第五話 愉快なゲーム
夢の中(???視点)
「ゆーの……」
「なに?」
この頃のゆーのは私達に向かっているときはよく笑って、心から楽しそうにしてくれる。うれしいな。ホントに。でも……いつか、彼女とは離れてしまうのだろう。こんなこと、想像したくもないけど…
しょうがない。いや、しょうがなくなんて、ない。
そのためにあの二人が今、調べてくれてるんだから。
これを日常を当たり前にするために。気持ちを切り替えなきゃ。
「今日は何する?○○と○○は、まだだって。」
「そうなんだ…それじゃあ、ブランコ、乗ろう?どっちが先に高いところまで行くのかを勝負しよ。」
「うん!」
この頃は、彼女から提案してくれるようになった。うん…せめて、私達が離れてもこの笑顔を絶やさずに要られる方法はないのかな。私達ができることは、もう……
「どーしたの?○○?」
「あぁ、ごめんね、じゃあやろう。」
今だけでも、今だけでも…守ろう。この輝かしい笑顔を、この、彼女の…
「ゆーの!」
汗が体中から出ている。腕を手で抱えて震えている自分を抑えた。
あれ?なんでこんな懐かしい夢を…。
ゆーの、なんで…無事でいてほしかった。まさか、まさか、『死ぬ』とは思わなかった…。
ベッドから降りて壁一面が遮光ガラスとなっている壁をヘッドフォンから操作して光が入るようにする。空は明るく、曇りない青空だった。
そして、普通のガラスとなった窓から景色を見下ろす。
この、憎々しい中央タワーの上層から。
(ゆーの視点)
「あれ?○○、遅かったじゃない。」
「しょうがないだろ…」
「ねぇ、やっぱりやっぱり、いなくなっちゃうの?ねぇ、他の二人みたいに、いなくなっちゃうの?やめてよ。わたし、また、一人になっちゃうじゃない。」
泣きじゃくりながら懇願するように言う私。
第三者目線から見るとただの子供の傲慢なわがままのようにも見えてしまうが、ゆーのにとってはこれほど切実な問題はなかった
「ごめん…」
絞り出すような彼の声。それが今では懐かしく感じる。もう、聞けない声。
「どうして…どうして!」
彼が急に私の手を勢いよく掴んだ。
こんな会話が、この世界の片隅に存在してたんだ…
「あの、中央タワーの上にいる偉い奴らが決めたことなんだ。僕達じゃ…」
悲しそうな顔
私から消え、存在が消え、もう跡形もなくなってしまったであろうこの小さな世界は
「わたし、わたしは、どうすれば…」
たしかに存在していたのだ。
「はい、コレ」
「…?」
私に急に包を差し出してきた。
なんだろ、あれ。ん?あれって、私が潜入したときに使ってる…?
「今の俺らからの最後のプレゼント。また、会おうな。」
「ゆうき!」
ゆうき…?ゆうき、ていった?私が、なんで?名前、聞こえたかったのに?てか、あの服は、
「バイバイ、プリンセス。」
画面の外から見ていたような感覚だったが思わず止めなきゃ、と思った。
話が聞きたいと思った。
「まって!」
まだ、見ていたい、いなくならないで!
その懇願の言葉はむなしく現実世界に響くばかりだった。
バタン!
それと同時に勢いよく開け放たれる私室のトビラ。
「お嬢様、どうかなさいました!?」
焦って周りを見渡す黒髪の美しいメイド
「いえ、ただ昔の夢を見てしまって。だから、大丈夫よ。」
安心させるように言ったつもりが、声が震えてしまった。
「わかりました…。」
それでも、出て行ってくれた
バタン
ゆうき?だれだ?あの男の子は。でも、トモダチ?だったのかな。きっとそうなんだろうけどやっぱり覚えてない。
チリリリリリーン。
「はい、お嬢様。」
「今すぐお父様にアポイントメントを」
「かしこまりました。」
これで、謎が解けるはず。
メイドお仕事は今回も早かった。十秒もたたないうちに部屋に戻ってきた。
「今夜の8時30分でだそうです。」
「わかったわ」
彼女は輝夜満月。私の専属メイドの一人。メイドとしてじゃなくても、他の仕事で幹部になれるぐらいのスペックがある。そんな計算や世渡りが得意な私の自慢のメイドでもある。何度かお見合があったそうだけど、全て断ったらしい。
「夕食は何にいたしますか?」
「…?あれ、出してくれるのではないの?」
「実は、料理長が『文句あるならセレクトしろ!』とお怒りで。」
「そういうことですか…」
少し意地悪してやろう、と思ってしまった
昨日それでゲーム類を一式とられたというのに自分は懲りないなぁと思いつつ数百年前の料理の本の内容を思い出す。
確か、カタツムリを食べるようなものがあったわよね。…あれって本当においしいのかしら…
「エスカルゴとフォカッチャ。それに牛肉のタリアータ、シーザーサラダ。」
「わかりました。」
輝夜はそのまま、扉を開けうやうやしくお辞儀をすると急いでキッチンへむかっていった。
「ファイト、料理長。」
ゆうき…か。そういや、前の夢にも出てきてたな。そこにはあと女の子ともうひとり男子がいた気がするけど…。私の発した言葉的に引っ越してしまったらしい。これは多分これまでの人たちと一緒だな。
「お嬢様、できましたよ〜。」
「ありがとう。」
どうやら、少し考えるのに結構な時間がかかっていたらしい。
「現在時刻は7時30分です。」
1時間後ね。
「わかったわ。」
「ごちそうさまでした。」
さて、うん!いい時間
行きますか。
長い廊下をゆーのは歩く。別邸から本邸まではそこそこ距離がある。食後の運動がてら少し早歩きで向かう。
あの大きな扉の前についた。
一呼吸おいてからノックした。
コンコン
「誰だ?」
「ゆーのです。」
「入れ」
ガチャ
「しつれいします。」
「やっときたか…。で、何用だ?」
威厳はあるにはあったが甘やかすような声だった
「夢でゆうきとかいう人物にあったのですが」
「やめろ」
「え……?」
「それらに関わってはいけない。」
かたく、絞り出すように出された声。
「では、その関連についてっ!」
「だめだ」
「そう…ですか。貴重な時間を無駄にしてしまい申し訳ありません。ありがとうございました。」
ゆーのは父親の顔を見ることすらなく身をひるがえし部屋から出て行った。
ガチャ
ドアに背を向け寄りかかる。
「ギリッ」
歯を噛む音が響く。キュッ、と強く握られた手のひらは爪の跡が痛々しく刻まれている。
「なんでよ…。」
束の間、同じ体勢のあと彼女は自分の部屋に向かって歩き始めた。
その貌には笑みが浮かべられていた
いつもの冷静沈着な天使のほほえみではない。
子供が浮かべるような無邪気な笑み
地獄の底からそれは嗤い架けに来た。
父?視点
「ゆーの…」
今、私は怒っている。無力な自分に。私がゆーのの父親となったとき、幼なじみの友達が3人いた。その子達は、ゆうき、こうすけ、そしてあいりだったはずだ。ゆーのはいつも、愛想笑いをしていた。まぁ、あの感じだと無意識みたいで本人は気づいてなさそうなのだが。彼ら彼女の前だけでは本当の笑顔をみせていてとてもかわいかったなぁ…と、いかんいかん。仮にも北雪家の主人だ。それに特別警戒されていて監視もされているからな…ロクに調べ物をすることもできないわ。また、暴れ始めるのか。
傲慢な夜の姫が
主人公w視点
これでいいかなぁ?
ゆーのは1つの衣装に着替えていた。昔、誰かにもらったものだ。多分、夢が現実ならゆうきたちだろう
ゆーのは自分が色々なことを忘れているという事実はもうとっくの昔に解っている。だからそれを思い出すための手がかりを知りたいのだ。でも一番の情報源である父はあの通りだった。なら、自分で調べにいけばいい。そう思うのには時間がかからなかった。
ゆーのは窓に手をかけ身を乗り出す。
「愉快なゲームの始まりぃ♪」
数十分後、
ビービーービービーー
けたたましい警報が鳴り響く。と、同時に機械音声が響く。
「侵入者、侵入者、直ちに警備員を…」
機械が発せたのはそこまでだった。なにかが機械を真っ二つにした。
「つまぁんなぁいの。弱っちい機械。」
すでに突破された赤外線レーザーがむなしく点滅し、壊された機械から煙が上がる中、少女の体格ではもてなさそうな刀を持ち、その姿からは想像できないような幼く残虐的な声が響く。まるで少女の心が凍って…いや、体の芯から淡々と仕事をこなす機械になってしまったかのようだった。
機械との唯一の違いは少女が自分のためにやっている、その事実だけだった。そして、彼女の後ろにつく闇もまた揺らめく。
まるで少女を見守るように
館 父?視点
「だ、旦那様!」
飛び込んで入ってきたのは一人のメイドだった。
「どうした?」
「あっ、」
自らの失態に気づき、廊下に戻って入り直そうとした。
「戻らなくていい。で、どうしたんだ?」
「東花方のリメイアル重要機密保管庫が何者かに襲撃されました!」
「東花方が…か。まぁ、うちも入られたしいつかは…とは思っていたが…」
「ま、まさかあの一番警備の厳重な東花方がやられるとは梅雨ほど思っていませんでした。」
「南海方と西葉方もやられるのも時間の問題か…」
ゆーのも困ったもんだ。後始末が大変だな
「忙しくなりそうだ。」
「はい、そうですね。」
「毎度毎度すまんな。」
「いえ、仕事ですし。」
少しの間の後、彼女は言葉を紡ぐ。
「たのしいですから。」
無邪気に笑うその顔は当主であるカルアを安心させた。幼なじみは今も何ら変わらなかった。
「で、当主様?流石に終わってますよねえ、この前サボったあの仕事。」
あぁ、われの平穏はいつ現れるのか。
「いや、やるのを忘れてたなぁ、誰か手伝ってくれないかな?」
わざとらしく彼女を見るのを忘れない。
「はぁ…仕方ないですね。」
「おぉ、ありがとう。」
「わざとらしい…(小声)この調子だと御当主様は明日から一ヶ月休み無しですね…」
「もちろん!て、休み無しだと!?」
「もちろん頑張っていただきますから。」
「それはないだろう、クレイナ!」
「今ここに存在しているのです、その事実が。だからないと思ってもあるのです。」
ないからある?ないのないだからあるのか?
「さあ、やりましょう。と、う、しゅ、様」
蛇に睨まれた蛙とはこういう気持ちなんだな。
「はい。では…」
無言を肯定だと受け取ったのかすぐさま計画を立てていく。
っ!クレイナはやはり強い…
ゆーの視点w
「う~ん、やっぱりココにもないんだぁ」
まぁ、あの3人が調べられなかったことがココにあるなんて思ってないけどね。
ゆーのは意味もなく彼らを信用していた。
「…寂しいよぉ」
無意識に自分が発言した言葉の意味に気づき、すぐさま顔を変える
刀をカチャリと鞘に納めた
「あれぇ、私としたことが…もう用済みだよ、バイバイ、地に消えてね?」
彼女が去った東花方桜夜宵は紅蓮に包まれていた。
(父?視点)
「当主様!!!」
「何だ?セバス」
「東花方桜夜宵が焼けました。」
「焼けた!?」
いつもの余裕そうな表情はどこに行ったのか、クレイナの顔は驚愕に満ちていた
「暴挙に入ったか…」
「『違和感を感じた直後に燃えていた』などの通報が何件がありました。」
「そうか…」
「クレイナ、大丈夫ですか?」
「…。」
クレイナは呆然としていた。口は辛うじて閉じていたが、パクパクしていてもおかしくないような状態だった。
無理もない。東花方桜夜宵、もとい東花方リメイアル最重要機密保管庫のある、東花方は彼女の実家があり、彼女の父親がそこの所長を務めているのだから。
「クレイナ?」
「…っ?!す、すみません、当主様。執事長にも。ご不安をかけてしまい申し訳ございませんでいた。」
「いいんだ。それほどのことだった。」
「2日の休みを与えます、Ms.クレイナ。」
執事長の言った言葉の意味がわからず、でもすぐに理解し慌てた様子で返答した。
「い、いえ。大丈夫です、執事長。わ、私はこの通り大丈夫ですので、当主様と一緒に雑務などを行いますので。」
「安心してくれ。2日の休みをクレイナに言い渡す。」
「かしこまり…いえ、遠慮させていただきます。」
「受けなさい。」
「……はい。」
クレイナは、不満ダダ漏れでうなずくように答えた。
「あやつは忠実すぎるな」
「忠実というよりは…」
「どうした?」
「いえ…それよりもどうしますか?こちらの北雪方が無傷でしたから怪しまれる可能性も」
「はぁ…大丈夫だろう…多分」
「そうですね…」
やはり、大変だな。当主というものは…
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