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侯爵家に行儀見習いとして送られた竜人の令嬢は、魔導具作りの夢を捨てたくない  作者: 野干かん


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17話 お茶会 1

「お茶会、ですか…?」

「はい、お茶会です」


 ツィトローナは困ったような表情をしながら、リリアンネの言葉に小さく頷き、『頑張ります』と返事を絞り出した。


「礼儀や茶会での作法を教育という形で学ぶのも重要です。しかし、直接の経験で得られる学びというものもありますから、シュタインフェステ家主催の失敗しても問題ない場所に参加してみましょう」


 現状のツィトローナは、お世辞程度なら褒められるほどの礼儀作法を身につけているのだが、『シュタインフェステ家の行儀見習い』としては残念な仕上がりと言わざるを得ない。

 その自覚もあり、人の多い場に顔を出すと嫌な思いをすることの多かった彼女は、複雑な心境のようだ。


(荒波に揉まれた方が良い時もありますが、まずは小さな波から。出席する方の調整をして…身内で固めてしまうのが無難でしょう)


 スタイレンとジルベリヒトが帰ってきた日。竜人であるツィトローナに騎士が放った、容姿に対する言葉を聞いた反応を覚えている。


(『侍女見習い』に切り替えた方が、ツィトローナさんの安全にも繋がるとは思いますが…努力を欠かさない勤勉な姿を無碍には出来ません。時間がかかってもゆっくりと歩いてもらいましょう)


「安心してください、ツィトローナさん。少し年上になってしまいますが、トゥルム家などの身内といって差し支えない方々しか呼びませんから」

「えっと、お気遣いありがとうございます」

「何ごとも挑戦。前にも言いましたが、失敗できる場所がシュタインフェステ家なので」


(リリアンネ様は優しい人だ。私に出来ると思ってくれているから、その期待に応えないと。…いや、私は期待に応えたい)


「あの!」

「なんでしょう?」

「頑張りますっ」

「応援していますよ、ツィトローナさん」


(13歳、固くなろうと柔らかな枝を伸ばす年頃。大人の役割は剪定でなく、自由に枝を伸ばせる場所を作ることですからね、ふふっ)


 リリアンネは、ツィトローナの成長を楽しみに相好を崩した。


―――


 屋敷の廊下でアプフェリアーネがため息を吐き出す。


「社交の数を少し絞ってはいかがですか?」

「そうした方がいいと、貴女は思うのかしら?」

「……新年に向けたスケジュールが過密となっております。いくつかの招待を足切りして、そちらに注力した方がよろしいかと、私は考えます」

「“今後”に影響がなさそうな家を見繕っておいてちょうだい」

「畏まりました」


 侍女がスケジュールの調整の為に側を離れると、入れ替わるようにツィトローナが姿を見せる。


「アプフェリアーネ様、こんにちは」

「ご機嫌麗しゅう、ツィトローナさん」

「あっ。ご機嫌麗しゅうございます。お茶会からのお帰りですか?」

「ええ、そうよ。なるべく多くの人脈を築くのが目的なの」

「大変ではありませんか?…私は人目につくのが苦手で」

「目的の為なら苦労なんてないわ。魔導具技師でしたっけ?その未来の為の投資だと考えればいいのよ」

「投資ですか?」


 ツィトローナが疑問を口にすると、アプフェリアーネは口端を僅かに持ち上げる。


「もしツィトローナさんが便利な魔導具を設計したとして、それを工房等に持ち込んだところで、工房には工房の仕事があり、新しく人や時間を用意するのは大変なのよ」

「あー…」

「そこで一念発起をし、ご自身の工房を設立するとしましょう。そうした場合、既存の工房とそれらの互助会である組合に新規参入することを伝えなければなりません。これはどの分野でも同等のやり取りが必要と考えてください」

「ちょ、ちょっと待ってください。手帳に書くんで」


 手帳に今の言葉を要約して書き記したツィトローナを見てから、アプフェリアーネは続ける。


「そうした場合、ツィトローナさんに悪意があろうとなかろうと、まずは警戒されるでしょう。どこの誰とも分からない魔導具技師、それも女性。冷やかしとすら思われるかもしれないわ」

「……。」

「そこで重要になるのが、後ろ盾。魔導具工房に資金提供をしていたり、大口の顧客だったりと影響力のある貴族は少なからずいる。そういった相手と懇意になり、口利きをしてもらったり、参入の手助けをしてもらえるようになれば、追いかけている夢の投資になるとは思わないかしら?」

「なるほど…?」

「ゆっくりと考えてちょうだい。貴女にはまだ時間があるのだからね」

「はい。ありがとうございます、アプフェリアーネ様」

「どういたしまして」


 小さく笑みを零したアプフェリアーネは、ツィトローナが手帳をしまうのを待ってから、ゆっくりと優雅に歩き出す。


「実はその、リリアンネ様がお茶会を用意してくださるみたいなんですが…不安で」

「へぇ」


 アプフェリアーネはツィトローナを見定めるような、冷たい冬の瞳を露わにした。


「私も参加してあげましょうか?」

「え、アプフェリアーネ様がですか?」

「そうよ。お茶会に慣れている私が助力するのであれば、気が楽になるのではなくって?」

「……。」


(アプフェリアーネ様はきっと…頼りになる人だ。けれど、リリアンネ様は私に合わせた場所を用意してくれる、そんな言い方だった。だから――)


「最初は自力で、目の前のお茶会を頑張ってみます。リリアンネ様が、アプフェリアーネ様を必要だとおっしゃるのなら、その時はお力をお借りたいですけど、違うなら大丈夫です」

「そう。なら頑張ってね」


(やっぱ面白いわねえ。芯があって、茨の道だろうと進もうとする強情さ。媚び諂わず、自分の意思を持って生きる、こういう子を見るのは楽しいわ)


 アプフェリアーネは、ツィトローナに気が付かれないように、ニタニタと笑みを浮かべる。

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