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侯爵家に行儀見習いとして送られた竜人の令嬢は、魔導具作りの夢を捨てたくない  作者: 野干かん


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1話 ツィトローナ 5

 “私”にとって魔導具とは不思議なものだった。

 なんで魔導具を使うと水が温かくなるのか、なんで魔導具を使うと風が出るのか、考えだせばキリがない。


 大人たちは『そういうものなの』『不思議でもなんでもない』と言うけれど、私にとっては本当に不思議だった。

 だから興味を持ったものに触り、使って、解体し、仕組みを理解していく。


 …まあ、怒られることが多くなったけど、それでも学びがあって、私は自力でシュテルンカビネットを作成した。

 その達成感が、『もっとたくさん作りたい』『誰かを笑顔にする魔導具を作りたい』って根となって伸びていくんだ。


―――


 時を遡り2年ほど前。その頃のゼーゲルマン男爵家では、怒声がよく響いていた。


「私は!魔導具技師になりたいの!魔導具を作りたいの!!」


 叫んでいるのは、今よりも幼いツィトローナ。


「何度言ったら分かるの!魔導具技師なんてのは男のやる仕事で、ツィトリは何処かの家に嫁いで、家を切り盛りしなくちゃいけないの!」

「なんで!?」

「世の中そういうものなの!聞き分けのない子ねェ!」

「うーー!!ママのわからず屋!バカったれ!」

「こら!親になんて口をきくの!!家から追い出すわよ!!」


 ツィトローナは母ラウラへと悪態をつき、踵を返して走り去っていった。


「まったく…上のお兄ちゃんお姉ちゃんたちは、ここまで煩くなかったのに…甘やかしすぎちゃったかしら」


 末っ子ツィトローナの上には五人の兄姉がいる。

 彼らは比較的穏やかな思春期で済み、案外手がかからなかったが故に、中々にトゲトゲしいツィトローナに困り果てていた。


(はぁ…、やっぱりリリアンネ様にお願いするしか…)


 思春期や反抗期となり手に負えなくなった子供。

 彼ら彼女らをどうするかというと、男の子であれば騎士学校、女の子であれば格上の家に行儀見習いとして出すことが定番となっている。


 力や立場で上下関係を学び、伸びる方向の間違った枝を正す。二つの行き先にはそういった意味合いがある。


(最近、ツィトリの噂を聞きつけて、角やら鱗やらを取引したいなんていう馬鹿な輩も現れたし、身の安全のためにも行儀見習いに…。猛反発は必至かしら)


 ラウラは大きなため息を吐き出し、文をしたためるため筆を手に取る。



 家から飛び出したツィトローナは、村を走り抜け漁港の隅っこで膝を抱える。


(全然わかってくれない!なれるかもしれないし、すっごい魔導具を作って皆に楽をさせてあげられるかもしれないじゃん!ママのバーカ!!)


 不貞腐れていると、二人の漁師がツィトローナに近寄ってきて、軽く挨拶をする。


「まーた、ラウラさんと喧嘩したのかい?」

「そう!魔導具技師になりたいだけなのに…」

「魔導具技師になるため、お嬢は王都に行きたいんでしたっけ?」

「うん」


 漁師二人は頬を掻き、困った顔を見せる。


「まあ…ラウラさんもダニエルさんも、お嬢のことを想って言ってるんだと思いますよ?」

「ええ、そうですとも。我が子が可愛くない親なんていないんだから」

「むぅ…」


 味方をしてくれるかも、なんて期待していたツィトローナは、両親を援護する大人二人に対して頬を膨らまし、フグのような顔で抗議する。


「お貴族はお貴族、漁師は漁師、そういうもんじゃないですかね?」

「皆そればっか!もう知らない!」


 ツィトローナはパタパタと走り去っていき、漁師二人は顔を見合わせる。


「お二人も大変だ…」

「んだな。お嬢は竜人の血が濃く現れて、立派な角や鱗がある。だから、変な輩に狙われたらお終いだ」

「上の五人とダニエルさんは全然竜人っぽくないのに、お嬢だけリョーカさんに似ちゃってなぁ」


 ゼーゲルマン家には竜人の血が流れている。

 それはツィトローナの祖母であるリョウカが、浜に流れ着いたことに始まった。


 異国の異種族。

 村人は気味悪がったものの、ツィトローナの祖父が手を差し伸べ、次第に心を通わせてダニエルが生まれることとなった。


 つまりツィトローナには、四分の一しか竜人の血を引いていないのにも関わらず、純血のような姿となってしまっている。


「そういや聞いたか。リョーカさんの墓を掘り起こそうとした他所者がいたらしいぞ」

「聞いた聞いた。墓荒らしなんて頭のおかしい真似するやついるなんて、おっかねえよなぁ」

「お嬢には、何もないと良いんだが…」

「んだなぁ…」


 漁師たちは肩を竦める。



 ゼーゲルマン家のお屋敷…というには少し物足りなさのある家屋。

 その離れに位置する物置小屋にツィトローナが忍び込む。


 その一角は、かび臭く、埃が舞い、お世辞にも綺麗な場所とは言えないが、沢山の瓦落多がらくたと手書きの本が隠されているツィトローナの秘密基地であった。


(よかった、見つかってない。私だって魔導具くらい作れるし…魔法の勉強も、自分でしている。今度パパとママに見せて…)


 必死に組み立てた瓦落多、家の本棚にあった魔法に関する書籍の写本。どれもツィトローナの成果物だが、両親が知ることはない、何故ならば。


(見せたら取り上げられて隠されちゃう。…なんで、ダメなの?)


 ツィトローナは涙を浮かべ、膝を抱えて縮こまる。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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