表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侯爵家に行儀見習いとして送られた竜人の令嬢は、魔導具作りの夢を捨てたくない  作者: 野干かん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/49

12話 夏の月夜 7

 焼けるような痛みを堪えながら、使用人は走る。

 手を引くツィトローナの身体が重くなっていくのを感じ、彼女の頭には警鐘が鳴り響くばかり。


(屋敷までは距離がある、このまま逃げ続けても追いつかれ―――!?)

「…クソ、野郎!」


 追跡と逃亡で酷使した使用人の足には、一本の矢が突き刺さっており、バランスを崩しながら二人は転倒する。


(ここまで、なのか…?せめて、ゼーゲルマン様だけでも守らないと)


 倒れゆく中、使用人はツィトローナを抱きとめ、自身をクッションに道路を転がる。


「手こずらせやがって…。何ぼさっとしてる、さっさと竜人を捕らえて、あの女は殺せ」

「うっす」


 クロスボウを投げ捨てたマルティンは、苛立ちを露わにしながら指示を出す。


「ったく、女子供相手に被害出すなんて、大したことねえのな。報酬金は減らさせてもらうぜ?」

「…裏切るのか?」

「裏切ったのはそっちだろうが、子供相手に一人は伸びて、一人は鏡の向こうに。金さえあれば何でもやるなんて、嘘っぱちじゃねえの。ほら、さっさと仕事しろ仕事」


 マルティンの言葉に怒りを露わにする手下たちだが、今は言い争っている場合じゃないと判断したのか、ツィトローナを捕縛するために足を向ける。


(運の尽きかぁ。ごめんね、ゼーゲルマン様)


 腕を斬り裂かれ、太ももに矢を受けた使用人は、冥い瞳で怯えるツィトローナの頭を撫でてから、最後の力を振り絞って立ち上がる。


「仲良くフニャチンでもしゃぶりあってろよ、インポ野郎共」


(終わり終わり、良い人生だった、かねぇ?)


 マルティンはクロスボウに矢を装填し、一切の遠慮なく引き金を握る指に力を込めた。


 ヒュンと夜を貫いた矢だが、使用人の頭には届くことはなく、宙に描かれた銀色の弧線によって、矢は砕かれる。


「遅い、到着ですねー…」

「すまない」


 使用人が限界を迎え、白目を剥いて意識を失うと、アプフェリアーネの侍女が支えて道路へ横たわらせる。


「お待たせしました、ゼーゲルマン様。銀戈ぎんかのジルベリヒト様がお越しになられた以上、貴女とこの使用人は助かりますよ」

「…え」


 侍女によって差し伸べられた手を、恐る恐る取ったツィトローナは上体を起こし、銀髪の騎士の背に強い安心感を覚える。


「あ、あの、手当をしてください!私のために戦ってくれて」

「お任せくださいませ」


 侍女はマルティンや手下たちに興味を示すことなく、使用人へ応急処置を行っていく。


「向こうは大丈夫そうだし、僕の相手をしてもらおうか」

「モルゲンレーエラント騎士団か、全員で息を合わせて攻撃しろ。じゃないと命はないぞ」

「何人だろうと―――命の保証はできないさ」

「は、―――」


 ジルベリヒトが一歩踏み込んだ瞬間、目にも留まらぬ速さで相手に接近し一太刀に首を刎ね、そのままの流れで二人、三人と処理していく。

 圧倒的な実力を前に手下たちは怯え慄き戦意を失い、武器を捨て降伏をしたのだが、ジルベリヒトは止まることなく手下全員を血の海に沈めた。


「クロスボウの男は…、逃げられたか」

(追ってもいいですが…あの状態のゼーゲルマン嬢を放ってはおけない)


 剣に着いた血を払い、鞘に収めたジルベリヒトはツィトローナの許へと駆け寄り、片膝をついて目線を合わせる。


「ゼーゲルマン嬢…いやツィトローナ嬢。この夜、悪漢を殺めたのはジルベリヒト・モルゲンレーエラント・シュタインフェステだ。そう、記憶していてほしい」

「なに、を?」

「貴女をこんな危険な目に合わせてしまい、そして苦しい思いをさせてしまった責任は僕が背負う。だから安心してほしい、そして何も背負わず生きてほしい」

(この事件を、この状況を招いたのは僕だ。…だから、手を汚してしまったなんて考えないでほしいんだ)


「えっと……もう、よくわかんない、です…」


 困惑しきったツィトローナは、緊張の糸が切れて、そのまま意識を失った。


「ツィトローナ嬢!?大丈夫かい!?え!?ええ!?」

「落ち着いてください、ジルベリヒト様。ゼーゲルマン様にこれといった外傷はありません。…敵を取り逃した以上、増援が来るやもしれませんから、いち早く逃げましょう」

「あ、ああ、分かった」


 侍女が何かしらの魔導具を取り出し、天高く投げつけるとそれは眩い光の玉となり、僅かな間だけ浮かんでいた。


誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ