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侯爵家に行儀見習いとして送られた竜人の令嬢は、魔導具作りの夢を捨てたくない  作者: 野干かん


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8話 東屋のひととき 4

 別の東屋に移動し、ジルベリヒトとツィトローナが席に着くと、グラーニアとヴァイリスカは距離を置いた位置で、使用人から護衛用の剣を受け取っている。


(そこまでするんだ…)


 行儀見習いという他家の令嬢を預かる立場であり、同時にリリアンネの娘という扱いであるため、必要な警戒である。

 そしてそれはツィトローナだけでなく、未婚の男性であるジルベリヒトも同様。


 『人目につかない場所で、口にするのも憚られることをされました』なんて囁かれた日には、事実はどうあれ話は政治と金に向かってしまう。


「えっと、まずは何から話したらいいかな。歩いている最中に考えとくんだったね」


 あはは、と控えめに笑うジルベリヒトは少しだけ子供っぽくあり、ツィトローナは彼からの配慮を感じ取る。


(良い人、なんだろうなぁ。私もしっかり…話せるようにしないと)


「じゃあ魔法のことなんだけど、僕の身体から魔力を抜いた魔法はどうやって習ったのかな?」

「竜人に伝わる技術で反閇へんばいっていいます。足の動きで魔法陣を作る魔法って考えてもらえば大丈夫です」

「ヘンバイ。聞いたことがないけれど、竜人の技術と言うなら不思議でもないね。海を越えた先の技術か」

「ただ、そのぉー…私が使いやすいように改変しているんで、本物の反閇ってわけでもないんです。陣魔法の基礎を抽出し、反閇にも組み込んでるといいますか。元々の反閇だと、私の魔力を放出するにはやや力不足で、気怠くなることが多かったんです。教えてくれて、手記まで残してくれた祖母には感謝してもしきれないんですけど、ちょっと規格が違って」


「お、おお…?」

「す、すみません!変なことをペラペラと…。何が言いたいかというと、反閇そのものじゃなくって、私が改変したものということです」

(うぅ、つい喋りすぎちゃった…)


「ゼーゲルマン嬢は13歳にして魔法に精通しているのだね。すごいじゃないか」

「いや、そんな、えへへ。…あくまで独学ですし、陣魔法に詳しいわけじゃないんです」

(だから魔導具や魔法の勉強をしに王都に行きたいんだけど…)


 先程までの饒舌さはどこへやら、ツィトローナはすっかり萎れてしまう。


「そのゼーゲルマン嬢の反閇を用いれば、僕も魔法を使えると思っていいのかな?」

「魔力がたくさんあるのに魔法が使えないんですか?」

「ああ。魔法も魔導具も、不思議と暴走したり壊れたりしてしまってね。多分だけど魔力が悪さをしているのだけどね」


 『呪い』という言葉は飲み込みつつ、頬を掻いて曖昧に笑うジルベリヒト。


(魔力があるのに、魔法が使えない。…原因を考えるなら、この不快な魔力だと思うんだけど)


 眼鏡を外したツィトローナは、改めてジルベリヒトの魔力を確かめる。


(他の人では見たことのない靄々(もやもや)の魔力。思えば不思議な動きな気がする)


 ツィトローナの眼が捉える魔力にはいくつかの種類がある。


 ただ身体の周りに溢れている魔力、そして規律正しく身体の周りを漂う魔力だ。

 前者は魔法を扱っていない、魔力の流れを意識したことのない者が多い。

 後者は魔法師のような、魔力の流れを日常的に制御している者に多い。ルースは魔物だが、帯状の魔力が周囲を漂っている。


「なんか変であることは確かなんですけど、人の身体とか魔力について学んだことがないので詳しいことは言えません。ただ…」

「ただ?」

「なんか他の人とは違う魔力の動きをしているんです」

「なるほど。…では何故、ゼーゲルマン嬢の反閇魔法は使えたのだろうか?」

「うーん…関係があるとは言い切れないんですけど、反閇は身体の中の魔力だけを使うからだと思います」

「というと?」

「陣魔法って、身体の中の魔力を魔法陣として外に出し、空気中の魔力に反応させているんです。あっ、それは魔導具も一緒で、魔導具回路の魔力が流れると、空気の魔力と反応して色が変わるんですよ。これがすっごく面白くって色んな人に見てもらいたいんですけど…あー、すみません…」

「…。」


 顎に手を当てたジルベリヒトは、ツィトローナを見据えながらゆっくりと口を開く。


「ゼーゲルマン嬢は、『僕たちに見えない何かを見ている』と思っていいのかな?」

「あ、はい。私は魔力が見えます」

「かなり特異に思えるのだけど、…ご先祖様から譲り受けた力ということでいいかい?」

「多分そうです。祖母も見えてたみたいです、色の違いは分からないと言ってましたが」


(もしかしたら…ゼーゲルマン嬢はとんでもない資質を有しているのではないだろうか?)


「そのことは他に誰が知っているのかな?」

「家族が知っていますけど、家族は見ないみたいなので話半分だと思います。普段は不便なので、祖母が使っていた、この眼鏡で見えなくしているんです」


(そういえばこれって魔導具なのかな?)

(魔具か。…知らない情報が一気に流れ込んできて頭がパンクしそうだ。ここで一旦切り上げて、また今度聞いたほうが良さそうだね)


「ゼーゲルマン嬢、お話をありがとう。また時間を貰ってもいいかな?」

「はい、問題ないです。あっ、でもその、私が魔法を使えることは秘密にしてほしいです。…取り上げられちゃうから」

「取り上げる?誰が?」

「両親です」


(女の子が魔法を使うことを快く思わない家庭があるということか。しかし、この才能は魔法師として騎士団に勤めれば…いや、悪い考えだ、よしておこう)


 頭を振って思考を切り替えたジルベリヒトは、席を立って床に片膝を付ける。


(この娘には誠意を示したい)


「ゼーゲルマン嬢。先日の夜に僕を救ってくれたこと、並びに喉の薬を譲ってくれたことを、心より感謝をしたい。ありがとうございます」

「え、あっ、どういたしまして…。その、また魔力に困ったら教えてください、お手伝いしますので」

「優しい言葉、沁み入るよ」


 ジルベリヒトは満面の笑みをツィトローナに贈った。

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