転生先が農村でしたが、何だかんだで幸せです〜王都編〜
「……リュートさん、来てください! 王都からまた使者が!」
朝、畑のトマトに話しかけていた俺に、ミーナが走ってきた。
「またか……前回、丁重に断ったんだけどな」
あれから数ヶ月。俺の畑は相変わらず絶好調で、村の食卓も豊かになった。植物の声が聞こえるスキルは健在だ。
だが、王都は諦めていなかったらしい。
今回は“王都の貴族領にある庭園の植物が枯れまくっているので、ぜひ助けてほしい”という依頼だった。
「ただの庭園……? いや、それって観賞用じゃ?」
「はい……でも、王家の祝賀会があるらしくて、庭が壊滅状態だとメンツが立たないとか」
めんどくさ……
「……まあ、しゃあないか。植物が困ってるのは見過ごせないしな」
こうして、俺は村の皆に見送られながら、初めて王都へ向かうことになった。
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王都は、とにかくデカかった。
石畳の道、背の高い建物、騒がしい人混み。そして、王家の使者が俺を案内したのは、白亜の城の中庭だった。
「……うわ、マジで全部枯れてる」
バラ、スミレ、ハーブ、芝生、果樹。見事に茶色い。葉はしおれ、幹は割れ、土はカチカチ。
「どうしてこうなった?」
「貴族様の一人が“魔力水”とかいう怪しい液体を撒いたら、全部枯れたそうです……」
「アホか」
『あーあ……もう終わりかな〜』
聞こえてきたのは、地面の奥でかすかに残っていたハーブの声だった。
『根が焼けて、息できないよ……』
「大丈夫。今から助けるからな」
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俺は作業を始めた。
まずは土をふるい、根の死んでいない部分を見つけ出す。そして、有機堆肥をまぜ、水はたっぷり、でも浅く。魔力水の残留成分を取り除くため、活性炭を混ぜる。
「貴族たちは、見た目ばっか気にして根っこを見てないんだ」
俺は植物に語りかけ、土に謝り、慎重に土壌を改善していった。
数時間後。
『……あ、呼吸できる』
『あったかい……水が入ってくる……』
地下から微かな声が聞こえ始める。
次第に庭園の花が、ゆっくりと、だが確実に色を取り戻していった。
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「こ、これは奇跡か……!? 一晩でここまで回復するとは!」
翌朝。貴族たちは目を見開いていた。
完全復活とは言えないが、半分以上の植物が復活し、緑が戻った。中にはつぼみを開きかけている花もあった。
「魔法か? 精霊か? それとも秘術?」
「いや、ただの“対話”ですよ」
俺はスコップを肩に背負い、さらっと言ってやった。
「植物は、生きてる。ちゃんと話を聞けば、教えてくれるんです」
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その功績により、俺は王から褒美として“王国公認庭師”の称号を授かった。
が、正直どうでもいい。
「リュートさん! おかえりなさい!」
村に帰ると、ミーナが満面の笑みで出迎えてくれた。
トマトもピーマンも、こっちの畑の野菜たちはやたら機嫌がよかった。
『浮気してたんだって〜?』
「仕事だよ、仕事」
『でもまあ、王都に比べたらここの土のほうが全然気持ちいいわ』
そう言って、葉っぱたちが心なしかふわっと揺れた。
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「ねえ、リュートさん」
夕暮れ時、ミーナが俺にそっと聞いた。
「もしまた王都から呼ばれたら……行くの?」
「行かないよ。あそこは疲れるし」
「……そっか。よかった」
ミーナは少しだけ笑って、俺の隣に腰を下ろした。
静かな畑、優しい風、話し相手は植物たち。
これ以上、何を望む?
「俺にはこの村と、お前がいればいいんだよ」
そんな言葉は、声に出さず、胸の中にしまっておいた。
次回予告
「リュートさん、結婚って……どう思います?」
村に新しくできた温泉。のんびり癒されるつもりが、ミーナとの距離がぐっと縮まって……?
『転生農夫、温泉を掘る』 近日収穫予定!