表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侯爵家に行儀見習いとして送られた竜人の令嬢は、魔導具作りの夢を捨てたくない  作者: 野干かん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/49

12話 夏の月夜 4

(商店が、ない?)


 騎士団からの帰り道、ジルベリヒトがアルツヴェック商会の前を通りかかると、店先はおろか窓から覗く店内にも品物の一切はなく、もぬけの殻である。


(今日、屋敷に訪れるとは聞いていた。それでもこれはおかしくないか…?)


 僅かに考えた後、ドアノブに手をかけた瞬間、背後に人が立つ。


「ジルベリヒト様、緊急事態です」

「君は、オプストホーフェン嬢の」

「はい、侍女です。単刀直入に申し上げますと、アルツヴェック商会の商人らの襲撃を受け、ゼーゲルマン様が誘拐されました」

「なっ!?…いや、騎士団に連絡は?」

「既に使用人を送っているようです。私は単独行動の許可を取り付け、ジルベリヒト様を捜索して言伝を行った次第にございます」

「助かるよ。…騎士団と合流したところで検問に加わるだけ、僕個人で動かなければならないか」

「最も自由に動ける最大戦力、それがジルベリヒト様だと考えております」

「否定はしたいが、それどころではないね。さて、商人たちの行き先に目星は?…見ての通り、商店は既に蛻の殻、踏み入ったところで意味はなさそうだけど」


 ジルベリヒトは扉を叩いて視線を向けるが、返事などあるはずもない。


「事件そのものを見たわけではございませんが、シュタインフェステ家の敷地内に入ることができ、迅速にゼーゲルマン様だけをかどわかした手腕を考えるのであれば、周到な用意を行っていると考えるのが無難でしょう。馬を使い潰す前提の強行移動は考えにくいですし、痕跡が残る以上、追跡は容易でしょう。…ですので」

「そうではなかった場合。…潜伏後に捜索の目が外に向いたタイミングを狙うか、独自のルートを持っているか、どちらにせよ街の中に潜伏する相手を探そうということか」

「はい」


 だがそうは言っても直轄領の領都モルゲンレーエベルクは狭くない。…というよりもヴァールシュ王国と大森林を隔てる防衛拠点であるこの地は、国内でも五本指に入る大都市だ。


「何か手段は?」

「ありますとも。ゼーゲルマン様の私物を用意しましたので、匂いで追跡を行います」

「匂い…?犬でも連れているのかい?」

「いえ、魔法と魔導具にございます」

「そ、そうか。…魔法を使うのなら離れていよう」

「お気遣い感謝します」


(さて、戦力は手に入りましたし、ゼーゲルマン様の匂いを確かめましょうか)

(魔法と魔導具とか言っていた割に、リボンの匂いを嗅いでる)


 スンスンと頻繁に鼻を鳴らし匂いを確かめているのだが、なんともまあ不審な女性である。


「嗅いでみます?」

「いや、いい」

「そうですか、では魔法を使いますね」


 ポケットから紙で巻いたチョークを取り出した侍女は、レンガ舗装の道に文字と記号を書いて魔法陣を構築した。


(投影具を使ってない。…昔ながらの魔法陣というやつかな)

「使える人が少なく、投影具を作る利点がないんですよ」

「えっ、そうなんだな」

(心を読まれた気分だ)


 魔法陣を描き終えた侍女は、腰に着けていたランタンのような魔導具を手に取り、蓋を開けてツィトローナのリボンと柑橘類の乾いた皮を入れてから、インクを一滴垂らす。

 魔導具を片手に下げながら、魔法陣に触れながら魔力を流すと、中に収められたリボンと柑橘の皮に火がついて、黒煙が縄のような形状となり、どこかへと伸びていく。


「行きましょう」

「あ、ああ」

(匂いを嗅いだ意味は…?)


 ジルベリヒトは小さな疑問を浮かべながら、手綱を引いて侍女を追っていく。


―――


「はぁ…はぁ…、しんど」


 建物の屋根の上で息を切らすのは、屋敷から姿を消していたツィトローナ付きの使用人。

 彼女は姿を隠しながら、少し先で止まっている馬車を監視する。


(馬をケチったのか、早めにバテてくれて助かった…。流石に人の脚じゃあキツイね)


 馬車というのはアルツヴェック商会が使用していたもので、荷台に横たわるツィトローナをハンスが抱え、ボロ小屋へと入っていく。


(場所は確認できたけど、このまま離れて見失うのは悪手だよねー。とはいえ私程度じゃ悪漢数人と戦うのは厳しいし…騎士団が通りかかるのを待つ他ない)


 屋根の上で腰を下ろした使用人は、隠して身につけているナイフを取り出すも、この程度では心許こころもとないと肩を落とす。


(無事でいてくださいよ、ゼーゲルマン様。可愛くて素直、そして私たちに優しいご主人サマなんて多くないんだから)


 使用人は屋根に腰を下ろし、ボロ小屋を監視しながら周囲に目を配らせる。


誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ