2話 晩餐 4
「夜間の見回りもありますが、竜人としての御身をお守りするためにも、寝室の鍵を閉めてのご就寝をお願いします。合鍵に関しましては、私共で保管しておりますので、起床時間になったら参ります」
「分かりました」
ニコリと微笑んだヴァイリスカと使用人たちは、ツィトローナの私室を後にした。
「はぁ…」
(今日は大変だった。侯爵家に着いて全然時間が経っていないのに、何日もいたみたいな気分だ)
寝室に向かおうとしたツィトローナだったが、ふと星空を見たくなり窓を開けてバルコニーへ出た。
(私にとっての自由の象徴ワタリガラス座は今日も綺麗。だけど、春は終われば見れなくなっちゃうな)
星に詳しいわけではない。
ただ、ワタリガラスのように自由でありたいと、少女は願って満天の夜空を見上げる。
チリン、チリン。
星を眺めていたツィトローナは、廊下から聞こえる鈴の音に視線を向けて、壁の向こう側をじっと見つめる。
チリン。
鈴の音は扉の前で止まってから、カリカリと控えめな音が響く。
(なんだろう…確かめたほうがいいのかな?)
おっかなびっくり、腰の引けたツィトローナが扉を開けると、真っ黒な毛玉がちょこんと廊下に座っている。
「猫さん、こんばんは。黒色の毛並みは、ルースさん…でしたっけ?」
「くにゃっ」
黒い長毛のもふもふ毛玉はツィトローナの私室に入りこみ、部屋の様子を確かめてから彼女の足に擦りついていく。
(微量だけど魔力が取られてる?この感じって…)
円縁の眼鏡を外したツィトローナが視線を戻せば、澄んだ青緑色の帯が黒猫の周りを漂っている。
「猫さんじゃなくてスネッコだったんだ。お腹いっぱいになるまで魔力を食べてっていいよ、余ってるから」
ルースは喉をゴロゴロと鳴らす。
「ふふっ、可愛い」
(人畜無害な魔物のスネッコさん。人がたくさんいるとこに、ペットとして紛れ込んでいるって話は本当だったんだ)
わしゃわしゃ、と指にまとわりつく長毛を撫でていると、黒猫ルースは満足したようでツィトローナに頬ずりをしてから廊下に戻っていった。
「ふぅ、そろそろ寝なくちゃ。おやすみ、ルースさん」
チリン、と鈴の音が鳴り、黒猫は暗がりを歩く。
寝室に施錠をし、大きなベッドに倒れたツィトローナは、『自分の匂いがしない』と寂しそうに瞳を閉じる。
(魔導具技師になるために、行儀見習いとしての勉強を頑張って、私の実力を認めてもらわなくちゃ)
誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。




