2話 晩餐 2
「それではお召し物を選びますよ。従者に全てを選ばせるご婦人ご令嬢もおりますが、侯爵家に行儀見習いにやってきたのですからね、先ずは試し、学びを得ていきましょう」
小さく頷いたツィトローナは、数多く並ぶ衣装へと視線を向ける。
(基本は白、新芽のパターン、カジュアルなワンピースドレス。派手にならないように…)
それらしい衣装はいくつかあるのだが、フリルが多かったり、金糸の刺繍が入っていたり、衣装の凝ったレースが自己主張をしていたりと、やや派手になってしまう。
(目移りしちゃう数だ。けれど条件に沿った服を見つけないと、怒られちゃうかも…)
手に取った衣装は、山鳩の羽のように灰色がかった緑色をしたワンピース。
「これは…?」
「少し、地味過ぎますね。13歳でしたら…これなどが良いかと思われます」
ヴァイリスカが手に取ったのは、若芽を彷彿とさせる色を基調とし、小ぶりなフリルが散りばめられた愛らしいワンピースドレス。
「ごめんなさい…」
「えっと…何がでしょうか?」
「服の選び方が分からなくて」
しゅん、と縮こまるツィトローナ。
彼女と視線を合わせるように屈んだヴァイリスカは、朗らかな笑みを浮かべる。
「ここは学びの場。分からないのであれば私たちに尋ね、ゼーゲルマン様のお力として蓄えてくださいませ」
「…。」
(自分一人で勉強しなくていい、のかもしれない。なら!)
ツィトローナはヴァイリスカが『信頼できる相手なのかもしれない』と感じ、固くなっていた唇を緩めていく。
「そ、その服に合うアクセサリーを、教えてくださいっ!」
「はい、畏まりました。では、この中からお選びください。こちらは―――」
その後、ツィトローナは衣装を着替え、髪型を整えてから、可愛らしいブローチを胸に飾ることにした。
―
『地方の弱小貴族家のご令嬢』から『年相応の可愛らしさを身にまとった竜人のお嬢様』になったツィトローナは、ヴァイリスカと共に廊下を進む。
先ほどと比べて気持ちを落ち着け、周囲に視線を向ける余裕が出てくる。
調度品一つにしても、ゼーゲルマン家では一生お目にかかれない品々で、所々で輝きを見せるステンドグラスなどは芸術の域だった。
(夢でも見ているみたい)
現実かどうかの狭間が曖昧になってしまったツィトローナは、手の甲を軽く抓っては痛みを確かめ、現実なのだと理解させられる。
そんな折り、大きめの絵画が視界に留まる。
(リリアンネ様と、多分侯爵家。横に並んでいる銀髪の二人はご子息様?)
「あの」
「はい、なんでしょう?」
「絵画なんですけど、威厳のある男性が侯爵様で、銀の御髪のお二人がご子息様ですか?」
「ええ、そうです。現在は三人共王都に行ってらして不在なのですが、侯爵様とは早めにお会いになれると思います」
「そうですか。…礼儀作法、頑張らないといけませんね」
「その意気です」
絵画の前で留めていた足を再び動かすと、廊下の先に転がる毛玉があった。
木目のような模様をした毛玉は、近づいてくるツィトローナたちに視線を向けてから立ち上がり、ぐぐっと伸びをする。
「猫さんですか?」
「はい、こちらは筆頭ネズミ捕り担当侍女のアイヒェさんです。アイヒェさん、こちらが行儀見習いとして滞在するツィトローナ・ゼーゲルマン様ですよ」
長毛でモコモコとした木目柄の大型侍女アイヒェは、のっそりとした動きでツィトローナの前まで足を運び、鼻を鳴らして匂いを確かめる。
「にゃにゃ」
大きめな身体に似合わず、鳴き声は高く、声量は控えめであった。
「こんばんは、アイヒェさん。これからよろしくお願いします」
屈み、手を差し出せば、アイヒェは改めて匂いを嗅ぎ、ツィトローナの足に身体を擦り付けてから、廊下に寝転び丸まってしまう。
大層な肩書きが付いているが、基本的には猫なのである。
「ふふっ、アイヒェさんがスリスリしたということは、ゼーゲルマン様は猫好きな方なのですね」
「好きな方ですけど…相手によって態度が変わるのですか?」
「猫が苦手という方には、自然と近寄らない不思議な方なのですよ」
「面白いですね」
ペコリとお辞儀をし、ツィトローナは立ち上がる。
「筆頭という話でしたが、他にも猫さんが?」
「灰色のアシェンさん、黒色のルースさんがいます。食事とおやつとなでなで付きで雇用されている、立派な侍女と侍従なんですよ、ふふっ」
「そうなんですね」
冗談なのか本気なのか分かりかねたツィトローナは、曖昧な相槌を返して、まだ見ぬ猫たちに思いを馳せた。
(今度触ってみたいなぁ)
「ふふっ」
猫との触れ合いで心を落ち着けたツィトローナは、自然と笑みがこぼれる。
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