13話 話し合い 3
「ヴァイナー伯の娘にして、完璧超人なご令嬢アプフェリアーネ・ヴァイナー・オプストホーフェンのお茶会にお越しいただきありがとうございます」
侍女に一席を用意させたアプフェリアーネは、リリアンネやグラーニア、ダニエルにラウラ、そして沈んだ表情のツィトローナを一堂に集めて、演技がかった所作で茶会を始める。
「どういう、ことでしょうか…?」
「そういうのはいいんで黙っててください、説明してあげますから」
ダニエルの言葉をピシャリと止めたアプフェリアーネは、茶と茶菓子が行き渡るのを待って、一同の瞳を覗き込んでから、茶を口にする。
「さて、今回集まってもらったのは他でもありません。ツィトローナさんの未来について話し合う、懇談会を開きたいと考えたからです」
「懇談会ですか」
「はい!必要とあらば行儀見習いの地位を返還し、ツィトローナさんを連れてヴァイナー領に帰りたいと思っている所存です。男爵家の娘一人を引き剥がし、養子にすることなんて難しくありませんから」
「何を――ッ!?」
反論しようとしたラウラは睨めつけ、相手を黙らせたアプフェリアーネは、満面の作り笑いを顔に貼り付ける。
「私はですね、ツィトローナさんを手に入れたら、それはもうデロデロに甘やかして肯定感を養ってもらったら、その才能を私や世間様のために使ってもらいますわ、オホホ」
高笑いをするアプフェリアーネに一同は気圧されつつも、視線は自然とツィトローナに向かっていく。
(さあ、言いたいことを吐き出し、大人たちを蹴飛ばしてしまいましょう!なんて言ってはあげないけれど、ここで一歩を踏み出せないようであれば、貴女は生涯変わることはありません。…大人たちは私が足留めているので、自分の歩みで体当たりでもしなさいな)
アプフェリアーネは、ツィトローナの指先に自身の手を置き、温もりを与えながら言葉を待つ。
「…魔導具技師になりたかったんです。魔導具を作って、誰かを笑顔にしたり、誰かが楽をできるようにしたりして、役に立ちたいんです」
「役に…」
「立ちたい」
ダニエルとラウラは、『役に立ちたい』という言葉を反芻する。
「だから王都に行って魔導具の勉強をしたくて…したかったんですけど。…私はきっと、王都じゃ生きていけないんだなって、思いました。竜人だから、角が生えているから」
その言葉には誘拐事件が関係していることを理解し、侍女や使用人たちが悔しそうに顔をしかめる。
「だから、もういいかなって。…グラーニア家政長がおっしゃってくれた、代筆のお仕事は私に合っている気がしますし、お屋敷でペンを握っているだけなら誰にも迷惑はかけません。そう思ったら、パパとママがお屋敷に来てて、連れ返されるって思ったら、悔しくて…逃げました」
「ゼーゲルマン」
「は、はい」
「以前、いつか話せるかもしれない目標、というのは魔導具技師ということでいいのですか?」
「そうです。…こんな形でごめんなさい」
目を伏せたグラーニアは、眉間に深いシワを刻み込んでからため息を一つ吐き出した。
「はぁー…。いいですか、ツィトローナ・ゼーゲルマン。私は貴女の文字を評価しています。綺麗で精緻で、一定の大きさ、一定の感覚で書き記されるそれらは、どこでも通用する優れた才能です」
「…。」
「――ですが、そんな生半可な覚悟で仕事をされても困ります。ここは王国で名高い三侯爵家が一つ、シュタインフェステ家なのですよ。妥協で敷居を踏ませるわけにはいきません」
「…ごめんなさい」
「謝ってほしいわけではありません!貴女には、貴女の意思で道を選び進んでもらいたい、それが教育者としてツィトローナ・ゼーゲルマンと接したグラーニア・トゥルムの思いなのですよ」
グラーニアは心の底から悔しそうな表情を露わにする。
「落ち着いてください、グラーニア」
「すみません」
「うちの家政長は可愛い教え子ができると、入れ込んじゃう性質みたいなの。大目に見てくださいね」
リリアンネがグラーニアに下がるよう指示を出すと、改めてツィトローナの黄色い瞳を見つめる。
「質問をしてもいいかしら?」
「はい…」
「ツィトローナさんが屋敷にやってきた日、アプフェリアーネさんがこれくらいの魔導具を見つけて、所有者を探していたのだけど、アレはツィトローナさんので良かった?」
「私のです」
「もしかしてだけれど、あの魔導具はツィトローナさんが丹精込めて作った自信作だったりしないかしら」
「…えっと、その」
言い淀んだツィトローナの指先が、アプフェリアーネによって握られる。温かく熱のこもった手は、一歩を踏み出すための力となり、閉ざされかけた唇をこじ開けていく。
「私が、家で作ったものです。壊れた魔導具から部品を集め、色んな魔導具回路を参考にして作りました」
「そんなのどこで作ったの?」
「物置小屋。…手前の棚の下から入れる部屋があるの」
両親はツィトローナの言葉に唖然としていた。
彼女がそういった行動を伝えていなかったこと、そして伝えられない状況を作り出していていたという事実が胸に突き刺さる。
言い争いになるほどに憧れていた魔導具技師。その夢を掴むため、誰にも知られず独りで努力を続けていたのだと、理解した。
ツィトローナが魔導具を製作していたことを明かすと、アプフェリアーネは侍女に指示を出し、部屋のカーテンを閉めてから、シュテルンカビネットを机に置く。
「勝手に持ち運んでしまい、申し訳ございません」
「ごめんなさいね、ツィトローナさん。盗むような真似になってしまったけど、必要だと思ったから用意させたの。大切なものだということは理解しているから、丁重に運搬させたわ」
アプフェリアーネと侍女の行動に驚いたツィトローナだが、責めることはせず小さく頷いて、シュテルンカビネットの準備を始めると、小さな変化が見て取れる。
そう、ツィトローナの瞳には確かな意志が戻ってきているのだ。
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