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侯爵家に行儀見習いとして送られた竜人の令嬢は、魔導具作りの夢を捨てたくない  作者: 野干かん


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8話 東屋のひととき 1

「声が出る。…これであの苦い薬を飲まなくて済むね」


 早朝に目を覚ましたジルベリヒト。

 彼が声を取り戻すには数日間を要し、その間は毎日一つ、例の飴玉が贈られていた。


(正気を疑う味だったけれど、あの薬のおかげか痛みもなく、ただ不便なだけで済んだのは助かった。しっかりとお礼を言わないと)


 使用人を呼んだジルベリヒトは、念のため老医に診てもらうことになり、『あー、全然いいよ。治りが早いねぇ』と言われて診療は終わったとか。



 診療を終えたジルベリヒトは、朝の支度もほどほどに木剣を片手に庭へと出る。

 部屋に隔離され安静にしていた影響か、無性に身体が動かしたくなり、基礎鍛錬で身体をほぐしていく。


(老医が驚いた顔をしていたところを思い出すに、ゼーゲルマン嬢の薬は魔力焼けに適したものだったのだろう。魔力の苦しさを知っていることも加味すると、彼女も僕と同様の体質なのだろうか?)


 しかしながらツィトローナは魔力を身体から出す方法を知っていると思い出し、杞憂なのかと少し寂しさを覚えた。


 鍛錬をしばらく続けていると、ジルベリヒトは一つの足音に気がつく。


「ジルベリヒト様、一本如何でしょうか?」

「ザウロか。いいだろう」


 木剣を片手に礼をするのは、スタイレン侍従を務め、先日にツィトローナのために魔導力車を運転した男性だ。


「懐かしいな。僕が王都に行く前だから、6年も前になるのか」

「そうなりますね。王宮騎士団として務められ、如何に成長したかをお見せくださいませ」

「ああ、手加減はしないさ」


 侍従ザウロは上着を脱ぎ、木剣を構えてジルベリヒトを見据える。


 スタイレンに仕え、ジルベリヒトの成長と苦悩を見てきたザウロは、口端を持ち上げてから一歩踏み出す。


 ザウロが木剣を寝かせ横薙ぎの一撃を繰り出すと、ジルベリヒトは木剣を逆手に持ち替え防御し、相手の空いている胴へと蹴りを叩き込む。


 鋭い蹴撃はザウロの脇を掠める程度だが、ジルベリヒトの攻撃は止むことはなく、肉薄した瞬間に手刀がザウロを捉え、手合わせは終わりを告げる。


「いやはや…王都に向かう前よりも格段に強くなられましたね」

「辞めてしまっては意味がないけどね」

「私共としてはジルベリヒト様がモルゲンレーエラント騎士団にいてくださる方が、心強いのですよ」

「そういってもらえると心が軽くなるよ。ふぅー、湯浴みでもして食事をするよ」

「伝えておきます」

「頼むよ」


 春も終わりに近づき、夏を感じ始める昼前のひととき。

 ジルベリヒトはご機嫌に伸びをして、高く広がる空を眺める。


(空がこんなにも高いと思ったことは初めてじゃないか?)



 ツィトローナは本日の座学を受けるため、ヴァイリスカと共にグラーニアのもとへと向かうのだが、その道すがら床に寝そべるルースを見つけた。

 スネッコという魔物であり、屋敷内に事実が周知されても、誰も騒がずに放し飼い状態が継続中だ。


 基本的には色んな人から微量の魔力を得て生きるための糧にしているのだが、魔力の湧き出る泉のような存在であるツィトローナが現れた結果、彼女を見かけるといの一番で身体を擦り付け魔力を貰っている。


「ゼーゲルマン様はルースさんと一緒に寝ていることがありますが、魔力を吸い取られても問題ないのですか?」

「問題ないですよ。むしろ多いほうが悪影響といいますか、身体が溜め込める以上の魔力があると苦しいんです」

「私はそういった経験がないのですが」

「人間は肌から魔力を発散しているので、困ることはないと思います」


 ツィトローナが円縁の眼鏡を外すと、ヴァイリスカは薄赤色の魔力を纏っている。

 人間種は体内の魔力を自然調整しているため、そういった苦労が少ない種族なのだ。


「ゼーゲルマン様は、玉を吐き出していると聞いたのですが、ご家族も?」

「はい、父や兄姉はみんな爛玉を作ります。ただ、普段は口から吐くんじゃなくて、お腹の中を通って出ていくんです」

「あまりお見かけしないと思いましたが、そういった生理現象なのですね。…これからもゼーゲルマン様のお世話をさせていただく身であります故、そういった竜人と人間の違いを教えていただければ、と考えているのですが?」

「違いですか…」


 腕を組み、難しい表情を露わに考え込むツィトローナ。


「多分、見た目と魔力の放出くらいしか違いはないかと…あっ、鱗は定期的に生え変わりますよ」

「ふふっ、承知いたしました」


 最初と異なり、明るくなり始めたツィトローナに、ヴァイリスカは笑みを浮かべた。


「ヴァイリスカさん」

「なんでしょう?」

「その、ゼーゲルマンじゃなくってツィトローナって呼んでほしいです。えっと、あの、家が嫌ってわけじゃなくって、ヴァイリスカさんとはもっと仲良くしたいなぁって思って」

「光栄です、ツィトローナ様」

「っ!ありがとうございますっ!」

「どういたしまして」


 満面の笑みを咲かせたツィトローナは、ルースを抱えて歩き出す。


 そんな折、廊下の先にジルベリヒトが現れた。

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