表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侯爵家に行儀見習いとして送られた竜人の令嬢は、魔導具作りの夢を捨てたくない  作者: 野干かん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/49

5話 ワタリガラス座の夜に 

 久々に横になった“僕”のベッドは少し狭く感じて、王宮騎士団勤めの長さを改めて実感させられた。

 心に残り続けているのは、『婚約者との婚約解消』と『ゼーゲルマン嬢への接し方の失敗』。


 前者は政治的な都合もあるけど、干戈ぶきばかりを握って彼女を放っておいた僕の責任だ。


 後者は、失敗したなぁ…。

 騎士団勤めの魔法師たちも、僕の呪いに慣れてきていて…油断してしまった。

 この呪いは僕を孤独にするし、誰かが僕を嘲るための材料にしかならない。


 真鍮色の角と鱗、ほとんど見かけない黒い髪色、そして芯の通ったような固い意志を宿した黄色い瞳。


「はて?」


 彼女の瞳は、他の人と違って怯えていなかった気がするし、「足が勝手に動いた」という言葉から嘘を感じなかった。

 …態度はおどおどしている感じだったけど。生まれつきのしるしに悩まされる者同士、仲良くできたらいいな。


「ぐぁっ!」


 く、苦しい、内側から張り裂けそうな痛み。

 …いつもの発作だ。


「はぁ、はぁ、」


 なんだっていうんだ。

 僕は…。



 春の終わりだというのに夜風は冷たい。

 けれど、この冷たさが苦しさと痛みを和らげてくれる。


「はぁ…」


 満天の星空。

 あの星々を繋げたら、なんていう星座になるんだったっけ?

 確か―――。


「あの…、大丈夫ですか?」


 後ろから聞こえてきた声に、僕は驚きつつも振り返る。


 //


「ぅぐっ!?」


 ジルベリヒト様が頭を抱えながら苦しんでいる。

 なんとなくだけど、この不快な感じは魔力なんだと思う。

 そしてあの苦しそうな姿は、私にも経験がある。魔力が身体に溜まりすぎると、暴れ出して苦しくなるんだ。


「苦しそうですね…。身体の中の魔力を逃さないと…眠れないんじゃないですか?」

「できれば…苦労していません。はぁ…、僕も父も、多くの医者を頼り、方法を探していたのですが」

「そうなんですか…?」


 魔力なんて放出すればいいだけだと思うんだけど、…とりあえず見てみよう。


「魔力量は多いけど抜けないほどじゃない、よね。嫌な雰囲気があるし、黒い靄々(もやもや)に見えるけど、でもこれって特殊な何かなのかな?」


 このまま放っといたら大変なことになる、そんな気がする。

 魔法を使えることが気付かれるのは嫌だけど、見捨てるのはもっと嫌だし…昼間の失敗は挽回したいっ。


「魔力を放出するだけなら、可能かもしれません…どうでしょう?」


 私は布を絞るかのように、勇気を出した。


―――


「君は…僕を救ってくれるのか?」

「そんな仰々しいことじゃなくて、魔力を抜くだけです。 もし私が必要でしたら、手を取ってください」


 ツィトローナは両手をジルベリヒトの前へ差し出し、反応を伺う。


「お願い、したい。苦しいのも、怖がられるのも嫌なんだ」


 昼間のことを思い出したジルベリヒトは、ツィトローナの手に触れる寸前、自身の手を引っ込めようとしたのだが、彼女が一歩踏み込み手を固く握る。


「怖くなんてありませんよ」

(この魔力は不快だけど)


「っ!?」

(この子の瞳には嘘がない、気がする)


(婆ちゃんの手記にあった魔力放出の反閇へんばい。普段通りに足を動かすと、ジルベリヒト様からは反転しちゃうから、動きを逆にして…)


「ジルベリヒト様、私の足の動きをよく見て、見た通りに動かしてください」

「…分かりました」


 ツィトローナはゆっくりとした動きで、反閇を刻みジルベリヒトに真似をさせる。

 反閇を知らないジルベリヒトからすれば、意味のないダンスは不思議そのものなのだが、身体を貫かんばかりの痛みが正常な判断を奪っていた影響で、自然と足が動いていく。


「これが一連の動きです。もう一回やりましょう」

「ああ」


(ほんの少しだけど、黒いもやもやが剥がれた。繰り返せば身体が楽になる程度の魔力まで放出できるかな?)


 同じ動きを二度三度と繰り返していくと、ジルベリヒトの身体を支配していた苦痛が軽くなっていき、思考の霧が晴れていくかのようであった。


(綺麗な真鍮の角だ。彼女は確か、ツィトローナ・ゼーゲルマン嬢……誰かと手を取って踊るというのは、こんなにも楽しいものなのか)


 他者から疎まれ、他者を遠ざけていたジルベリヒトは、ツィトローナと手を取り、風変わりなダンスを踊ることを楽しみ始めていく。


(こんなにも身体が楽になったのはいつぶりだろうか。…不調に慣れすぎて日常となっていた、それに気がつくことができるとはね)


「ゼーゲルマン嬢、ありがとう」

「え、あっはい…どういたしまして。楽になりましたか?」

「ああ、心に翼が生えた、そんな気分だ」

「それはよかったです。あと何回か踊ればよく眠れると思いますよ」

「…ありがとう」

「えへへ、どういたしまして」



(黒い靄がだいぶ収まって、不快感もほとんど感じない。 やっぱり魔力が悪さをしていたんだ。…けど、お医者さんでも分からないものなのかな?)


 反閇が終わったと判断したツィトローナが手を離そうとすると、ジルベリヒトが固く握る。


「あの…もう大丈夫かと」

「す、すまない!手を、離したくないと思ってしまってね、いや思いまして!」

「魔力が抜け出て疲れたからだと思いますよ。それじゃあ私は部屋に戻るんで!夜歩きしてたなんて知られたら怒られそうですし!」

「あっ…」


 『待って』と言い終わる前にツィトローナは走り去り、月の見下ろす中庭でジルベリヒトは一人になった。


(ツィトローナ・ゼーゲルマン嬢…)


 ジルベリヒトは手に残っていた温もりを握り、自室へと戻っていく。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ