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侯爵家に行儀見習いとして送られた竜人の令嬢は、魔導具作りの夢を捨てたくない  作者: 野干かん


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4話 ジルベリヒト 2

 [ シュタインフェステ家の屋敷 ]


 スタイレンとジルベリヒトが帰宅すると聞いて数日。

 礼儀作法を重点的に学び続けてきたツィトローナは、グラーニアが眉をひそめる程度の所作になっていた。


(学習意欲はあるのですが、礼儀作法は長い時間を掛けて身体に馴染ませるもの。…この程度ではありますが、十分な成果ともいえましょう)

「時間ですよ、ゼーゲルマン」

「はいっ!」

「…学ぶことは楽しいですか?」

「え?」

「行儀見習いは皆が皆…進んでくるものではありません。何かを学ぶというのは大変なことで、難しいことでもあります。しかし貴女は自らの意思で学習しようという気概が見られたので、確認したかったのです」


(魔導具技師っていう目標がある。私の道を認めてもらうため、魔導具や魔法以外のことをこなして、十分だと言わしめる存在にならないといけない。だから――)


「目標があるから、頑張りたいと思っているんです」

「目標ですか。尋ねても?」

「今はまだ言えません。ですが、リリアンネ様やグラーニア家政長、何れは両親にも認められるよう、頑張りたいんですっ」


 『意外』だとグラーニアは思ったが、同時に『らしい』とも感じた。

 ツィトローナが行儀見習いとしてやってきてから然程時間は経っていないのだが、所々に頑固さや強情さといった芯と我の強さというものを見ていた。


(この姿が本質なのでしょうかね)

「素頓狂な目標でないことを祈っています」

「うっ…」

「直ぐに態度に出さない!そういった隙は自身の立場を追いやるものだと、散々説明いたしましたよね?」

「すみませんっ」


(…グラーニア家政長は何がダメなのかを言ってくれる人だ。勉強でわからないことがあったら、ちゃんと聞くようにしよう)

(反抗期で気性に難があると伺っておりましたが、…落ち着いていますね)


「さて、侯爵様のお出迎えに急ぎましょう。もうすぐ到着するようですから」

「はいっ」



 二人が玄関へと辿り着くと、外には数名の騎士が待機していたのだが、ツィトローナの姿を見ると密々(ひそひそ)と声を発する。

「あの娘の頭、角生えてね?」

「どこですか?」

「ほらあそこの」

「あー、アレが」


 騎士たちは歩いてくるツィトローナを指さし、あれこれと好き勝手に話し始めた。


(…やっぱりこうなるんだ。侯爵家が特別で、居心地がいいだけなんだ)


 ツィトローナは心を枯葉で撫でられるような、チクチクとした不愉快さを感じつつも、表情や態度を崩さないように注意を払う。


「そうだ、竜混じりのゼーゲルマン」

「南部の田舎貴族ですよね。なんでこんなところに?」

「さあ?でもさ、竜人の角って―――」


(悪いことをしているわけじゃないのに、私ばっかりこんな好き勝手に言われなくちゃいけないの。…喉の底が灼けそう)


 取り繕っていた表情が崩れ始め、円縁まるぶち眼鏡の奥の瞳が鋭くなっていく。

 するとツィトローナへの視線を遮るようにリリアンネとアプフェリアーネが立ちはだかり、パチンと扇子を閉じる。


「騎士様方、私の娘になにか?」

「え!?あっ…」

「申し訳ございません!」

「す、すみませんでした!」


 ピシャリと姿勢を正した騎士たちは、居辛そうな表情を露わに、スタイレンとジルベリヒトの到着を待つ。


「この程度で余裕をなくすなんて、もうちょっと忍耐を鍛えたほうがいいのではなくって?」

「…気をつけます。すぅー、はぁ…」

「ええ、他所ではどうなるかわからないもの」


 表情が落ち着き始めたツィトローナを見て、アプフェリアーネは一足先に前から去り、優雅に笑みを浮かべて騎士たちを観察した。


(能力があれば地位に関係なく騎士になれる侯爵領だからこそ、こういった品のない方々が多くなってしまうのね。王宮騎士団とまでは行かなくとも、もうちょっと礼儀作法を仕込んだほうが見栄えもよくなると思うのだけれど)


 『それだけの人員が必要なのだけど』と結論付けて、騎士への興味を手放した。



 ジルベリヒトが魔導力車から降り、実家であるシュタインフェステ家を見上げると、懐かしさと同時に小さな親近感を覚えた。


(なんだろう?なにか…親近感が……消えた?)

「どうかしたのかい?」

「いえ、なにも。もっと忠実まめに帰ってくるべきでしたね」

「まったくだ」


 スタイレンの言葉に、ジルベリヒトが頬を掻き、玄関へと向かって足を進める。


「おかえりなさい、ジル!」

「母上、ただいま戻りました。長く家を開けてしまい、申し訳ないと思うばかりです」

「王宮勤めなのだから仕方ないですよ。ふふっ、身体が引き締まって、お父さんそっくりになってきましたわ」

「…喜んでいいのやら」

「そんな風に言われるとお父さん悲しいなぁ。 戻ったよ、リリアンネ」

「おかえりなさい、あなた」


 家族団欒かぞくだんらんな雰囲気で世間話をしていると、アプフェリアーネが顔を覗かせて笑みを見せる。


「はじめまして、ジルベリヒト様。私は行儀見習いとして滞在している、アプフェリアーネ・ヴァイナー・オプストホーフェンです。以後お見知りおきをお願いしますね」

「お初にお目にかかります、オプストホーフェン嬢。ヴァイナー伯爵領の林檎酒を頂戴したことがあるのですが、清涼感のある飲み口が濃い味のチーズとよく絡み合い、素晴らしいひと時でした」

「まあ、お父様が喜びますわ」


(確か王宮騎士団からは辞職なさっているのよね。なら)


「今後お勤めになる場合でも勧めていただければ、喜ばしい限りですわ、おほほほ」

「ああ、心に留めておくよ」


(行儀見習いはもう一人いるはずだけど…)


 ジルベリヒトが視線を巡らせると、真鍮色の角を生やした少女を、海のような青い瞳に収めた。

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