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侯爵家に行儀見習いとして送られた竜人の令嬢は、魔導具作りの夢を捨てたくない  作者: 野干かん


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16話 聞き取り 1

まずい拙い!遅刻だ遅刻!」


 騎士団本部を一人の騎士が爆走する。


「そんな急いでどうしたんですか、統轄」

「スケジュール管理を誤ってしまってな!シュタインフェステ家からの客人を待たせているのだよ!」

「統轄ー!書類を落としましたよー!」

「第一会議室まで持ってきてくれー!」

「あ、はい」


―――


 ツィトローナは騎士団本部の会議室で椅子に腰掛けながら、人を待っていた。


 何故、彼女が騎士団本部にいるかと言えば、ジルベリヒトの魔力を放出させた魔法『反閇へんばい』の聞き取り調査という名目で足を運んでいた。

 わざわざ詳細を明かす必要がないのだが、先んじて公開した方が後々の処理が楽だということで、侯爵であるスタイレンと侯爵夫人のリリアンネからの提案により今に至る。


 ツィトローナがヴァイリスカと雑談をしていると、ガチャリとドアノブが回り、扉が開かれる。


「やあゼーゲルマン嬢、久しいね。元気しているかな?」

「お久しぶりです。私は毎日元気ですが、その…ジルベリヒト様は騎士団での生活は大変ではありませんか?」

「6年間務めていた王宮騎士団と然程さほど変わりはないよ。宿舎も食堂も完備されているし、大浴場もあるからね」

「そうなんですね。よかったです」


 ツィトローナを守るために悪党を鏖殺おうさつした騎士ジルベリヒト。彼は騎士団に軟禁という処罰を受けている最中である。


「おや?統轄魔法師長は…まだなのかい?」

「早く来てしまったみたいです」

「なるほど、早めの行動は律儀で素晴らしいと私は思うよ。一応のこと、僕も立会という形で同席することになったのだけど、問題はないかな?」

「全然問題ないですっ」

「それは良かった」


 ジルベリヒトは少し離れた位置に腰掛け、統轄魔法師長と呼ばれる人物を待つ。


(少し遅れたかと思ったけど、魔法師長の方が遅れているとはね。いい機会だし、ゼーゲルマン嬢とお喋りでもしよう)



 ジルベリヒトが加わり、三人で雑談を始めてしばらく。会議室の扉が勢いよく開け放たれると、血相を変えた騎士が飛び込んできた。


「すみません!遅れました!理由はこちらのスケジュール管理の不備にあり、如何なる叱責も受ける覚悟がこちらにはあります!」

「だ、大丈夫ですっ。私が早く来ちゃっただけなんで、問題ないです」

「年の暮れも近づく三夏季さんかき、ゼーゲルマン様も忙しい時期でしょう。こちらの都合で日程を指定したのにも関わらずこの体たらく、お詫びの仕様もございません!」

「わわっ、頭を上げてください」


 わたわたと漫才めいたやり取りを始めると、ヴァイリスカから視線を受けたジルベリヒトが咳払いをする。


「…二人とも落ち着こうか」

「はいっ」

「はっ!…って幹部補もおられたのですね」

「当事者なのだから、立ち会いくらいはしないといけないと思ってね」

「ご足労いただきありがとうございます」


 居住まいを正した騎士は、二度三度呼吸をしてから口を開く。


「失礼をいたしました。私はモルゲンレーエラント騎士団の統轄魔法師長、エフェウ・カタラクトケルンと申します」

「シュタインフェステ家に行儀見習いとして滞在している、ゼーゲルマン男爵家のツィトローナです。よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」


 騎士の制服に身を包んだ騎士は、エフェウ・カタラクトケルン。齢は30代半ばなのだが、実年齢よりは若く見えるショートヘアの女性だ。


「いやぁー本当にすみません。しっかりとスケジュールの管理をしていたはずだったのですが、気がついた時には既にお迎えする時間となっておりまして」

「予定とかそんなありませんし、楽しくお喋りをしていたので大丈夫です」

「たははー、それなら良かった」


 エフェウが席に付くと会議室の扉が開かれ、騎士が書類を彼女に手渡しては去っていく。


「では気を取り直して、聞き取り調査を行いたいと思いますが、こちらから強制できることは一切ございません。不都合がございましたら、黙秘してもらっても構いませんし、『次へ』とおっしゃっていただければ指示に従います。御身の立場と意志が何よりも尊重される場だと、お考えください」

「は、はいっ」


(落ち着くと立派な騎士さんだ。…けど何だろう、誰かに似ているような気がするんだよね)


 落ち着いて話すエフェウの容姿に、記憶の中の誰かが釣り針となって引っかかるのだが、時を同じくして彼女の方もツィトローナに対して何か疑問を覚えたようだ。


「ふむ…?」

「どうかなさいましたか?」

「いやその、私の父から魔力の多い方だと伺っていたのですが、そういった雰囲気が無いと思いましてね」

「お父様、ですか?」

「カタラクトケルンに聞き覚えはありませんか?医者をしているのですが」

「あっ、あのお医者様の」

「よかった、ご存知でしたか」


 ツィトローナも世話になった老医。彼の娘がエフェウである。


「治癒魔法の効きが悪いくらいの魔力量だと伺っていましたので、少しばかり身構えていましてね」

「私というか竜人はその、魔力を体内で管理できるといいますか。人間とはちょっと性質が違うんです」

「違うというと?」

「まだ私も詳しくはわからないのですが、人間は常に魔力を放出して体内の魔力を調整しているっぽくて。逆に竜人はそういう機能が弱いみたいで、意図的に排出しているといいますか」

(より人間に近いパパとか兄ちゃん姉ちゃんたちは、常に魔力が出てたけど、婆ちゃんと私は反閇で出す必要があった。…これって何が原因なんだろう?)


 疑問を浮かべたツィトローナは、手帳にサラサラと覚え書きを記す。


「それはどうやって理解したのですか?」

「…。」


 ツィトローナがヴァイリスカとジルベリヒトへ視線を向けると、優しい頷きが返される。問題ない、ということだろう。


「私は魔力を視えるので」


誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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