様子でそんなことを言ってきやがった。俺たちの知らない男の友人という言葉に俺たちの中で緊張が走っていると、谷村はそれを感じたのか両手を前へと出しながら
「違う違う。俺は決して邪魔をしに来たわけじゃないんだ。そこの彼の案内が必要がないと言ったのはこれから俺が君たちをその場所へと案内するからなんだ」
と言ってきたが、その言葉をそのまま鵜呑みすることが出来なかった俺はその言葉の真偽を測っていると、
「……その言葉が嘘ではないという保証はどこにあるのですか?」
今までずっと静観していた服部さんが谷村へそう問いかけていた。俺よりは少なくとも冷静な服部さんならば間違った判断はしないだろうと、俺は一歩下がり、2人のやり取りを見ていることにした。しかし、
「俺の言葉が本当か嘘かの証明をすることは出来ないかな。だから今から俺は真っ直ぐにその場所へと向かう。俺のことが信じられないのであれば、俺が割り込む前の通り、そこの彼の案内で行けばいいさ」
谷村は肩をすくめながらそう言うやいなや、なおも言葉を続けようとした服部さんを無視して踵を返し、そのまま歩き出してしまったんだ。少し肩透かしを食らった気分であったが、そんなことを思っている間にも谷村はどんどん歩いて行っており、追うならばすぐにでも追わなければいけないが、嘘であった場合のことを考えてしまい、二の足を踏んでいると、
「ほら、熱海さんのことやねんから、お前らがしっかり決めんかい。正樹の案内も途中までしかわからんのやから、あいつにかけてみてもえぇと思うんやけどな」
「そうね。それに、空元君の案内と違う道へ入り始めたのなら最悪二手に分かれてもいいと思うわよ?あなたの案内もあの道へと入るつもりだったのよね?」
小野が俺と丘神の背中を叩きながらそう言い、村居さんがその言葉に続けるように言いながら空元の方へと確認のために視線を動かしていた。それに対して空元も「そうッス。ボクもあの道へ案内するつもりだったッス」と返したのを見た俺は丘神と顔を見合わせてから、
「……そうだな。みんなすまない」
「うむ……。こういうときこそ動かないといけんのにのぅ」
俺たちはみんなへ謝ったんだ。すると
「かまへん。それよりも早く追いかけようや」
「そうよ?それよりも道が途中で分かれた場合、あなたたち2人が別れるのか、どちらかに2人とも行くのかは考えておきなさいよ?」
小野と村居さんにそう言われてしまい、俺たちは軽く苦笑しながら
「あぁ、そうだな」
「うむ」
とだけ返し、谷村の後を追ったのであった。
…………
……
「それで?どうやって場所を特定したんだ?」
谷村へ追いついた後、空元も撒かれてしまって特定することが出来なかった場所をどうやって見つけたのだろうか。その疑問を解消すべく、そう問いかけると、
「ついてきてくれたか。場所特定は簡単だ。最近は携帯も便利になっただろ?」
片手で携帯をプラプラとさせながらそう言ってきた。どういう意味かわからずに、思わず服部さんの方を見ると、
「どうして私の方を見たのか後でお話しを聞きたいのですが……。まぁ、出来なくはないですよ?」
服部さんは軽く溜息をつきながら答えてくれた。出来なくはない……っということは何かしらしないといけないのか。そう思い、視線を谷村へと戻すと、
「まぁ、その服部さん?の想像通りの方法とだけ言っておこうかな。それで俺の友人の携帯の場所を特定しただけのことさ」
とだけ言って、そのことに対してはもう話が終わりとばかりに歩く速度を谷村が上げ、俺たちは慌てて追いかけたのであった。
…………
……
「ちょ、ちょっと待つッス」
それから会話という会話もなく谷村の後を追い続いけていると、分かれ道に差し掛かったあたりで、空元が大声で俺たちに待つように言ってきたんだ。その言葉に俺たちは足を止め、空元の方を振り返ると、
「ボ、ボクが知っているのはこっちッス」
と言って谷村が行こうとしていた方向とは別の道を指さしていた。……ついに分かれたか。そこで俺は丘神へと視線を向け、
「俺が谷村についていくよ」
と丘神に伝えた。すると丘神は
「了解じゃ」
頷き、俺たちはお互いに「検討を祈る」とだけ言って拳を合わせた。その後、空元についていくことになった丘神、服部さん、村居さんを見送った俺は谷村の方へと振り返り、
「すまない、待たせた。案内の続きを頼む」
「何、このくらいなら大丈夫だ」
詫びを一ついれたのだが、谷村は気にしていないと言って再び歩き出し、残った俺たちは再びその後を追いかけたのであった。
…………
……
それからも細い道を進んで行き、いよいよ雰囲気が怪しくなってきたところで、突き当りにだけ曲道がある道へと出たのだが、その道に出た途端、谷村は急に足を止めてしまったんだ。その行動に対して訝しげに谷村の方を見ると、
「その道をまっすぐ行って、突き当りを曲がれば目的地だ」
そう言ってきたのだが、谷村がこの先へ行く気がないと感じた俺は
「お前は行かないのか?」
谷村へ問いかけると、
「あぁ。俺はわかっていたのに熱海さんを助けることが出来なかったからな。俺には行く権利がないんだ……」
谷村は力なく首を振りながら返してきた。だが、
「権利とかそういう問題じゃないだろ?そう思っているからこそ俺たちと一緒に行くべきじゃないのか?」
罪悪感があるというならば、今こそその償いをすべきではないかと思った俺はそう聞いたんだ。しかし、
「あぁ、そうなんだろうね。でも、すまない。ここから前へ進む勇気が俺にはないんだ。情けないだろ?後ろへは足は動くのに、前へ進もうとすると足が全然言うことをきいてくれないんだ」
谷村は自嘲的な笑みを浮かべながら言ってきていた。その表情に言葉を出せずにいると、
「だから、ここから先へは君たちで言ってくれ。そして出来ればでいい。俺の友人の……、テルの目をどうか覚ましてやってくれ」
谷村は絞り出すように俺たちへ言ってきたんだ。その言葉に対して
「あぁ、わかった」
俺はただそれだけを告げ、道を歩きだした。その後に篠宮さんたちがついてきていることを足音で確認した俺はそのまま進み、突き当りを曲がろうとしたところで、
「や、やめて……。誰か……助けて……」
という小さい声が聞こえたんだ。気のせいかと思うくらい小さい声だったが、京の声を聴き間違えるはずがないと思った俺は篠宮さんたちに確認することもせずに急いで角を曲がったんだ。するとそこには服をはだけさせられ、手足が拘束された京とナイフを突きつけている藤林が目に入ってきたんだ。その光景を見た俺は反射的に全力で走り出し、その勢いのまま藤林を殴り飛ばした。そして藤林を睨みつけながら振りぬいた拳を戻して、
「京には手を出すなって言ったよなぁ。藤林ぃぃぃぃぃっ!!!」
と言い放った――。
もう少し読みやすく、かつ上手な表現を出来るようになりたいですね……(・ω・`)




