13話 話し合い 1
『ツィトローナ誘拐事件はジルベリヒトによって解決され、めでたしめでたし』
…とはならず、騎士団に属していながらも独自の判断で動き、事件の主犯格を取り逃がしながら手下を鏖殺したジルベリヒトには、それなりの処分が下されることとなった。
騎士団本部での60日間の軟禁、そして軟禁後は1年の間、監視がつくことになる。
加えて減給等もあるのだが、悪党を切り捨て少女を救ったという事実もあるため、騎士団や領地からの追放のような処分はない。
『やりすぎだから反省しろ』ということだ。
彼にとって最も堪える罰は、『呪われた鏖殺騎士』なんていう通り名が付いてしまったことだろう。
騎士団本部を歩けば、魔力の有無に関わらず誰しもが顔を引き攣らせ、恐れ慄くのだから、気も滅入るというものだ。
さて、この事件の被害者であるツィトローナはと言えば。
―――
事件から二日、ツィトローナは意識を取り戻さず眠り続けていた。
老医曰く『極度のストレスと疲労で寝込んでいるみたいだね、お腹が減れば目を醒ますよ』とのこと。
そんなわけで、シュタインフェステ家の面々が気を揉みながら待っていれば、少しばかり気怠そうにツィトローナが起床する。
「ゼーゲルマン様!良かったぁ…」
「起きなかったらどうしようかと思っていたんですよ?」
寝室に様子を見に来ていた使用人たちは、満面の笑みで喜びを露わにする。
「あの…」
「二日間も眠っていたんですよ」
「お腹は減っていませんか?」
「いきなりだと胃が驚きますし、消化のよいものを用意してもらいましょうね」
忙しなく話しかける使用人二人の姿に、意識を失う前の記憶が蘇ってきて、ツィトローナは飛び起きながら二人の手を握り、怪我がないかを確かめた。
「大丈夫…だったんですか?」
「私は騎士団の救護が間に合いまして」
「こっちはお医者様が駆けつけてくださったので、傷跡も残っていないんですよ」
怪我を負った場所を見せてくる使用人たち。彼女らの言う通り、肌には傷跡のようなものは一切なく、綺麗そのもの。
その姿を見たツィトローナは、脱力しながら笑みを浮かべる。
「無事で良かったです」
「ご心配ありがとうございます」
「使用人のために気を揉んでくれるなんて、ゼーゲルマン様はお優しいですねー」
「当然です。お二人だけでなく、シュタインフェステ家の皆さんは、優しくて素敵ですから」
使用人たちは小っ恥ずかしそうに頬を掻きながら、相好を崩す。
「それはそうとして、ゼーゲルマン様にお説教です」
「えっ」
「もう、なんて無茶なことをしてくれたんですか!いやまあ、中からじゃ分からないのは当然ですけど、外からは私が監視してましたし、騎士団も動いていたんです。ああいう時は、変に動いて身を危険に晒すより、大人しくなっているものなんです!」
「ご、ごめんなさい…。あ…」
事件のことを思い出したツィトローナは、自身の手の平に視線を落として身体を震わせる。
あの時の音と感触がフラッシュバックし、床に血溜まりがあるような感覚に襲われて、床に崩れ落ちる。
「お、落ち着いてくださいゼーゲルマン様。大丈夫です、大丈夫」
「騎士団の話では、ゼーゲルマン様が抵抗した相手は、怪我をしながらも拘束され、収監されたそうです」
「そう、なんですか?」
「ええ」
勿論のこと、『嘘』である。
幼さの残るツィトローナには、誰かを殺めてしまったという結果は耐えられないだろうということで、侯爵であるスタイレンが手を回し、容疑者を一人捕らえたという事実を作り上げた。
そして、ジルベリヒトが『呪われた鏖殺騎士』という悪評を一身に受けることで、誘拐された令嬢のツィトローナには関心が向かないようにしている。
(ゼーゲルマン様に嘘をつくのは心が痛みますが、お心が壊れてしまったら意味がないですし)
(ジルベリヒト様も率先して泥を被りに行きましたねー)
「良かった、と言っていいかはわかりませんが、少し…安心しました」
「血が流れてたじゃないですか、あれめっちゃ鼻血が出てたみたいなんですよねー、あははー」
「悪い夢だった、そう思いましょう」
「そうですそうです、そうしましょう!ね?」
「あっ、はい」
ツィトローナは使用人たちから差し伸べられた手を取り、ベッドに腰掛ける。
「あー、そうだ。まあその、グラーニア家政長からはもう一回くらいお説教をされると思いますが、家政長も心配してたんで真剣に聞いてあげてください」
「分かりました」
お説教という言葉を聞き、気が重くなるツィトローナだったが、それでもグラーニアならばと覚悟を決める。
少しして顔を出したグラーニアは、ここ二日間でやつれていたが、ツィトローナの顔を見れば涙を流して、長い長いお説教をしたのだとか。
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