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侯爵家に行儀見習いとして送られた竜人の令嬢は、魔導具作りの夢を捨てたくない  作者: 野干かん


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19話 立食会 1

 一秋季いっしゅうき。それは新たな年の幕開けであり、どこもかしこも賑やかとなる周季こよみ

 この時期にはシュタインフェステ家で大規模な立食会が行われることとなる。


 秋晴れの心地よい風が肌をなでる日、シュタインフェステ家の庭では、料理を提供するテントや、休憩のためのテーブルと椅子が並べられ、あちらこちらで貴族が歓談に耽っている。


 そんな中、息を潜める一人の令嬢がいた。


(いろんな人が私を見てきて、胃がキリキリする。食べ物の味が分からないかも…)


 ツィトローナは、敷地内に生える雑草にでも扮してやり過ごそうと思っていたのだが、竜人としての角と鱗が他人の目を引く。

 そしてなによりも、シュタインフェステ家の行儀見習いという肩書きが、モルゲンレーエラント直轄領の貴族たちの興味をそそる原因となっていた。


(シュタインフェステ家の行儀見習いなんだ、私は。リリアンネ様の顔に泥を塗らないように、グラーニア先生からの教育を無駄にしないように。…頑張らないと)


 気持ちを入れ替えたツィトローナは、視線を順繰りと回し、リリアンネ主催の茶会で知り合った貴族たちを探していく。

 グラーニアの甥姪であるブルストとラプシアでもいれば、孤立することで会場から浮いた雰囲気になることは避けられるのだが、残念ながら彼らの姿は見つけられない。


 それもそのはず、ブルストとラプシアはツィトローナから視認され難い位置から、一方的に目視している状況で、いざという時に動けるように準備をしているのだから。

 『叔母上も過保護なもんだ…』とボヤいてはいたものの、断らないのがブルストたちである。


(ブルスト様とラプシア様はいない…。もっと大人な方々になっちゃうと…話しかけにくいよね。迷惑になっちゃいそうだし)


 心細さを抱えながらも、挙動不審にならないように注意を払い、掛けられる挨拶を返していると、3人ほどの少女がツィトローナを囲む。


「ごきげんよう、ゼーゲルマンさん?」

「ご、ごきげんよう。…えっと、どちら様でしょうか?」


 縮こまったツィトローナの態度を見た3人組は、クスクスと意地の悪い笑みをこぼしながら、威圧的な瞳を露わにする。


「貴女みたいなド田舎男爵家の娘が、シュタインフェステ家の行儀見習いなんて恥ずかしいと思わないの〜?」

「しかも異種族。人間ですらないなんてねぇ?」

「あーあ、リリアンネ様も不憫で仕方ありませんわ。こんな気持ち悪い生き物の面倒を見ないといけないなんて」


 周囲には聞かれない程度の声だが、ツィトローナの耳にはしっかりと届き、精神を抉る。

 そしてなにより、ただ竜人であるというだけで罵詈雑言を浴びせてくる相手に対し、確かな怒りが沸き起こった。


(やっぱりこういう人間はどこにでもいるんだ…イライラする)


「何、その反抗的な瞳は?」

「同じ会場にいられるだけでも有難いと思わないのかしら?」

「案外、シュタインフェステ家の教育っていうのも大したことのないみたいね、あははっ」


 怒りを露わにしつつも、悪意のある言葉を投げつけられる経験が多く、若干の慣れがあるツィトローナだが、その矛先がシュタインフェステ家に向かうことは見過ごせなかった。

 黄色い瞳で精一杯の力でめつけながら、一歩踏み込む。


「今なんて――――」


 苛立ちのままに、怒りを抑えることなく言い返そうとしたツィトローナの前に、アプフェリアーネが立ちはだかって視界を遮る。


「ごきげんよう、御三方。先日のお茶会以来ではありませんこと?」

「あら、オプストホーフェン様ではございませんか。先日は子爵家のご子息を紹介いただき、ありがとうございました。お話がついつい弾んで、今度観劇に同行させていただくことになったんですよ」

「あら、そうなのね。彼のお父様は最近勢いがありますし、良縁となればと考え、紹介させていただいたのだけれど、お眼鏡に叶ったようで何よりだわ」


 アプフェリアーネは三人組とは面識があるようで、挨拶を仕掛けながら会話の主導権を掌握する。


「―――ところで、“私と同じ行儀見習い”のツィトローナさんとはどういう話をなさっていたの?」

「いえね、このゼーゲルマンさんが礼儀に対して不勉強なようで、教育に協力していたのです。オプストホーフェン様は、そう思ったことはありませんか?」

「そうねぇ…座学ならいざ知らず、礼儀にはならない部分も多いと感じるわ。ふふっ、見てこの衣装、毎度毎度侍女や使用人に相談をして、やっとの思いで選んでいるみたいなのよ。“大変”よねぇ〜」

「え、ええ、そうですわね。皆さんもそう思いますよね?」

「あ、はい」

「はい…」


 三人組は歯切れの悪い返事をしながら、アプフェリアーネの衣装を見直す。

 多くの者を魅了する鮮烈な赤髪を活かすための、装飾や衣装の数々はバランスよく配置されており、圧巻の一言。

 『これを自分自身で選んでいるというのなら…』と三人組は気圧されつつも、羨望の感情を浮かべる。


(自分で選んだなんて言わなくっちゃよかった)

(あーあ、同調を求めてこられなかったら、選び方とか教えてもらえたかもしれないのに)

(余計なことを言わないでほしいわ)


「そうそう、そんな御三方に朗報が一つあってね」

「なんでしょうか?!」

「もうじき、行儀見習いの席が空くと思うの。もしよかったら、リリアンネ様に紹介できるかもしれないと思ってね」


 アプフェリアーネは横へ一歩動き、三人組の視線をツィトローナへと誘導する。


(どういう、こと?…もしかして私はもう…)


 不安そうなツィトローナの表情に、三人組は勝ち誇った笑みを浮かべながら、アプフェリアーネに対して媚びた表情を向ける。


「是非お願いします」

「このご恩は忘れません」

「ありがとうございます」


 礼を伝えた三人組は、ご機嫌な様子で去っていく。

 そして、ツィトローナが見たのは、心底つまらなそうな雰囲気を纏い、呆れの表情を露わにしたアプフェリアーネであった。


「羽虫の群れね」

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