8話 東屋のひととき 5
「最後に一つ、本当に恐怖心はないのかい?」
「怖くないです。家に出る虫って不快ですけど、叩き潰せば解決するじゃないですか」
「たたき……まあ恐怖心がないのなら良かったよ」
(魔力のことなど全くわからないし、今のゼーゲルマン嬢からは先ほどのような強烈な魔力を感じ取れない。…魔力には色や形があると言っていたけど、君の魔力は何色でどんな形をしているのだろうか)
(私も誰かの役に立てるんだ。…魔力を抜く方法がヴァールシュ王国にないのなら、そういうところから私を売り込んだほうがいいのかな?)
「あの、ジルベリヒト様」
「なんだい?」
「お医者様もジルベリヒト様の魔力のことがわからないと、あの夜に言ってましたけど、他にも魔力で苦しんでいる人はいるのですか?」
「そういう話はあまり聞かないな。多分だけど、魔力が多いだけなら魔法師になれば解決するんじゃないかな?」
「それもそうですね」
(残念。シュタインフェステ家で認めてもらって、そこから頑張ろっと)
―――
ところ変わって。
ジルベリヒトとツィトローナを監視するグラーニアとヴァイリスカ。
「良い雰囲気ですね、お二人」
「余計なことを考えているのではありませんか?」
「いえいえ、余計なことなんて考えていませんよ」
「それならいいのですが」
ニコニコと笑みを浮かべるだけのヴァイリスカに対し、グラーニアは肩をすくめて呆れを露わにする。
「…しかし、顔を合わせたのは片手で数える程度で、わざわざ密談をするというのは、首を傾げなければいけません」
「そうですねぇー」
「何か知っている口ですか」
「本人が隠したがっているのです。詮索は、品位を欠く行いではありませんか?」
ギロリと睨めつけるグラーニアだが、ヴァイリスカは気にすることもなく、二人の様子を楽しそうに眺めている。
(夜に踊っていた二人。翌日にはジルベリヒト様の体質が変化し、ツィトローナ様がお薬をお贈りになられた。これらに因果がないというのもおかしな話、本人が聞かれたくないことと仰っているのですから、自分から打ち明けてくれるのを待ちましょう)
「我々はリリアンネ様の手足となり、時に自ら考えてシュタインフェステ家に仕えるのみです。待ちましょう、ツィトローナ様は多感なお年頃なのですから」
(ヴァイリスカがこの姿勢ということは、シュタインフェステ家に害がないと思っていいのでしょうが…)
「…導くだけが教育ではありませんからね」
「そういうことです」
膝を付いて笑みを向け合う二人の姿は、シュタインフェステ家に新しい風が吹く、そんな気持ちを起こさせる。
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