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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

キタさんとミタオくん

作者: 灯月 寧
掲載日:2026/02/11

古いアパートがありました。

二階の角部屋に、キタさんとミタオくんは住んでいました。


六畳一間。台所は小さく、蛇口は少しひねると鳴きました。


「この音、今日も元気ですね」

キタさんはそう言って笑います。


ミタオくんは鍋をかき混ぜながら答えました。

「直したいけど、大家さんが“味がある”って言うんだよ」


窓の外には川。

電車が通るたびに、コップの水がかすかに震えます。



夜は、二人で交代してお風呂に行きました。

アパートに風呂はありません。


商店街のはずれの小さな銭湯です。


「先にどうぞです。今日は寒いですから」

「いや、キタさんが先でしょ」


「いえいえ、どうぞです」

「じゃあジャンケン」


結局ジャンケンで決めます。

だいたいミタオくんが負けます。


湯上がりの帰り道、キタさんはいつも瓶の牛乳を二本買いました。


「一本ずつです」

「たまにはコーヒー牛乳にしない?」

「冒険は週末にします」


川沿いの夜風が、まだ湯気の残る髪を冷やします。



部屋に戻ると、テーブルが近すぎて膝が当たります。


「近いですね」

「部屋が狭いからね」


「いえ、悪くないです。すぐ届きますから」


そう言って、キタさんはミタオくんの茶碗によそいました。


テレビは小さく、たまに色がずれます。

二人はそれを直さずに見ていました。


「世界は少しぐらい、ずれている方が面白いです」



ある雨の日。

洗濯物が乾かず、部屋の中に紐を張りました。


シャツとタオルの間を縫うように歩きながら、ミタオくんが言いました。


「なんか秘密基地みたい」


「では、ここは研究所です」

「何の研究?」

「暮らし方の研究です」


「成果は?」

「だんだん、上手になっています」



お金はあまりありませんでした。

でも、やりくりは得意でした。


半額の総菜を見つけると、キタさんは少し誇らしげです。


「今日はごちそうです」

「コロッケ二つで?」

「二つも、です」


窓を開けると、川の匂いと電車の音。

誰かの生活の音が遠くで重なっていました。



夜、布団を並べると、端と端のはずなのに、なぜか近くなります。


「明日は早いんでしたね」

「うん。キタさんは?」

「同じくらいです」


少し沈黙があってから、


「では、お互い無理しすぎないようにしましょう」

「それ難しいんだよなあ」


「難しいことをやるのが、二人です」


川の水は暗く流れていました。

でも窓の光が、細く揺れて映っていました。


名前のない毎日が、静かに歌のように続いていました。

どんな時も、前向きに生きられたらいいですよね。

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