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侯爵家に行儀見習いとして送られた竜人の令嬢は、魔導具作りの夢を捨てたくない  作者: 野干かん


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12話 夏の月夜 3

 時は流れて夏の中頃、二夏季(にかき)のこと。


 夕暮れ時にアルツヴェック商会の二人は、雇い入れた者と共にシュタインフェステ家の屋敷にやってきていた。


「どうも、アルツヴェック商会のハンスです。ツィトローナ・ゼーゲルマン様から注文のあった商品をお届けに参りました」

「ご苦労さまです。…前回と異なり人数が多いようですが?」

「運び込みには人手がいるものでして。必要であれば屋敷の外で待たせますが?」

「…先ずは品物の確認をしても?」

「ええ、どうぞ」


(この門衛、厄介そうな雰囲気だが、まあなんとかなるだろう)


 門衛は荷馬車の積荷をいくつか開けてみるも、中にはカランコエの鉢植えがあるばかり。不審な品がないと確認してから頷いた。


「問題ありませんね。それではどうぞ」

「ご苦労さまです」


(あっぶねぇ、多めに積荷を用意しといて良かった)


 アルツヴェック商会の面々は門をくぐり、庭を進んでいく。


「後は手筈通りにやれ、いいな」

「うっす」

「マルティンは、…言わなくてもいいか」

「当たり前だろ」


(今回の取引はブルーメンフロール侯爵家、うまく立ち回りゃ一攫千金。その金を足がかりにあいつ(マルティン)とデカい商売をし始めるのもいいな)


 ハンスと名乗った商人は、ツィトローナを糧に未来の展望を描く。


(人売りなんて久々だが、まっ上手くやれるだろう)


―――


「よ、ようこそお越しくださいました。ご足労いただきありがとうございます」


 ほんのりと上擦った声ではあるものの、前回と比べて様になり始めたツィトローナの挨拶に、ハンスたちは慇懃な礼で返す。


「応接室を用意していますので、先ずはそちらへ」

「あーいや、結構な量になってしまったんで、荷馬車で確認してみませんか?」

「そう、ですか。お二人も同行をお願いします」

「はい」

「畏まりました」


 ツィトローナ付きの使用人二人は頷き、後を追っていく。


(余計なもんまで付いてきたが想定内。タイミングは合わせろよ)


 ハンスが周囲に目配せをし、一同は二度瞬きをした。


「この馬車でいいんですか?」

「ええ、そうです。鉢との組み合わせを多めに用意しましてね、好きなものを選んでいただければと考えております」

「そうなんですか。色々とありがとうございます」

「いえいえ、お安い御用ですよ」


 荷馬車のステップを踏むと、ギシッと音が鳴りツィトローナは身構えるも、ステップを踏み砕いてしまうようなことはなく安堵の吐息を漏らした。


「ふぅー…」

「安心してるところ悪いんですがね」

「えっ?」


 ハンスの声に振り返ろうとしたツィトローナは、足元の箱から溢れ出す煙を吸い込み意識が遠のいていく。


「なに、これ…、意識が―――…」


「お嬢様に何をっ!」

「悪いな、コイツは俺たちが有効活用させてもらう。出せ」

「あいよ!」


「クソッ、ゼーゲルマン様を返せ!」


 使用人の一人が一歩踏み込むと、手下の一人がナイフを振るい切りつけ、手首から血が噴き出し彼岸花のように広がっていった。


(私の、せいで…)


 使用人に手を伸ばしたツィトローナだが、意識は暗転し馬車に揺られることとなる。


(この量なら一瞬で落ちるはずだが、効きが悪かったな)

「次は門の突破だ、魔導具を構えろ。…爆破するぞ!」

「おう!」


 手下たちがドナープファイルという爆発の魔導具を脇に構え、正門に近づくと一斉に発射体を撃ち出し正門を派手に爆破した。


「ハハハッ、ドナープファイルは最ッ高だぜ!」

わりぃな門衛、俺たちのが上手だったようだ!」

「なにが起きて―――?」


 アルツヴェック商会の馬車は屋敷の外へと走り去っていく、ツィトローナを乗せて。


―――


「何があったのですか!?」

「…すみません、家政長。ゼーゲルマン様がかどわかされました…」

「貴女も怪我をしているではありませんか!?」


(あの子は…追っていきましたか。正門の方で爆発音がしましたし、怪我人が一人とは限りません。要救助者の回収を重点に行いつつ、騎士団に連絡をし捜索の依頼を出し、それからゼーゲルマンを何としても…)


 グラーニアは屋敷内の使用人たちに指示を出しつつ、拾える情報を最大限集めていく。


「状況は?」

「リリアンネ様。ゼーゲルマンがアルツヴェック商会の者たちに拐かされ、最低でも一人が怪我をしました。騎士団へは人を出しましたが…検問を敷くには時間が足りません。くっ、夜になっては見つかるかどうか…」

「落ち着いてグラーニア。目的がツィトローナさんならば、生きていて綺麗な状態の方が価値があるでしょう?」

「そんな言い方は!?」

「冷静になりなさい、グラーニア。事実は事実として受け入れなくは、混乱するだけですよ」


 深呼吸をしたグラーニアはリリアンネの言葉に頷く。


「…はい」

「結論からいいますと、ツィトローナさんは生きた状態の方が価値があります。ならば犯人が潜伏し、時期を見計らって行動を再開する可能性も否定はできません。私たちはその可能性を軸に追いませんか?」

「畏まりました」


 顔を青ざめさせたグラーニアは、リリアンネの提案を受け入れ、改めて使用人たちへ指示を出す。


「探しますよ、教え子を」

「「はい!」」


―――


「私は役に立たないだろうし、力を貸してあげてちょうだい」

「承知しました」


 アプフェリアーネは自身の侍女に捜索を委ねて、夕日を眺めていた。


「ああ、そうそう。ツィトローナさんなら、インクと柑橘類の匂いがすると思うわよ」

「といいますと?」

「ツィトローナさんはシュタインフェステ家から仕事を請け負っていて、今日も代筆をしていたじゃない。執務室の扉には猫よけの柑橘袋が掛かっているのよ」

「お嬢様も大概ですね」

「何が?」

「何でもありません」


 侍女はアプフェリアーネの指示で駆け出す。

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