第七話 再会と別れ
その後、無意味だと分かっていたが西葉方も襲った…紅亜にばれる可能性も考慮してこれは得策ではないということはゆーのも十分承知していた。
ゆーのはいつもの服…ではなく自作の服を着ていた。ゆーのの家である北雪方の使用人に作らせたわけではない。本当に自分で作った物だ。窓から飛び出す。
西葉方リメイアル重要機密保管庫に向かう。
「ひゅ…」
風の音が切れて伝わる。耳に伝わる音は全て途切れ途切れだった。それほどのスピードを出してなお体は原型を留めている。
「トン」
わずかに靴音を鳴らして屋根の上から降りた・・・。着地とは言えない。それほど自然すぎていた。
ガランとしていて無防備な場。
罠だねぇ、これは。別にぃ、いーんだけどね〜おもしろそーだし。
ゆーのは資料に手をかけコピーしようとする。
ゆーのがいた場所を弾丸が飛ぶ
「っ!?」
「あれ〜?このてーど(程度)なんだ。つまんないの。」
おもちゃで遊ぶのに飽きた子供のような反応。ゆーのに向けて銃を撃った女は焦っていた。それと同時に油断のない顔になった。
「ねえ、泥」
「泥棒じゃない。知りたいことを知るためにぃ、探す、たんきゅーしゃ(探求者)だよ?」
「あら、そう。でも容赦はしないっ!!」
女が声を荒げた。ゆーのの後ろから拳が飛び出るがゆーのは顔をヨコにずらして避ける。
「ん?まぁまぁ面白そーなやついるねー」
男が苛立つ
「余裕ぶるなよ?お前には地獄が待ってるんだからなあ!」
「ん?私は地獄には行かないよ?」
当然のようにはなった言葉
「はぁっ?比喩もわかんねーのか?」
「ププッアハハッ」
狂ったように噴き出し笑う
「ばかじゃん」
ゆーのの輪郭が少し揺らいだ
紅の雨が降った
「っ!」
「やっぱり、気づきはするんだぁ〜。」
男の胸板から血が吹き出した。しかし、浅い。適切な治療をすればすぐにあともなく治る程度。
「んんん?」
どうしてなのかな〜?
「いっ」
「こうすけっ!?」
「コウスケ?」
聞いたこと、あるよーな気もするけど〜
「お前ぇっ」
横目でチラリと男を見、
「まぁ、いっか」
その言葉が発された瞬間ゆーのは白い煙となっていなくなっていた…
同時に黒い車が到着した。
男が急いで出てくる
「あいりっこうすけっ、あいつは!?」
「もう…帰ったよ」
ぶっきらぼうに言った。あいりと呼ばれた女が不機嫌なのは一目瞭然だった。
「そう…か」
後から来た男も不満そうだった
その2日後
「お嬢様、当主様がお呼びです。」
今…?あれ、それに接触禁止みたいなのになってなかったっけ?
「急用ですか?」
「はい。かなり急ぎのようだそうです。」
「わかりました。今行きます。」
はぁー。何でこうなるの?
だだっ広い廊下を歩いていく。
都の大通りをこれぐらい広くすべきだといつも思う。
…これが現実逃避だってことくらい、分かってる。
コンコン
「ゆーのです。お父様。」
「入れ」
「失礼いたします。」
ガタン
フぅ…はぁ…
自分の気持ちに一旦区切りをつけるために息を深く吐いて吸った
そしていつもと同じ顔で言ってやった
「お父様、なんのようでしょうか?」
「ゆーの、私はほN…」
あぁ、ついに、この時が、か
「わかっています。だから、だから、い、言わないで…、くだ…さい。」
本当に、なんで、今更、こんな時に。
一息の間
「なんだ、わかっていたのか。ならいい………私は、お前の親じゃなくなる。」
うん…。でも、
「そ、それは、どういうことなの?お…」
私は、理由がないなら抗議できる
一縷の望みをかけて聞く。
「ですか?お父様。」
「私は、お前のことを知りすぎた。私とそなたの生活が始まるとき、私は疑問に、思ってしまった。なぜ、そなたの親をしなくてはならないのか…と。だが、私の子供は病でいなくなった。それもあり、悪い気はしなかったのも事実だ。そしてそなたの異能を調べた。外見が変わるどころか、何も力を発さないからさすがに病気かなんかにでもかかっているのではないかと心配になってな…まぁそれで調べた結果がこうだ。……別にそなたは、何も思わないのだろう。だが……」
「…そんなこと、言わないで、お父様」
「…」
「…うっぅ。ここまでず、ずっとにいて…いてくれたのに…な、何も、思わないわけっ…ないじゃないですか…」
お父様は、『偽物』であると同時に本物のお父様なのだ、私にとっては…そう。6歳ぐらいの、頃から今のお父様になったのだ。それまでは、ひどかった。詳しく言おうとすればするほど屑という言葉しか頭の中に浮かんでこない。でも…でも…、お父様は違った。はしゃぐ姿もおねだりする姿も真剣に見たり考えたりしてくれて、私のことを受け止めてくれた。そんな、お父様のことが、どうでもいいわけがない。自分でそんな、価値がない、みたいなことを言わないでほしい。
「ゆーの、」
「は、はい…お、お父様。」
「お前は私の自慢の…娘、だ。」
「…」
「お前は、胸を張って生きろ。私は、お前を信じてる。これから、困難な事があるかもしれない。それに苦しい事もあるかもしれない。でも、お前は、切り抜けると信じている。がんばって生きていけ。」
「…」
「がんばれ、ゆーの」
背中に暖かくて大きくて私をやさしく包み込んできてくれた手が置かれた
っ…、おとうさま
「はい」
お父様が、そういうのであれば。
その目は意思で満ち溢れていた。
外で見ているじいの目から涙が出ていた。
「お嬢様…」
なんて私は無力なのだろうか、お嬢様の唯一の願いさえ、叶えて差し上げることができなかった…
「お嬢、様…」
申し訳、ありません…
あなたの御力の正体すら、教えることもできず。
数分、間が開いた。気まずくなったとかそういう理由ではなく、それは心を整理するために必要な時間として。
「ゆーの、お前の力は無限の可能性を秘めている。自分の思いのとおりに世界全部を変えることすら、可能だ。発動条件は、お前が自覚したときと言われている…のだが」
「…?」
「無自覚で発動して中央タワー何度か破壊してたな…」
「え、中央タワーが壊れたのって私の力なの?」
「そうだな」
「怖」
「まぁそういう危険性があるからお前には教えられなかったんだ。少し話が変わるが今の世の中にはリメイアルと呼ばれる超能力を使う者たちがいる。それは全体の98%を締めている。残りの2%は無為と言って、その能力を打ち消すことができる。」
「お父様が能力使っているところ見たことないんだけど、無異ってこと?」
「私は、無異だな。それでお前の能力なんだが」
「話的にリメイアルだと思ったんだけど違うの?」
「違うな。お前はリメイアルでも、無異でもない、たった1人の存在だ。約100年に1度生まれてくる、一世帯にひとりの存在だ。その存在は昔は崇め称えられ、聖女や巫女、神官として神に仕えるものだとされてきた。しかし、3度、その力を扱うその存在は誘拐され悪用もされた。殺人も侵したし、戦争も起こった。」
ふーん。さすがに世界に一人までとは思わなかったし、そんなにすごい力を持ってるとも思わなかったけど、やっぱり『特別』だったんだ。だからって、こんな仕打ちは嫌だ。世界、なんて…
「お前は、これで自由だ。これまで話せなくてすまなかったっ…。」
「いいの」
ゆーのは笑った。
「おとうさん、心配しないで?私、平気だよ。」
まくしたてるように、
「大丈夫。ありがとう。」
自分の悲しみを悟られないように
「おとうさんは、私が知らないことをたくさん教えてくれた。そして、最後にはとても知りたかったことを教えてくれた。」
言葉を重ねた
「だから、大丈夫、平気だよ。」
最後は自分に言い聞かせるように。
「ありがとう。」
そう言って、ゆーのは当主に抱きついて、でも、それは一瞬のことで。
すぐに離れて、出ていった。
次の日、どこにいっても、お父さんの姿はなかった。家からすでに消えたのだ。これまでの奴らと、同様に。
ゆーのは頭の何かがはち切れるような、そんななにかを感じた。
ゆーの自身はさして問題もなかったように感じていた、がメイドたちは違った。強大な、神を前にしたかのような、畏怖する感覚に襲われていた。じぃだけは何も問題がないような涼しい顔をしていつも通り、仕事をしていた。
中央タワー
中央タワーはゆっくりと、崩壊していた。
卑劣であったり、悪劣な人間や、偉い人間がいる場所も善良であったり、誠実であったりする人間達も等しく見るも無惨な亡き人へと姿を変えていた。
運よく生き残った人間どももその心に深い傷を残すことになった
「なんで、こんなことになってるわけ?」
少年2人と1人の少女もその運がよかった部類の人間だ。あるいはもっと違う理由があるのかもしれないが。
中央タワーの一部が原因不明の消失をするようになってから三人は中央タワー付近の役人しか住めない高級住宅のうちの一つを借りて寝泊まりしていた。
「最近は暴走が多いな。」
「そーいや、今日死刑囚が地下に来るらしいぜ。」
「それはとてもきな臭い。」
「その死刑囚、罪人じゃなくてなんかやらされてて孤独の存在サマのお気に入りになってたんじゃないの?」
「見に行ってみるかー」
「そうだな…」
そういうと3人は地下へ向かった。運が良いのか悪いのか、地下は全く崩落していなく普通に階段を降りることができた。
「えーと、ここだ!」
そういうとゆうきがその男に声をかける
「こんにちは」
「やぁ……!?君は…ゆうき君かい?」
「なんで僕の名を…?」
「ねえ、この人、ゆーののお父さんのカルアさんだよ!」
「え、」
「あの北雪方の当主!?」
「あぁ、いかにも…と言いたいところなんだが、ついに昨日、ゆーのの父親じゃなくなってしまったんだ。君たちに会えてよかったよ。ゆーののことをよろしく頼むね。」
は?
3人の心の中はそれだけだった。なぜなら、この男…ゆーのの父親であるカルア(仮)を信じるならゆーのは生きている、ということだから。
「ね、ねえ、カルアさん、ゆーのって、生きてるの?」
「?…死んでるわけないじゃないか。」
「う、そ…」
「まさか、こういうことだったなんて…」
「ちっ、あいつら俺らに嘘つきやがったな…。」
「こんな簡単な嘘に騙されてたの…?私たち」
いやな予感がした。もしかしたら、と思ってしまったのだ。ゆーのならやりかねないし、やれる実力を持っている。じゃあ、とゆうきは聞く
「あ…、カルアさん、リメイアル重要機密保管庫を襲撃していたのは」
「ゆーのだよ…」
「そんなぁっ!」
三人は一度ゆーのを殺そうとしてしまったのだから
「とにかく、ゆーののところへ行こう」
三人が後ろを振り向き向かおうとすると
「そんな簡単に行かせるわけないじゃない」
「っ、お前はっ」
三人を騙して連れてきたこの悲劇の元凶、
「私のこと、忘れちゃったの?」
ゆーのの母だった
北雪方 ゆーの視点
「はぁ…はぁ…はぁ………、何、が起きて…るの?」
この前のあのときの何十倍もの疲労感がゆーのを襲っていた。体が全く動かないどころか、声を一言発するのにも体力を奪われる。
メイドを呼ばなきゃ…
「じぃ…」
そう思っていたのに出てきた名前はじぃだった
なんで…?
すると十秒もたたないうちに、ドアをノックする音が聞こえた。
コンコン
「はぁ…はぁはぁ」
「お嬢様、入りますね…お嬢様っ!」
焦る声
「大丈夫ですか、お嬢様、意識はありますか?」
「え、えぇ」
「良かったです。…非常に言いにくいのですが、中央タワーが崩壊しました。」
「お父さんっ…」
さっきの声とは段違いによく響く声が放たれた。しかし…
くる…しい
「ゲボッ…ガッ………はぁ、はぁ」
「お嬢様っ…御当主様、カルア様はご無事です。」
「よかっ…た」
それは声としてカウントしていいのかすら判らなく、空気と言われても過言ではない…それほど微量な声だったが、長年仕えてきたじぃにははっきりと言っていいほどきちんと聞こえていた。ゆーのはその言葉を最後に気絶した。
「お嬢様、私は残りの片づけをしてきます。」
鬼は出るときそう一言呟いて静かに出ていった
鬼は殺気を振りまいていた。殺気で人を殺せそうなほどに。およそ人ではないスピードで中央タワーへ走る。彼の前に立ちはだかる数々のセキュリティは意味をなさない。壊れてるわけでもないのに反応しないのだ。鬼は微笑む
リメイアルでも、無異でもなくてよかったと
そう、鬼は鬼なのだ。なんの才能もなかった…いや、現代人が当たり前に使える能力が欠如していた。才能なんて大それたものじゃないのに。
そんなじぃを拾ったのは当時、少し偉い地位にいたとある男だった。
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