第三話 嘘つきには罰を
ガタン
扉を雑に閉めてゆーのは歩き出した。
ゆっくり歩いていこう。
「お嬢様、早くなさってください」
わざと遅く歩いているのが靴音が響くこの廊下のせいで気付いたのか、メイドはゆーのを慇懃無礼に急かした。
なんでこんな時に限って。少しくらいゆっくり歩かせてほしいものだ
「わかりましたわ」
足音によりいらだちを隠せないゆーの
階段の下りる音もよくもまぁこんなに響くもので。と、皮肉交じりにコメントする。
あの玄関前にあった大きな階段より少し小さい階段をゆっくりと、降りていく。
そこから少しすると浴場がある。
ガチャリ
「着きました。」
「お嬢様、どうぞ」
ピン!
漫画だったら頭の上に『!』のマークが飛び出ているだろう。それ程、直感的なものだった。しかし、ゆーのの勘は違和感の警報を鳴らし続けていた。それが気のせいではないことを諭すように。
それはこの屋敷で東花方の長女として培ってきた経験からなるものだろう
「先、入ったらどうですか?」
「っえ?!どういうことでございますか、お嬢様?」
動揺を示すメイド。
これは、まあ普通かもしれない。でも、やっぱりゆーのの勘は警報を鳴らし続ける。
「暗殺者はどこか行ってくれる?今ならまだ間に合うわよ?」
「お嬢様、何を言っているのですか?」
「何回も言わせないでくれないかしら?」
「?」
しらばっくれるメイド。
「そのお風呂、経皮毒入っているんでしょ。毒殺できると思っているの?自尊心ありすぎだとおもうわよ?よくその世界で生きていけてたわね。あなたの雇い主はゆーのはメイド見分けれるっていう情報くれなかったの?」
息を呑む音が聞こえた。
それでごまかせると思ってたんだ…ある意味関心ね。でも、中央タワーに行く運命は変わらなそうね。ごめんなさい。私は、慈悲深くないんだよね。
この屋敷にいる人数は少ない。特にここが離宮なのも関係している。でも、私の周りで流血騒ぎなんてもう見たくも聞きたくもない。
「じい?」
「お嬢、何用でございますか?」
ビクッとメイドが肩を震わせる。
「こんなメイドいたかしら?」
「いえ、私の記憶にはございませんが?」
「あら…そう」
背筋が凍るほどの恐怖を味わう偽物。なぜなら、怖いほど冷たい笑みを浮かべるゆーのがいるから。しかし、それが演技だということはゆーのを見てきたもの、少なくともじぃにとっては見え見えだった。
でも、このメイドの姿をしたこの侵入者は潜入して日が浅いどころか、一日もたっていない状態。この侵入者がゆーののことを少しも理解していないのは確定で、書類上の姿しか知らないからこその恐怖に体を蝕われていた。
この離宮の主人であり、北雪方の姫、ゆーののお付きの者となるにはじぃの目も厳しく、何より本人の重度の警戒心があり、本当に限られた人間しか許されない。
「さて、じい、調べてくださる?」
「はっ、姫」
姫はやめてよね…
非常にげんなりした目でじぃを見るゆーのだが、じぃは一切気にした様子なく手を自然にそしてすばやく動かす。
じいがどこからか取り出した色々な試験管を湯浴みのお湯に入れていく。そのたび、色々な美しい色にお湯が変わっていく。
最後というようにじいは、1つの試験管に入った液を入れた。すると、お湯が真っ赤になった。
やっぱりか。あとこれは、200年以上前の学生が理科の実験でやっていたことらしい。多分、今、じいがやったような大層なものではないけど。だけど、学生でこの実験って…ふふ、昔って本当に意味がわからない。
どーせ、ゆのくんわかんないんでしょ
え、私が分からない?今の世界では常識だよ?バカにしないでほしい。まぁ説明は面倒くさいから省くけど、何度かこういう手で殺害されそうになったから見たことあるんだよね。だから、光景に驚かない。
あ、また…だ。誰も声を発していないのに、私はだれと会話をしてるの?
「あら…顔真っ青ですけど大丈夫ですか?メイドさん。」
湯浴み用だったお湯とは真逆の真っ青な顔。侵入者とはいえ、同情を禁じ得ない顔だ。肩も小刻みにフルフルと震え続けていた。
返事は……なかった
「お嬢、他のお風呂を用意いたしますので、ささ。」
「わかりましたわ。じい」
この家の中で私が一番信頼できる人。
『あ…あの、じいや、ありがとう。』
『ありがとうだなんて嬉しいですね。コレが仕事ですからね。お嬢の役に立つのなら嬉しいですよ。』
あんな事もあったっけ。2歳の私が、覚えたての言葉で言ったあの言葉。じいは覚えているのかな?ふふふ
「どうされたのですか?お嬢様。」
じぃの反応的に思わず顔がゆるんでいたらしい。
「何でもないわ」
顔を無表情(天使のほほえみ)に戻して答えた。
しかし、心の中でその事実に驚いていた。顔の表情を変えることなんて今の彼女にとっては話すことよりも簡単にできることだと思っていたから。そう自負していたから。
「ゆーの様、ご案内させていただきます」
無言で頷き、そのままメイドについていきその場を後にする。
あの侵入者は今まで通り処理されるのだろう。処理の仕方は私は知らないのだが、きっと中央タワーの連中がごみを捨てるかのごとく、この世からぼいっとし捨てているのだろう。
数分歩くとメイドが止まった。こちらに振り向き、完璧な会釈とメイドスマイルを見せた
「この部屋です。ごゆっくりお入りください。中に他のメイドがおりますので。」
「わかりましたわ。」
そう、コレが普通。
30分後
あつすぎないかしら…?温度設定どうなってるの…あんなに熱いお湯にずっと入れるわけないでしょ…
「速かったですね。」
メイドが驚きを隠しながら言う。
「そうかしら?」
「いつもは1時間近く入られるので。…お部屋までお付き合いいたしますね。」
「えぇ。お願い。」
はっ!
勘が本日二度目の警報を鳴らした…わけでもなく。ただ、どうせこれから眠るだけなのだ。少し楽しい思いをしたいな、と思ってしまったのだ。
これが十分後の自分を苦しめることになるなんてゆーのは知らない。
「やっぱり、1階の部屋にして。」
「1階の部屋……ですか?」
「えぇ。最近お父様に許しをもらった部屋なのですけど……?」
「す、すみません!お嬢様。しょ、少々お待ちを。」
一言断ると耳に手を当て、何やら話し始めた。
あっ、本物だね。多分ヘッドホンの通話機能使って確認してるのかな。それに焦り方がメイドらしい気がするからね。いつも無関心無表情の冷静沈着な完璧メイドさんがこうも焦るなんて!
しょうもなさすぎだろっ!
ん、誰かの声?
「失礼いたしました。こちらです。」
あっ、いや、あの、嘘なんですが…
少し引きずられるような感じで連れていかれそうになる。というか半ば連れていかれてる。
「執事長がおっしゃったところへお連れいたしますね。」
ごめんなさい。嘘つきました、まってください、待って!?
そう言えるはずもない。ゆーのはそのまま、|ついていった(引きずられた)。
心の中ではこんなに騒がしくても、表情は変わらず無なのだ。さすが東花方の長女。または後継ぎ。
五分後
ここは離宮と本邸をつなぐ道…つまり、この道ってことは、じいの執務室で、私にとってはお仕置き室ならず、お叱り室だ…終わった……誰か助けて???
そんな願いが叶うはずもなくそのまま連行された。
コンコン
扉の装飾…やっぱりじぃの執務室だ…
じぃの執務室以外にこの道を使うことなどないのだが、現実逃避もかねてその事実を道中必死に否定していたが、その扉と周りの装飾物を見た瞬間、ゆーのは久しぶりに諦めた。いつもだと強引な手を使って乗り越えていたことが多かったのだが、じぃが相手だといいように言いくるめられる。それが、ゆーのの弱点かもしれない。
「執事長、お嬢様をお連れしました。」
無慈悲なる声を響かせるメイド。ゆーのからすればそれは、純なる天使、熾天使からの断罪の合図のようなものだった。
どうしよう…言い訳、言い訳、いいのないかな?あぁ…数分前の自分を恨む。やだやだやだ…怒られたくない!
駄々っ子か(笑)
本当に誰なの!?私を笑うやつは!
「はい、わかりました。入ってください。」
じぃの落ち着いた声が届く。
額に冷や汗を流すゆーのと涼しい顔をしているメイド
ガチャリ
扉が開く。聖なる門のようだった。
さぁ、戦争の開始だ!!!潔く負けてやんないから!逃走してやるっ
逃走を胸に。彼女は決意を示す。(ちっぽけな)
まただ、本当に一体全体誰なの!?
「リアは出ていってもいいですよ。」
「はい。承知いたしました。」
あぁ…一人にしないで!お願い、完全に逃走できなくなる!!
扉から出ていくメイドを必死に止めようとする。しかし、じぃの声がそんなことを許すはずがなかった。
「さて、お嬢。準備はいいですか?」
「な、なんのでしょう?わ、わたくし、部屋に帰って寝るつもりなのです…が?」
味方がだれ一人おらず、じぃとゆーのの2人だけの空間。いつものような圧迫感を感じてうまく舌が回らず、焦るゆーの
やばい、やばいやばいってこれ。私、人生詰んだかも…?
「そのことについては、ジュウライ様…ではなく、カルア様にも話を通しました。ゆーのめwwと言って苦笑しておりましたよ。」
ジュウライは確か、死んだお父様よね、血筋上の。それにしても
「お仕事…速すぎではありませんか?じい」
「そうでしょうか?昔よりはおとろえましたが。」
これで衰えたって……。じい、最盛期はどれだけだったんだろう?
怖い想像で背中に悪寒が走る。そして、その最盛期が今でなくてよかったと心をなでおろした。
まぁ絶体絶命的状態なのには全く変わらないのだが。
「それで、肝心のお嬢の罰ですが、」
「ちょちょちょちょっと待ってくださいな、じい。今日のお風呂に仕掛けられた経費毒。あれのせいで気が立っていたのですよ。だから、…」
むぅ、頑張って考えた結果がこれですかっっ?…………って、ハイハイ。そうですよ!なんかダメでした?もう死んだも同然じゃない、こんなの。あぁ~世界って広いなぁ
「それでも、お嬢はなにかの罰を受けなければ…。あぁ〜〜それより、お嬢の好きな事はなんですか?」
ん?突然どうしたんだろ?
「えっと…ゲームてすけど?」
今はね、スプラ〇ゥーンとかが好きで…RPGゲームがメインなんだけど、電信対戦もできるんだ。
「では、それを禁止いたします。」
え?
「えぇ…????」
ちょ、え、?ひどくない?毎回この手のやり方で罰が決まってるんだけど!
…あれ?毎回同じやり方にはまる私ってバカなのかな?
「期限は、1週間としましょう。では、お帰りくださっていただきたいのですが。」
「じっ、じい!」
「リア!」
そういって、扉の外に待機していたメイドを呼び寄せた。
「はっ!」
「お嬢様を部屋へ」
それを聞くと万能メイドさんは、私を引っ張って部屋へ連れて行こうとする。私は、じいに文句をたれなから、連れて行かれた。
「ひどいではないですか!?じい、なんでこのようなことを!」
「お嬢様!」
「うぅっ。メイドさんぅ…」
メイドさんではなく、じぃだったらもっと激しく抵抗できたのにっ。くやしぃ
「では、お部屋に参りましょう」
「わかりましたわ。メイドさん。」
じぃ…今度こそ勝つっ!
そう心に誓ったゆーのはしぶしぶメイドと一緒に私室へと戻っていった。
執務室には難しい顔をしたじぃだけが残っていた。
「やれやれ、困ったものです。ゆーの様にはご自分の力を理解してもらわなければ……早急に。」
そう、一言つぶやいた。
しかし、そのを一言は独りの執務室の闇に同化してしまった。
悲しそうな顔をする、とある男の孤独な愛子。
それを見ている一つの闇。それは、昔は常識過ぎてだれにも気にされない存在だったのに。
その闇の名前を知るものは、もういない。
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