12話 夏の月夜 2
「いやぁどうも失礼します」
「ご、ご足労いただきありがとうございます。…おかけになってください」
見るからに緊張しているツィトローナは、自身を訪ねてやってきた商人を応接間に迎え、来客対応の実践をしていた。
相手は商人であり、失敗したところで痛手になりにくい。慣れてきた相手よりも勉強になるとグラーニアが許可を出したのだ。
「お茶の準備をお願いしますっ」
「畏まりました」
使用人に指示を出すツィトローナだが、どこか小動物のようにおっかなびっくりしている様子から、一人前にはまだまだ遠いと感じさせるものがある。
(弱小男爵家からの行儀見習い、どんな逸材かと考えてみたが、角と血肉以外に価値はなさそうな小娘だな)
「…おい、変に意識されても困る。角をジロジロ見るなよ」
「おう」
商人たちは周囲の者に聞かれない程度の声量で会話し、笑顔を取り繕い、制作した資料を取り出す。
「それでは改めてではありますが、私共はジルベリヒト・モルゲンレーエラント・シュタインフェステ様のご紹介に与った、アルツヴェック商会の商会長を務めるハンス。こちらが相方のマルティンと申します」
「丁寧にありがとうございます。ゼーゲルマン家のツィトローナ・ゼーゲルマンです」
「こちらこそどうもありがとうございます。それでは鉢植えのリストを用意いたしましたので、お目通しいただけますでしょうか?」
「はいっ」
ハンスとマルティンと名乗った商人は、笑顔のまま資料を並べていく。
「私共は多種多様な商品を広く扱っていますが、特定の分野に精通しているかと言われれば首を傾げなければいけません。ですので、他の商会を訪ねて回り、祝い事の贈り物として相応しい品々の候補を選定して参りました」
並べられた資料には、植物の名前と特徴、その植物が象徴する意味が書き連ねられている。
視線を動かしていくと、今度は植木鉢も大きさや色といった種類ごとで綺麗に分けられており、仕事のできる商人なのだとツィトローナは納得した。
(植物ってこんないっぱいあるんだ。長寿とか健康を象徴するやつがいいと思うんだけど、そうなると木のほうが主になっちゃうね。リリアンネ様はカランコエが良いっておっしゃっていたけど。……あった!)
「このカランコエってお花がいいなって思うんですけど、いくつかの色を用意してもらうことってできますか?」
「ええ、できますよ。開花時期が秋ごろとなっていますので、お渡しするときには判別が難しいと思いますが、相手方に到着してから開花し、お祝いをしてくれることでしょう」
「えへへ、いいですねっ。じゃあお花はカランコエで、植木鉢は―――」
あれこれと話し合い、カランコエという植物に合う鉢を決定し、商談を終えることとなる。
―
「代金として6000ゴルドラオプをお預かりいたしましたので、こちらが証明書となります」
「よろしくお願いします」
「畏まりました。迅速確実にお届けいたしますので、今しばらくの間お待ちください」
ハンスとマルティンはツィトローナに笑みを向け、品のある礼をして屋敷を後にした。
「はぁー…、貴族サマ相手は疲れるわ」
「まあいい稼ぎになったことだし良しとしよう」
二人は敷地内から出ると、衣服を着崩して、顔に張り付いた笑顔を脱ぎ捨てる。
「んでどうだ?」
ハンスが尋ねるとマルティンは下卑た笑みを浮かべる。
「問題ねえよ。とりあえず何人か捨てられる人材を用意しといて、搬入時に掻っ攫おう」
「品物は一つだけダミーとして用意して、あとは空箱でいいか」
「ああ。むしろ武器と人員に金を当てたほうが確実性が上がるぜ」
「ならそっちの手配は頼む。俺は売りつけられそうな相手を探してくるから、店を畳む準備をしといてくれ」
「あいよー」
商人二人は軽い足取りで裏路地へと姿を消していった。
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