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侯爵家に行儀見習いとして送られた竜人の令嬢は、魔導具作りの夢を捨てたくない  作者: 野干かん


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9話 勇気の象徴と 2

 馬を使用人に預けたジルベリヒトは、紙袋に収めた鉢植えを見て、僅かな緊張を露わにする。


(よく考えたら、女の子に贈り物をすることなんて今までなかった。…こういう時はどう話しかけたらいいのだろうか)


 王女と婚約をしていたジルベリヒトだが、政略的な意味合いが強く、魔力質の影響もあり人と距離を置いていたため、家族以外へ贈り物をしたことがなかった。


(『実は露店で可愛い植物を見つけてね、この前のお礼に』…うーん。『薬のお礼をしたいと思っていてね、この鉢植えを受け取ってもらえるだろうか?』高圧的になっているような気がする)


 紙袋を片手に百面相をしていると、部屋からツィトローナが姿を見せた。


「分からないところを教えていただき、ありがとうございました」

「いえ、分からないことを分からないままにしないのは良いことです。これからも自習を怠らないよう、励んでくださいね」

「はいっ」


 手に持っているのは教本で、グラーニアに頭を下げているところを見るに、わからない箇所を尋ね終えた後であろう。

 満足気な表情をしたツィトローナが、自室へ戻ろうとすると、何かに気が付いたようにジルベリヒトに視線を向けた。


「あっ、こんばんは、ジルベリヒト様」

「ああ、こんばんは。…えっと、グラーニアから勉強を教わっていたのかい?」

「はい。この教本と書庫で読んだ本では、歴史が異なっていまして、どちらが正しいのか気になったんです」

「解釈の変化か、その手の分野ならグラーニアは適任だね」

「グラーニア先生、いえグラーニア家政長には頭が上がりません。…ええっと、その、いつも丁寧に答えてくれますので」


(あのグラーニアに懐いているのか。ゼーゲルマン嬢が特殊なのか、それともグラーニアが丸くなったのか)


 なんて考えつつ、ここ数日を思い出すジルベリヒトだが、グラーニアが丸くなったという感覚はなかったので、ツィトローナとの相性がいいのだと納得する。


(別にグラーニアの事はいいんだよ…このタイムをゼーゲルマン嬢に贈らないと。しかし、急激に話題を変えてしまっていいものか)


「あの、どうかしましたか?…私が変なことを言っちゃったとか?」

「そんなことはない。グラーニアと仲がいいのだと思ってね」

「はい、尊敬できる先生なんですっ」

(グラーニア先生に、リリアンネ様やアプフェリアーネ様、シュタインフェステ家の皆さんにも認めてもらわないと!)


 ジルベリヒトは『羨ましい』と思った。

 自身を救ってくれて、目に映る世界を変えてくれた少女に慕われるグラーニアを。

 それは小さな靄となって、思考の内に広がりを見せる。


(僕はゼーゲルマン嬢からすると、虫のような不快感のある存在だ。あまり近づかないほうが良いことは分かっている。…けれど)


「ゼーゲルマン嬢」

「はいっ!?」

「ゼーゲルマン嬢は僕の魔力を感じ取れてしまうにも関わらず、助けてくれた。その理由を聞きたい」

「私にも勇気があるって思いたかったのかもしれません。…私には夢があります、その夢に向かうための勇気が、あったらいいなって」


(ゼーゲルマン嬢は強い女の子だから、僕を恐れることがないのかもしれない。救ってもらったからこそ、君に恥じない生き方をしなければね)


「先日のお礼として、これを受け取ってほしい」

「鉢植えですか?」

「ああ。タイムという植物で、『勇気』という意味があるらしいよ」

「『勇気』…。ありがとうございますっ、ジルベリヒト様。ヴァイリスカさんに育て方を聞いて、大切にしますね!」

「どういたしまして」


(家族以外の、男の人から贈り物をもらっちゃった!えへへ、あの夜に一歩踏み出して良かったかも)


 飛び跳ねたい気持ちのツィトローナだが、毎日習っている所作を思い出し、ぎこちなさが所々にありながらも慇懃いんぎんと言える礼をジルベリヒトに返す。


「改めて、ありがとうございますっ!」

「ご丁寧にどうも。行儀見習いとしてのこれからを応援しているよ」


 ジルベリヒトが踵を返し自室へと向かうと、反対側へ小走りな足音が響く。


―――


「ヴァイリスカさん!」

「ツィトローナ様、淑女としての振る舞いを思い出しましょう」

「ごめんなさい…」

「ふふっ、嬉しいことがあった時こそ、意識を緩めないようにしないと、気持ちが台無しになってしまいますよ」


 廊下を小走りに駆け寄ってきたツィトローナをいさめつつ、ぴょんと跳ねた彼女の髪を直し、ヴァイリスカは笑みを浮かべる。


「そんなに慌てて何があったのですか?」

「ジルベリヒト様からタイムっていうお花をいただいたんです」

「ジルベリヒト様から、まあ…」

「それで育て方を教えてほしいんですけど、いいですか?」

「うふふ、承知しました。タイムは確か…薬草だと思われるので、庭仕事をする使用人にも言葉をいただきましょうか」

「はいっ」

「では鉢植えは私が預かりますので、ツィトローナ様は夕食に向かう準備を。部屋にいつもの二人がいると思いますので」

「分かりました!」


 鉢植えを受け取ったヴァイリスカは、ツィトローナを見送ってから鉢植えを隅々まであらためる。


(不審な点はありませんし、そのまま育てても問題ありませんね)

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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