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侯爵家に行儀見習いとして送られた竜人の令嬢は、魔導具作りの夢を捨てたくない  作者: 野干かん


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17話 お茶会 3

 ややぎこちないながらも、訓練の甲斐があり、綺麗な所作で席に向かったツィトローナは、ラプシアの隣に腰を下ろすこととなった。


「初めまして、ゼーゲルマンさん。私はトゥルム子爵家のラプシアと申します。父は騎士団長のベルンハルトで、グラーニア叔母様の姪です」

「私は兄のブルストだ、よろしく」


(返答は焦らず、遅れすぎず。一拍置く)

「…。ご丁寧にありがとうございます、ブルスト・トゥルム様、ラプシア・トゥルム様。その、よろしくお願いします」

「ええ、よろしくお願いしますね」


 おどおどとした態度のツィトローナだが、基本の受け答えは問題ない。

 となれば飲食の所作に意識が移っていく。


(手を卓上に置いて、姿勢を崩さないようにしないと)


 ツィトローナが普段から訓練している所作ということもあり、自然と身体が動いていき、ホッと胸を撫で下ろした。


(ここまで年上に囲まれてちゃ、こうも緊張するか。…よく考えりゃ、ぜ―ゲルマン嬢に年齢が近いガキンチョって、リリアンネ様の周辺にいないよな。シュタインフェステ家のご兄弟の出産に合わせて俺たちを拵えたんだから、当然っちゃ当然だが)


 少しばかりの不憫さを感じたブルストは、気さくな表情を作ってツィトローナに話しかける。


「ゼーゲルマン嬢は、普段どんな勉強を?やはり、シュタインフェステ家での行儀見習いとあれば、大変だろう?」

「さ、算術や歴史、礼儀作法といった淑女に必要な教育を授かっております」

「ほほう、それは立派な。…グラーニア叔母上が教鞭を執ってくれているのだと思うが、大変だろう?」

「いえ…じゃなかった。……はい、少し大変です。けれど学びを得ることは楽しいので、苦になりません」

「勤勉な姿勢は美徳だ。これからの教育が上手く行くことを応援しているよ」

「あ、ありがとうございます」


(なんか、叔母上からの視線が刺さる。……にしても、ゼーゲルマン嬢の方も叔母上を懐いている雰囲気だ。勉強を見てもらった身で言うことでもないが、叔母上は一般的に人から懐かれる為人ひととなりではないし)


 『意外だ』と誰にも聞かれないよう呟いたブルストは、軽食に手を伸ばす。


「私もお話よろしいですか?」

「は、はい」

「父様からなのですけど、ジルベリヒト様の体質を改善するお手伝いをなさったと聞き及びまして、その辺りのお話をお聞きしたいなぁなんて」


 ラプシアの言葉に、会場にいた貴族たちの声のトーンが一つ落ちる。

 反閇へんばいによる魔力放出は、シュタインフェステ家と騎士団でのみ共有される秘匿情報の一つだ。


 そんなことを大っぴらに尋ねるのはよろしくないのだが――


(まさかリリアンネ様からサクラの依頼が来るとは思っていませんでしたが、これもゼーゲルマンさんに必要なことなのでしょうね)


 ――この会場の貴族を用いて情報を発信し、他の場所での質問攻め対策を行う手立てである。

 勿論、その事実を知っているのは、リリアンネとトゥルム家の者のみ。ツィトローナにすら知らされていない。


(情報は命綱ってグラーニア先生が言ってたし、下手に喋りすぎないほうがいい。…けれど、相手の質問を無碍にするのも悪手のはず。自分で決めて話さないと!)


「竜人の祖母が教えてくれた技術で、体内の魔力を放出する魔法があります。それをジルベリヒト様に使ってもらい、自身の身体から魔力を出していただきました。魔力が過剰な状態は、苦しいことなので」

「まあ、竜人の。遠い国には変わった魔法があるのですね」

「そうかもしれませんね」

「ところで、ジルベリヒト様は魔法をお使いなることが難しい、という話なのですけど、どういう仕組みなのでしょう?」

「…根本が違うといいますか、ジルベリヒト様は魔法陣は不得意かもしれませんが、反閇なら問題ありません…たぶん」


 魔力放出以外の魔法…とはいっても身体能力強化しかないのだが、それを教えてない以上、実際にどうなるかは不明である。


「面白いお話をありがとうございます、ゼーゲルマンさん。魔法に詳しいわけではありませんけど、興味はあるのでまたお話しましょうね」

「は、はいっ!」


 トゥルム家の兄妹が話を振ることで、ツィトローナという少女の像がはっきりし始め、貴族たちが接触しようと動き始める。


 シュタインフェステ家の行儀見習いであり、その若さで代筆を任せられるほどの繊細な指を有し、更にはモルゲンレーエラント騎士団の統轄魔法師長エフェウに目を付けられている少女。

 いずれ台頭する可能性のある新芽に、大人たちは興味を示した。


 ツィトローナはあれこれと貴族たちからの質問攻めを受け、所々で失敗しながらも最後まで逃げ出さずに、茶会を乗り切っていった。


―――


「ブルスト、ラプシア」

「なんでしょう、叔母上」

「本日はありがとうございました。…うちの子たちの分まで、苦労を掛けてしまいましたね」


 グラーニアの子供たちが茶会に到着することがなかった。馬車の車軸が壊れて走行不可になり、貸し馬車を借りようとしたのだが、年末である三夏季には需要が多く、運悪く手配ができなかったのである。


「お茶会やなんかに不慣れだけど、まあ本人にやる気がありそうだったからいいんじゃないですか?あの程度の緊張と失敗なら、文句を言うヤツも多くないと思いますし」


 『竜人であることを除けば』と付け加えられた一言に、グラーニアは眉を曇らせた。

 人間の国の、竜人混じり。シュタインフェステ家という後ろ盾があろうと、下世話な噂と嘲笑の肴にはちょうど良い相手であろう。


「ちゃっちゃか侍女なり騎士団なりの進路に、舵取りをしたほうがいいと思いますよ。本人のためにも」


 ブルストの正論は、グラーニアの胸に突き刺さる。


「はぁ…それにしても騎士団ですか」

「大樹林の開拓路を拓けると、統轄魔法師長が欲しがってるんですよ。シュタインフェステ家とやり合う気はないみたいで、侍女にならないなら」

「なるほど。ベルンハルトさんが大変そうですね」

「そりゃもう。騎士団をあれこれ言うと怒られてしまいますんで、俺は失礼します」


 敬礼をしたブルストは、ラプシアと共に屋敷を後にする。


「兄様はどう見ます?」

「特異な眼は兎も角、魔力の方は全然感じなかったな。体内に溜めるって話だけど、俺にゃわかんねえ。…まあジルベリヒト様の恩人なら、相手がガキンチョでも味方ぐらいしてやるさ」

「そうですね」

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