76.3話 悪夢の始まり1.3
今回は少し短いです。
前回のダイジェスト
腕を後ろで縛られ、青木によって足も拘束されてしまった京。
藤林に服も切り裂かれ、絶体絶命となったときに健吾登場。
今回はそこに至るまでの健吾視点です。
[追記]いくつか言い回しを修正しました。
「はぁ……はぁ……。くそっ!」
教えてもらった方向に走ったはいいが、この辺りの地理をよく知らないのも相まって、中々京を見つけることが出来ずに悪態をついていると、
「こらっ!待てって言ってるでしょうがっ!!」
俺を追って走って来ていたのであろう篠宮さんに後ろから肩をつかまれて後ろを振り向かされたんだ。
「今はそんなことをしている場合じゃ「今だからこそ落ち着けって言ってるのよっ!」っ……」
だが、それよりも京を探すことを優先したかった俺は篠宮さんの手を払って再び走ろうとしたのだが、払おうとした手を逆につかまれ、言おうとした言葉を逆に上から被せられてしまっていた。そのときの篠宮さんの迫力に思わず息をのんでいると、
「あんたが京のことになるとすぐに頭に血が上るのはわかったから、少しは落ち着きなさい。そうじゃないと見つけれるものも見つけられなくなるわよ?」
その隙を見逃さないとばかりに、さらにそう言われてしまった。確かに自分でも冷静ではないとわかっているんだが……
「それでも早く見つけないとっ!」
京が誰かに追われていることは間違いないんだ。ただでさえ体力がなかったのに、女になってからさらに体力が落ちてしまっているし。だからこそ、早く見つけてやらないと手遅れになってしまいかねないんだ。焦る気持ちを抑えようにも抑えきれず、篠宮さんにそう返すと
「だーかーら!そういうときこそ落ち着けって言ってるのよ。何も中山君一人で探さないといけないってわけじゃないことはわかってる?」
篠宮さんは腰に手を当てながら少し呆れたような表情を顔に浮かべながらそう言ってきた。そこでようやく、ただ闇雲に一人で探すよりみんなで探した方が早く見つけられることに気付いた俺は、焦っていた気持ちをごまかすために頭の後ろをかいていると、
「やっと落ち着いたわね……。いい?京が危険な目にあっているかもしれないっていうのがわかって、内心穏やかじゃないのは何も中山君だけじゃないのよ?わかってる?」
篠宮さんに少し溜息をつかれながらそう言われてしまった。そりゃ友達が危険にさらされているかも知れないってわかっていたら落ち着かないわな……。
「あ、あぁ。そうだな、すまない」
だから俺は素直に頭を下げたんだ。すると、
「うん、よろしい。それじゃあ、丘神君が村居さんに連絡してくれているそうだし、まずはみんなと合流して情報共有としましょ?」
篠宮さんは手を腰に当ていた手を前で組み直しながら言ってきたんだが……
「あぁ……。ん?でも空元には連絡しないのか?」
まぁ村居さんに連絡すれば空元にも連絡はいくとは思うが、それでも直接連絡しないのはどうなのかと思った俺は篠宮さんに尋ねると、
「あぁ、そういえば言っていなかったわね。空元には朝から京についてもらっていたのよ。だからすでに京の居場所はわかっているはずよ」
篠宮さんはあっけからんにそう言ってきた。そのことに思わず
「何でそれを最初に教えてくれなかったんだ……」
思ったことをそのまま呟くと、
「どこかの誰かさんがあたしの言うことに聞く耳を持たないで走っていっちゃうからでしょ?」
篠宮さんに肩をすくめられながらそんなことを言われてしまい、
「ぐっ……」
ぐうの音も出なくなっていると、
「これで焦っているときこそ冷静じゃないといけないっていうのがわかってもらえたかしら?それじゃあ、さっきも言ったけど、まずはみんなと合流しましょ?」
篠宮さんがもう一度俺にみんなと合流しようと言ってから歩き出していた。それに対して俺は再び頭の後ろをかきながらついていったのであった。
…………
……
「はぁっ!?見失ったぁ!?」
みんなと合流し、空元からの報告を聞いた篠宮さんの第一声が集まった場所に響いた。空元はその迫力にビクビクという効果音が聞こえてきそうなくらい怯えながら
「し、仕方がないじゃないッスか。熱海さん一人のときだったら全然追いつけたッスけど、連れの男の人と合流されてからあんな裏路地を走り回られたら追いつけるものも追いつけないッスよ」
何とか見失った原因を告げていたのだが、
「ん?連れの男……?」
空元のその言葉が気になった俺がそう尋ねると
「そ、そうッスよ?熱海さんが誰かと合流していたんスよ。ボクの見たことが無い人だったんスけど、熱海さんの反応は明らかに初対面ではなかったんスよね。みんな知らないッスか?」
この危機的な状況なのに京のやつ、誰かと会っていたらしい。しかも男と。…………。
「そんな誰がそいつのことを知っているかどうかよりも、京はその後どこ行ったんだよ」
「だからその後も追いかけたんスけど、細い路地をずっと走り回られたから振り切られたって言ってるじゃないッスか!ボクに運動能力まで求めないでほしいッスよ!」
そんなことより早く京の元へ行くために空元に聞いたんだが、わからないって返事が帰ってきやがった。そういえば振り切られたってさっきも言ってたな。それでも途中まではわかるだろうと思って、それを問いただすために口を開こうとしたところで、
「はいはい。中山君が嫉妬するのはいいけど、まずは落ち着いて」
篠宮さんが横から口を挟んできやがった。口を挟まれた内容が内容なだけに、
「誰が嫉妬だなんて「さっきも言ったばっかでしょ?冷静にならないとまともな思考も出来ないわよ?」っ……」
否定の言葉を言おうとしたんだが、被せるようにさっき言われたこととほぼ同じことを言われてしまい、言葉が途中で引っ込んでしまったんだ。俺が反論出来なくなっていることを確認した篠宮さんが
「さて、また暴走仕掛けていたのが一先ず落ち着いたことだし、空元、見失ったところまででいからその場所まで案内してもらえないかしら?」
空元にそう問いかけていた。俺もこれ以上騒いでも遅くなるだけだと思い、何とか気持ちを抑えて黙っていると、空元が
「本当に途中までッスよ?」
と確認するように俺の方を向きながら言ってきたから、俺は頷いて返した。
「それじゃあ、こっちッス」
それを見た空元がそう言いながら動き出したところで、
「いや、その必要はない」
俺たちは誰かにそう声を掛けられたんだ。
健吾視点はもう1話続きます。




