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13話

執務室でレイヴノールは机に向かい、黙々と羽ペンを動かして書類を作成している。次々と積み重なっていく完成した書類をディランが確認し、レイヴノールに声をかける。




「主、仕事がはかどるのはいいが、少し休憩したらどうだ」




レイヴノールは羽ペンを止めず、ふっと笑みを漏らす。




「まさかディランからそんなことを言われる日が来るとはな」




「またナディア様と何かあったのだろう」




レイヴノールはピタッと手を止める。




「向き合わないといけないのだが、勇気が出ない」




「だから仕事に逃げているのか」




「気を紛らわせているだけだ」




また手を動かし始めるレイヴノールに、ディランは小さく溜め息をついた。




「なら、休憩がてら久しぶりに手合わせをするのはどうだ」




レイヴノールは書類から顔を上げ、目を丸くしてディランを見つめた。




「珍しいな、ディランから誘ってくるなんて」




「主が自ら書類に向き合うほど珍しくはない」




レイヴノールは、ははっと笑みをこぼし、椅子から立ち上がって伸びをした。




「師匠からのせっかくの誘いだ。乗らないと申し訳ないな」




レイヴノールはディランと共に邸宅の裏庭にある、レンガ塀で囲われた練武場へ向かった。


アーチ型の門を潜って練武場の中に入ると、ディランは隅の倉庫から木刀を持ってきてレイヴノールに手渡した。向かい合って木刀を構え、レイヴノールはふーっと息を吐いて集中力を高める。ディランをじっと見つめ、木刀を握る手に力を込めた。




「いくぞ」




ディランが頷くと、レイヴノールは芝生を蹴って間合いを詰め、ディランに木刀を振り下ろす。




カーン!




木刀同士のぶつかり合う音が鳴り響く。ディランは簡単に受け止め、腕を振ってレイヴノールの木刀を振り払い、瞬時に間合いを詰めてくる。レイヴノールは後ろに下がるが、ディランの方が速く、腕めがけて振り下ろされる木刀をギリギリで受け止めた。




「くっ!」




じーんと木刀を持つ腕に痺れが走る。容赦なく、次から次へと撃ってくるディランの攻撃を防いではいるものの、レイヴノールはどんどん後退していき、壁際まで下がっていく。




「どうした、書類仕事ばかりで鈍ったか」




涼しい顔で重い打撃を連続で繰り出してくるディランに、レイヴノールは苛立ち、木刀を受け止めて連打を止めた。




「言ってくれるじゃないか!」




レイヴノールは歯を食い縛って木刀を振り下ろした。


ディランはレイヴノールの打撃を受け止めながら、孤児院にいた頃、夜な夜なレイヴノールに剣術の訓練を施していたことを思い出していた。




満月と無数の星が輝く夜空の下、孤児院の裏手にある巨木の前で、棒切れを手に子供の姿のディランが、10歳のレイヴノールへ剣の構え方と姿勢を指導し、レイヴノールは懸命に素振りを続けている。そこへ、木刀を2本持ったケイドリックが現れた。




「ほっ、ほっ、ほっ。毎日、毎日精が出るのう。棒切れでは練習にならないじゃろうから、今日からはこれを使いなされ」




ケイドリックはレイヴノールとディランへ木刀を手渡した。




「先生、ありがとう!」




レイヴノールは目を輝かせて、真新しい木刀を眺め回した。




「ありがたい。これで撃ち合いができる」




ディランは一礼すると、ビュンッと木刀を振り下ろし、構えた。




「ほう。ディランは剣の心得があるのじゃな」




「昔、友人に教えてもらったのだ」




「そうであったか。レイ、良い師匠がいて良かったのう」




「良い師匠、なのか? 厳しすぎるよ」




「ならもっと厳しくしないとな」




「なんでだよ!」




「剣術は精神力を鍛えるためのものだ。主は更に精神を鍛えねばならない。この程度で根を上げてもらっては困る」  




「そんなあ……」




がくっと肩を落とすレイヴノールにケイドリックは微笑みを向けた。




「ほっ、ほっ、ほっ。精進するのじゃな」






あれから15年、幼く、力も弱かったレイヴノールが、いつの間にかディランと互角に渡り合えるほど力をつけた。


ディランにとっては瞬きをするほどの時間だが、レイヴノールにとっては長く、忍耐と苦痛の期間だっただろうと、レイヴノールの打撃を受け流しながらディランは考えた。






ソフィー、セラフィナ、ウンディーネと一緒に、ナディアは庭園の木陰に敷かれたシートの上に座り、サンドイッチやクッキーなどの軽食を広げてピクニック気分を味わっている。




「サプライズパーティー開こうと思ってたのにぃ、ピクニックみたいになっちゃってごめんなさいねぇ」




セラフィナがしゅんと肩を落として謝る。




「いいのよ。私が1日寝込んじゃったせいなんだから。皆とピクニックするの楽しいわよ」




「ナディアのせいじゃないよ! もう二度とここには来ないようにこらしめておいたからね」




「こらしめる?」




「なんでもないのぉ。ホホホホホ」




セラフィナがウンディーネの口を押さえて笑ってごまかした。




「私がついていながらあのような危険なめにあわせてしまうとは、専属侍女失格でございます。どんな罰でも受ける覚悟ですぞ」




ソフィーは地面の上に膝と両手をついて深々と頭を下げた。




「ソフィー、そんなことしなくていいのよ。侍女失格だなんて思ってないわ。罰なんて与えるわけないじゃない」




「しかし!」




「ソフィー、ナディアが困ってるよ。ソフィーのせいでもないからね。むしろ、ソフィーが庭園にいたからナディアを助けられたんじゃん」




ソフィーは勢いよく体を起こして、一瞬でウンディーネの傍に行き、口を押さえた。




「旦那様は運良く助かったって仰ってたけど、ソフィーが助けてくれたのね」




ナディアはソフィーの手をとって微笑んだ。




「ありがとう、ソフィー。おかげで助かったわ」




「私は、ただ、風の力を使っただけで……」




頬を赤く染めたソフィーは、もごもごと呟くようにして言った。




「あのぅ、ナディア様」




セラフィナがソフィーの両肩をぐっと掴んで、ナディアに声をかける。




「どうしたの?」




「レイ様と何かあったのかしらぁ?」




ナディアは体を強張らせ、表情が固まる。




「あったのねぇ」 




「あったんだね」




「あったのですな」




セラフィナ、ウンディーネ、ソフィーが、うんうんと頷いた。




「話すとちょっと複雑なんだけど、今は旦那様と向き合うのが少し怖くて」




「なんですと! やはり主君に何かされたのですな!」




「違うわよ、ソフィー。旦那様じゃなくて、私がしたというか、言ったというか」




「えー? どういうこと?」




「えっと、その……」




「無理に言わなくていいのよぉ。なんとなくだけど、ナディア様とレイ様は、お互いのことをもっとよく知るべきだと思うのよねぇ」




セラフィナに言われ、ナディアははっとする。




「そう、かもしれないわね」




「じゃあさ、デートすればいいんじゃない?」




ウンディーネが声を弾ませる。




「いいわねぇ。明日はちょうど建国祭だしぃ、2人で行ってきたらいいわぁ」




セラフィナが、ふふふと微笑む。




「私は護衛として影ながらついていきますぞ」




「じゃあ、ボクもついていく!」




「だめよぉ、2人きりじゃないと意味ないじゃない。レイ様がいれば大丈夫よぉ」




セラフィナに言われ、ソフィーとウンディーネは言葉に詰まる。




「建国祭の時期なのね。幼い頃、領地のお祭りにお母様と行ったことがあるわ。でも、旦那様と2人きりは緊張しちゃうわね」




「距離を縮めるにはいい機会よぉ。あっ、これ忘れていたわぁ」




セラフィナがピンクのリボンが結ばれている長方形の包みをナディアに渡す。




「これは?」




「ボクとセラフィナで選んだプレゼントだよ。ほんとはサプライズパーティーで渡そうと思ってたんだけどね」




「私とディランの気持ちもこもっていますぞ」




「私に? 私はみんなに何もしてあげられてないのに、もらってもいいの?」




「プレゼントは、何かしてもらったお礼にあげるだけじゃないのよぉ。みんなナディア様のことを心配して、元気になってもらいたくて用意したのぉ」




セラフィナ、ウンディーネ、ソフィーをひとりひとり見つめ、ナディアの胸は温かくなり、目の端にじわっと涙がにじんできた。




「あけて、あけて!」




ワクワクした表情のウンディーネに急かされ、涙を拭う。包みを開けると長方形の箱が出てきて、中には、ガラス製の猫の形のペンダントが2つ入っていた。猫の目には、それぞれ異なる色の宝石が埋め込まれている。ひとつは、レイヴノールの瞳の色に似たブルーサファイアで、もうひとつはナディアの瞳の色に近いピンクローズ。ナディアはピンクローズの目をした猫のペンダントを取り出し、太陽の光にかざした。




「きれい。みんな、ありがとう」




「ナディア様によくお似合いですぞ」




「レイとおそろいなんだよ。後でレイにも渡しに行こう」




「そうしましょうねぇ。ナディア様、おそろいでドレスにつけるのが流行ってるそうよぉ」




「これつけて、レイと一緒に建国祭行ったらいいよ! 今から渡しにいって、明日ナディアと建国祭行ってきてって言いに行こうよ」




「い、今から?」




「いいわねぇ、今すぐ行きましょう」




「練武場の方から、主君と主の気配がする。行きますぞ、ナディア様」




ソフィーは戸惑うナディアの腕をとり、セラフィナ、ウンディーネと共に練武場へ向かった。




練武場の門を潜ると、木刀がぶつかりあう激しい音が響いており、レイヴノールが額から汗を流しながら連打を撃ち込んでいる。


陽の光を受けてレイヴノールの汗が煌めき、真剣な眼差しで木刀を振るう姿が、普段のレイヴノールとは異なって見え、ナディアの胸はドクンと高鳴った。




「ディランとレイが撃ち合ってるの久しぶりに見たよ。レイ、強くなったね。ディラン負けちゃうかも」




「ほう。確かにディランが押されておる」




「レイ様、かっこいいじゃなぁい。ねぇ、ナディア様」




にんまりと笑みを浮かべるセラフィナに言われ、ナディアはレイヴノールを見つめたまま頷いた。




「やあぁぁぁっ!」




カーンッ!




レイヴノールが声を上げ、ディランの木刀を弾き飛ばした。


カラン、カランと木刀が乾いた音を立てて、ナディアの近くに転がってきた。




「まいった」




「はぁ、はぁ。あー、やっぱディランは強いな」




レイヴノールが芝生に倒れ込み、空を見上げる。そこににゅっとウンディーネの顔が現れ、レイヴノールは驚いて起き上がった。




「うわっ! ウンディー? あれ、セラフィナとソフィーに、ナディア嬢!? どうしてここに?」




汗で張り付いたシャツから鍛えられた胸板が透けて見え、目のやり場に困ったナディアは顔を赤らめて俯いた。




「これ、渡しに来たんだ。ボクたち4人からのプレゼント。ナディアとお揃いだよ」




ウンディーネが箱を開けて猫のペンダントをレイヴノールに見せた。




「これを、お前たちが? ありがとう。嬉しいよ」




「レイ様、明日は建国祭でしょう? ナディア様と一緒に行ってきたらぁ?」




セラフィナに言われ、嬉しそうにペンダントを眺めていたレイヴノールはピタッと動きを止め、顔色を窺うようにナディアへ視線を動かした。




「ナディア嬢、どうされますか?」




「え、えっと、旦那様がよろしければ……」




「では、せっかくですし、行きましょうか」




ナディアはレイヴノールから目をそらしたまま、こくんと頷いた。






✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳






太陽の光が降り注ぐ青空の下、カラフルなガーランドがはためいている。道の両側に並んでいる露店の活気ある呼び込みや、行き交う人々の笑いあう声が響き、浮き立つ雰囲気が街中に溢れている。




領民も楽しむ祭りに、貴族、それも今話題のハウゼン男爵夫妻だとわかりやすい格好をしていけば、領民もナディアたちも楽しめないだろうからと、セラフィナが庶民の簡素な服を用意してくれた。白髪を束ねて布製のキャップに入れて髪が目立たないようにし、白い胸元と袖がふわっとした白いブラウスに、腰には黒の太いベルトを巻き、茶色のスカート、ダークブラウンのブーツを履いたナディアは、広場の噴水の前にあるベンチに座った。ドレスの胸元についている、ローズピンクの目をした猫のペンダントを優しく撫でて微笑んだ。




「あの人かっこいい~」




「とんでもない美形じゃない?」




「素敵~。でも、新聞で見たハウゼン男爵に似てない?」




「うーん、確かに男爵も美形だったけど、まさかこんなところにあの格好でいるわけないわよ」




「そうよね」




噴水の周りで、頬を染めた女性たちの囁き声がナディアの耳に入る。ペンダントから顔を上げて露店の方を見ると、ボタンの代わりに胸元に紐がついている質素な白いシャツを着て、少しだぼっとした黒いパンツ、ブラウンのブーツを履き、黒淵のメガネをかけたレイヴノールが、両手に串焼きとベリージュースの入ったコップを2つずつ持ってナディアの方にやってきた。




「お待たせしました」




ベンチにコップを置き、羊肉の串焼を1本ナディアへ手渡す。レイヴノールの胸元には、ナディアとお揃いの猫のペンダントがついている。周りの女性たちはがっかりした様子で去っていった。




「ありがとうございます」




「いえ。にしても、賑わってますね。人が多くて疲れていないですか?」




「はい、大丈夫です。色々なお店を見て回るだけでも楽しくて、ワクワクします。それに、この串焼きもジュースもおいしそうです」




微笑むナディアが光輝いて見え、レイヴノールは心臓を鷲掴みにされる。ナディアが串焼を一口食べると、口の端にタレがつき、レイヴノールは無意識に指でそっとタレを拭った。




「ついてましたよ」




「す、すいません。お見苦しいところを……」




ナディアは顔を赤くして口許を押さえる。




「あっ、失礼しました! 勝手に触れてしまい……」




レイヴノールは無意識にナディアに触れたことが気恥ずかしくなって赤面し、耳まで赤くなった。




「さあ、さあ、建国祭には欠かせない、建国神話の人形劇が始まるよ! 子供も大人もみーんな見てってちょうだいな!」




広場の特設ステージに、人形劇の舞台が設置され、シルクハットを被った黒髭の男が笑顔で手を打ち鳴らし、声を張り上げている。




「見ていきますか?」




「はい。人形劇は初めてなのでぜひ見たいです!」




期待に目を輝かせるナディアを見てレイヴノールは微笑む。2人がステージ前の長椅子に座ると、続々と人が集まってきた。




「さあ、人形劇の時間だよ! サルディーヌ帝国建国神話『女神リディスと賢者エゼキエル』の始まり、始まり~」




観客が拍手すると、人形劇用の小さな舞台の幕が開いて、女神リディスと、3賢人のマーリン・エトヴィル、セリーヌ・ヴァロワ、エゼキエル・ツヴァイアの操り人形が出てきた。




サルディーヌ帝国では、女神リディスと、皇家の祖先であるエゼキエル・ツヴァイアの建国物語が、古より口伝えに語り継がれてきた。








女神リディスは争いや戦いが嫌いで常に平和を求めて神の国を旅していました。しかし神の国はどこも争いが絶えず、リディスは人間界に降りて争いのない平和な国を作ることにしました。




人間界で特別清い心を持つ3賢人、マーリン・エトヴィル、セリーヌ・ヴァロワ、エゼキエル・ツヴァイアにリディスは神の力とそれぞれの土地を分け与えました。


マーリンには炎、水、風、大地の四大精霊を扱う精霊術師の力を、セリーヌには願いや思いを本に記すことで叶う魔本師の力を、そしてエゼキエルには未来を見ることができる先読み師の力を与えました。




しかし、マーリンとセリーヌは与えられた能力を自分の利益の為だけに使うようになり、他の土地を侵略し、リディスの代わりに国を治めたいという欲が出てきたのです。


エゼキエルは先読みの力でマーリンとセリーヌによって争いが起きることを知り、リディスに伝えます。




リディスは涙を流して泣き続け、やがて洪水が起きてエゼキエルの土地を残して全て流してしまいました。マーリン、セリーヌは消え去り、リディスは悲しみのあまり姿を消してしまいました。


残ったエゼキエルは先読みの力を代々ツヴァイ家に受け継いでいき、リディスから与えられた土地サルディーヌを帝国へと発展させていったのです。








「こうして現在のサルディーヌ帝国は、賢者マリーン・ツヴァイから代々先読みの能力が受け継がれてきた皇帝陛下により、他国や災害から守られ、今や世界一の国家へとなったのです」




最後に女神リディスと、マーリン、セリーヌ、エゼキエルの人形が出てきて一礼し、幕が閉じられた。




黒髭男が再びあらわれ、シルクハットを脱いで観客に回していく。




「皆さん、最後までご観覧ありがとうございました! お気持ちをお願いします! この後も建国祭を楽しんでくださ~い!」




黒髭男が恭しくお辞儀をすると、大きな拍手と歓声が起こった。


ナディアも笑顔で熱心に拍手をする。回ってきたシルクハットに銀貨を入れようとするが、そもそも銀貨を一枚も持ってきていないことを思い出し、肩を落とす。レイヴノールがさっと銀貨を投げ入れ、隣の人へ回した。




「行きましょう」




ナディアは気恥ずかしくなり、こくんと頷いてレイヴノールの後について歩いて行った。




飲食の露店以外にも、リディス神や、エゼキエルを模した建国祭ならではのアクセサリーや雑貨の露店も多く、どの店も人で賑わっている。道の両脇にある露店を見ながら歩くナディアは、リディスとエゼキエルのかわいい人形を並べている店に目を奪われている間に、レイヴノールを見失ってしまった。




「どうしましょう、旦那様とはぐれてしまったわ」




周囲を見渡しても高身長のレイヴノールが見えず、右往左往するナディアは、その場にへたりこみたくなる。




「だめよ、ここで弱気になっては。無闇に動くよりも、あそこで待っていれば旦那様に会えるかも」




首を横に振って気持ちを奮い立たせ、噴水の広場に戻ることにした。




レイヴノールと一緒に、串焼きを食べたベンチに座り、通りすぎていく人たちの中にレイヴノールがいないか目をこらして探す。




「お嬢さん、ひとり?」




「オレたちと遊ぼうぜ」 




突然見知らぬ男2人から声をかけられ、ナディアは戸惑う。




「えっと、今はひとりなんですけど、はぐれてしまって、探してるところでして」




「じゃあ、見つかるまで一緒にいようよ」




「そうそう。ひとりだと危ないぜ。オレらと遊びながら探せばいいじゃん」 




男たちはナディアの手を取ってベンチから立たせ、露店の方へ連れていこうとする。




「えっ、ちょっと、待ってください、ここにいた方が」




ナディアが足で踏ん張って抵抗していると、へらへら笑っていた男たちの表情が一瞬にして固まって青ざめていき、ナディアの手を離した。ナディアが悪寒を感じて振り返ると、おどろおどろしい空気をまとったレイヴノールが、悪魔の形相で男たちを睨みつけていた。




「俺の妻に触れるとはいい度胸だな。今すぐ消えろ」




男たちはひいーと情けない悲鳴を上げて走り去った。レイヴノールはナディアの手を両手で包み込み、さっきまでの表情とは打ってかわって表情を緩め、眉を八の字にした。




「ひとりで先に行きすぎてしまいました。怖い思いをさせてしまい、申し訳ないです」




ナディアは、大きくてごつごつしたレイヴノールの手の感触に胸が高鳴り、顔が熱くなる。


レイヴノールはナディアの手を包み込んでいる自分の手を額につけ、「見つかってよかった」と安堵した。




「あ、あの、手を離して、頂けませんか」




恥ずかしさで、顔だけでなく全身が火照ってきたナディアが思いきって言うと、レイヴノールはぱっと手を離し、ゆでダコのように顔を赤らめた。




「し、失礼しました!」




「いえ、ちょっと恥ずかしかっただけで……」




あたふたと赤面する2人を、周囲の人々がくすくす笑いながら通りすぎていく。更に恥ずかしくなり、レイヴノールが頭上を見上げると、いつの間にか空は黄色とオレンジ色に染まっていた。西にいくに連れてトワイライトブルーが濃くなるグラデーションが目に映える。俯いているナディアに視線を移して微笑んだ。




「帰りましょうか」




ナディアは頷き、今度は見失わないようレイヴノールの背中を見て歩くことにした。だが、目の前にレイヴノールの手が差し出される。




「嫌でなければ、手を繋いだ方がはぐれないかと思いまして」




夕陽に照らされたレイヴノールの顔が茜色に染まっている。ナディアはおずおずとレイヴノールの手の上に右手を乗せた。そっと優しく繋がれ、恥ずかしさはあったものの、レイヴノールの温もりが心地よく、心が落ち着くのを感じた。 

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