21話 イアリヒト・スフェーレ 1
一秋季も終わりに近づいた頃、騎士団本部で軟禁状態にあったジルベリヒトは、生活用品の整理を行っていると、騎士団長であるベルンハルトが顔を見せる。
「ようやくお帰りですか」
「ああ、六年空けた時と比べれば二季分なんて短いものだけど、仕事漬けの毎日はなかなか堪えたよ」
「本当、反省してくださいよ。というか、世間体的に反省した風を装ってください」
「わかっているさ。僕は社交的な性分でもないから、そういった場所には縁もないし、通り名の影響で寄ってくる者もいないだろう。慎ましい日々を送らせてもらうよ」
「お願いします。三日間は休暇ということになりますが、騎士団からの監視がついていないので外出は厳禁で。必要なものなどは…まっ、シュタインフェステ家なら関係ないですかね」
「そうだね」
グッと大きく伸びをしたジルベリヒトは、本部に付随する宿舎を見回してから、自身の荷物を持ち上げる。
「そういえば、イアリヒト・スフェーレっていう魔導具は手に入ったかい?」
「ええ、先ほど届きましたが…天文学でも収める心算で?」
「ただの贈り物さ。軟禁の最中、面会に来てくれたゼーゲルマン嬢にね」
(ツィトローナ・ゼーゲルマン。…義妹が甚く気に入っている令嬢だが、ブルストとラプシアは『竜人という部分を除けば特別感はない』と評価していた)
ツィトローナの社交に於いての評価は高くない。むしろ低い。
それでもジルベリヒトやグラーニアが気にかけ、気に入っている様子を鑑みるに、彼らにとっては特別な存在なのだろう。
(まっ、目下の問題は統轄魔法師長か。…魔力視ねぇ)
特別な力があるとするのなら、それは魔力を視認可能な眼であろう。
統轄魔法師長を務めるエフェウ・カタラクトケルンは、ツィトローナを騎士団に加えたいとベルンハルトに相談しているが、シュタインフェステ家での状況が分からない以上は首を縦に振れない。
仮に良家との縁談が決まっているのなら、下手な勧誘は諍いの種になってしまう。
(義妹に喧嘩を売る気は起きねえよな。……一騎士として魔物をしばいてた頃が懐かしいぜ)
「あー、そうだ。軟禁が終わったんで、ジルベリヒト様にも防塁壁の防衛任務に就いてもらいます。現場の騎士たちを理解して、連携を取れるようにお願いしますね」
「了解した」
ジルベリヒトは幹部補という、騎士団の各幹部職の補佐を務める立場にいる。
しかし、彼自身が戦力として優秀であり、部隊指揮の経験もあるため、実地での職務も行うこととなっているのだ。
「数字だけ見て語るのは良くないと思うのだけど、ここ数年は安定しているように思えるのだけど、実際はどうなのかな?」
「安定してますよ。怪我人だけ見ても、実戦より訓練の方が多いくらいですし」
「…なら気を引き締めないとね」
「そうっすね。危機感のない新人も多くなりましたし、ジルベリヒト様の通り名で怖がらせてやってください」
「ははっ、僕の気まで引き締まってしまいそうだ」
ジルベリヒトは肩を竦めながら笑い、二人は宿舎を後にする。
(前も思ったが、ジルベリヒト様は明るくなられた。…感謝するべきかね、どっかのご令嬢に)
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