アネモネ
掲載日:2026/02/19
春が来るたび、あの花を思い出す。その花は決して長くは咲かない。
彼女と過ごした時間も、同じであった。
出会った頃、未来の話をほとんどしなかった。約束をすると壊れてしまいそうで、今日のことだけを大切にしていた。それが優しさだと、信じていた。
ある日、彼女は何気ない調子でアネモネを持ってきた。赤くて、薄くて、少し触れただけで傷つきそうな花。「なんとなく、あなたみたいだと思って」その言葉を、僕は笑って受け取った。
花瓶に挿したアネモネは、数日で首を垂れた。水を替えても、置き場所を変えても、戻らなかった。その姿を見ながら、僕は不安から目をそらしていた。
別れは、予感していたよりも早かった。理由を聞くことも、引き止めることもできなかった。彼女の背中が遠ざかるのを、ただ見送った。
あとから知った。アネモネの花言葉は「はかない恋」。
思い返せば咲くことよりも、散ることのほうが似合う恋だった。
それでも私は、後悔していない。短かったからこそ、あの時間は美しかった。触れれば消えてしまうほどの想いだったから、今も胸の奥で、そっと息をしている。
春の風に揺れるアネモネを見るたび、私は思う。あれは確かに、恋だったのだと。




