第二話 夢は記憶の道標
大きな正門の前に立っていた
抜け出したからこっちの門から入るのはいささか気が引けるんだけど…
ギィィ
片手で押し開けて中に入っていく。見た目や音に対してかるすぎる扉。ゆーのとしてはなぜこんなに無駄に大きく豪華なものを張りぼてのように軽く作ったのかいつも疑問を持っている。
…はぁ。
なかには変わらずだれもいない。
人なんていなくていい。私のそばで働くのなんて最低限でいい。
カタン
豪奢な扉を閉める。すると、入った時に誰もいなかったのに斜め前に人影があった。
「おかえりなさい、お嬢様」
それはメイド服を着た女性だった。金色の髪を結い上げ、頭の側面にはリボンをつけた可愛らしい女性であった。見方によれば10代後半にも見えてしまうほどのあどけなさが彼女の魅力を引き上げていた。しかしその可愛らしさの反面、その言葉は冷たく、少しの感情が入っているか、いないかのぎりぎりのライン上であった。
迎えに上がらなくていいって毎回いってるのに…
何ともまぁ律儀なメイドだろうと最近は呆れてきている。
「ただいま」
ゆーのは同じように返した。すると彼女は少し困ったような笑みを浮かべた。
その困ったような笑みはいつもゆーのが何かやらかしたときに注意するときのものだ。ゆーのは思考をmゲラセ、今日やった出来事を簡潔にまとめようとしたのだが
今日は朝早くに窓から家を脱出…
最初からやらかしていることに気づき、まとめる必要もないなと思考を放棄した。
ちらりと横目で大時計を見る
5時30分だ…門限さえ、30分オーバーしてる…
思考放棄しても絶望という言葉しかないのがわかった。
ゆの君は、とってもすっごい問題児だから、毎回メイドに怒られるんだよね。あはは!いやー見てて飽きないやつだよね。
「これでも一応あなたの専属メイドなのですから、いいかげん私の名前を憶えてください。」
この言葉にははっきりとした感情を感じ取れた。そしてさっきまでとは雰囲気ががらりと明るいほうへと変わった。
ゆーのはとりあえず怒られるわけではないことにほっとしたが、彼女の名前と言われて頭を悩ませることになった。
あ、あ~~そういや、ね。…………お名前、なんでしたっけ?
そんなゆーのの心の中を見透かしたかのようにメイドは大きくため息をついた。
かわいそう…
「サラです。お嬢様。これで1265回目です。」
「わ、わかってました!そんなことくらい。ただ、ぼけてただけ」
またため息をつく。手を頭にあてて落ち込むおまけ付きで。
「はあ、それ、何回目ですか?我らが誇る北雪方のプリンセスがこのような方で私はどうしたらいいものか…。」
グ、グサッ
なにかがゆーのの胸に刺さった音がした。しかし、当然それは誰にも聞こえない
あぁ、つらい…
あ、ちなみにメンタル化け物設定だから特に問題はないから安心してね〜
「さっさと、部屋にお戻りください姫。」
優しく、愛情のこもった声だった。ゆーののことを姫といった男は階段の真ん中にたっていた。モノクルをつけ、背筋が自然と立っている50代後半程度の男。服は、そう、黒の燕尾服。執事の格好が様になっていた。
と、いうかこの人がうちの執事長なんだけどね。あれ、今、私だれと話を…?
「姫って呼ばないでくれません?じぃ」
そういうと、ゆーのは今では慣れてしまった豪奢なその階段を登って自分の部屋へと向かった。
50m程、歩いただろうか。ゆーのは1つの扉の前で止まった。その扉の大きさはここに来るまでに目に入ったその他たくさんの扉よりは小さかったが、そんなものはその装飾を見た瞬間に吹き飛ぶだろう。白が基調のトビラだった。金で縁取られており、幸せの青い鳥という童話でも有名な青い鳥が扉上部の中央に君臨し、その周りにはこれまた美しくそして儚くもある桜の花びらが散っていた。ゆーのはそのトビラを開け、中に入る。
まっすぐ力強い足取りであるものに向かって歩く。
ザブン
布団だった。
音だけでこれだけ高級がわかってしまうこの耳が恨めしい…。
!?…だれ?
………
誰でも…無い?
淑女らしかぬ姿で寝転ぶゆーのは疑問で顔をかしげる。
まぁ、いっか。
彼女の適当さや面倒くさがりやは結構有名な話だった。
馬鹿なのかな?w
コンコン
扉を叩く音がその個室に響く。
「なに?」
「お嬢様、お食事は?」
「いつも通りで。」
「かしこまりました。」
なんの感情のこもってない寂しいやりとり。普通だったら違和感を持つ。でもここでは日常的で何らおかしくない普通の行為。少女がその違和感に気づくことはないだろう。
玄関でのやり取りの方が珍しいのだ。
ゆーのはそのまま眠りについた。
懐かしい感覚に追われる夢だった…
「ゆーの!アハハハ。」
一人の少女が浅くゆれているブランコに乗っているゆーのに抱きつく。いや、厳密に言うとそれは現在のゆーのではない。過去のゆーのだった。現在のゆーのはその光景をぼんやりとした意識で、しかし、視覚は正常に動いた状態で少し離れた場所から見つめていた。
そして、段々と思考も戻ってきたことで状況整理ができるようになった。否、気がした。なぜなら、それはなにか闇を抱いていて正常なものではなかったから。
「ちょっと……」
あのこは、だれ?
「何して遊ぶ?」
「なんでもいいよ…。」
ぶっきらぼうに答える。
あのこは、だれ?なに?ズルい。ズルい、ズルい、ズルいズルいズルいずるいずるいずるいずるいずるいぃぃぃ
「えぇー、ゆーのが決めてよ。いつも私が決めるじゃん。」
「何やってんだよ。」
1人の男の子が公園に入ってきた。年相応のわんぱくな幼年を絵にかいたような少年だった。
は?なんで?なんで?なんで?人が、たくさん?
「言葉遣い正したらいいのでは?○○」
2人目のの男子が来た。こちらはいかにも優等生のような出で立ちをしていた。眼鏡をかけていてどこかの金持ちに息子と言われてもすんなり納得できるような。
あのこ、なんで?仲良くなってんの?私をおいて?なにを、やってるの?アイツラの名前は?ひき、さいて、やる。ず、るい。わたし、だって、わたしは、わた、しは・・・?
な、まえ?あ、あぁぁぁっ!?
ずきりと頭に痛みが走る。その痛みでゆーのの思考は正常に戻った
頭が、痛い…本能的に拒否して…る?
あのこは…わたし?過去の、私なの?
「よびすてにすんなよ、○○」
あの子達は、誰?私の友達?これは、記憶なの…?私から消えて何処かに行ってしまっていた、記憶?さっきのばかみたいな感情は、何?
「なーにやってんの、ふたりとも。ホントばかみたいね。」
「「うるせーな!!」」
「あっ、そろった!」
「アハハハ。」
思わず口から出た笑み。
かわいい…っ!自分にかわいいだなんてっ。うぅ…、でも、あの笑顔の私は純粋にかわいいと思う。純真で、まだ、希望に満ちているあの瞳は。
「あっ!ゆーのがわらった!」
「そうだな。」
「僕の計算通りです。」
あ、あのときの私も笑うのは稀だったんだ…
過去のゆーのを見ることは現在のゆーのにとって新鮮で、心安らぐものだった。
「みんなして私をはめるようなことして…」
「アハハハ」(全)
その世界がただのゆめでもいいから、見てるだけでいいから、ずっとここにいたいのに…
「お……さま?…じょ…さ…?おじょう……?」
なんだろう?なんか、声が聞こえる…せっかくいい夢を…あれ、私どんな夢を見てたんだっけ?
「お嬢さま、お嬢様…はぁ……お嬢様っ」
きぃぃぃん
うっるさっっ!!耳が痛い…
耳を抑えながら頭を上げる。
「な、なに?」
「お食事の準備できました。」
「あ、うん。」
腹が減っては戦はできぬっていうしね…うん。そういうことにしておこう
どこに戦要素があったの?ゆのくん?
さて、きょうの料理は和風ドレッシングがけのサラダと和風ハンバーグ。ソースももちろん和風。
高級感のある食器に肉汁がたっぷりと詰まっている人がわかるハンバーグ。ソースは横に添えられていて添え方も美しい。
見た目はいいのだ。いつもいつも美しく、調和がとれている。そこじゃないのだ。
顔はいつもの無表情。無表情といってもそこだけは立派な淑女、笑顔を絶やさない。その笑顔は女神のほほえみといっても過言ではない。女神とはいっても純粋ではないが。
最近味の変化が乏しすぎると思うのだ。
ゆーのはその机の上に置いてあった銀色の鈴をためらうことなく思いっきり振った。
「チリりりりリーン」
それは青い宝石が中央に取り付けられ、持ち手は真っ赤なルビーが輝いているという超豪華な鈴だった。トビラと同じく細やかな装飾がされていてとても言葉では表せない。1つ売るだけでどれだけの値打ちになるか見当もつかない。
そして、よく見なくてもわかることだが部屋も大きい。圧倒されるほど広い。家具の少なさがそれを際立たせているのだろう。そして、その数少ない家具にも細やかな装飾が施されている。持ち手の部分はサファイアだろうか、もしかしたら違うのかもしれない。
まあ、そりゃあ300年もたっているからね~。ちなみにちなみに、そのサファイアらしき青く輝く鉱石はダイヤなんだよね。あの鈴の青い宝石も同じく。ブルーダイヤって呼ばれててね、希少なんだよね。ずるいっ!!金持ちめ~~~~~
あれ、今寒気が…明日また神社に行かないとな。昔の本を読むと、神社、あまり信憑性なかったというか後利益がちゃんと見える形では少なかったらしい。今はご利益100%なんだよね。
なにかあったのかな
「お嬢様、何用でしょうか?」
「料理長に最近同じ料理ばかりじゃない?さすがの私も飽きたわ、そう伝えてくれないかしら?」
「はい、かしこまりました。」
そういって、金髪のメイドは振り向きトビラに手をかけようとする。しかし、くるりと振り返る。
「お嬢様、さすがに覚えていらっしゃいますよね?」
え…何のこと、ってこのメイドは私の専属メイドじゃない。え、えっと~たしか
「サラ、だよね?」
少しほおを紅潮させ心なしか口角も上がっている
「正解です、お嬢様っ!やっと覚えていただけたようで何よりです。」
「あ、うん。よかったわ。」
あ、危ない、完全に忘れるところだった…今は、何時だっけ?
「サラ、時刻は?」
「6時です、お嬢様」
「わかったわ。湯浴みの準備を頼むわ」
「わかりました。」
そういうと今度こそトビラに手をかけ出て行った。
はぁ…疲れた。ごはんの後すぐ寝るっていうのは行儀悪いし、湯浴みの準備もさせちゃってるし、申し訳ない気持ちもあるけどガチで寝たい。この気分はゲームで晴らすのが効果的だという言を私は知っている!
ベッドから降りてルンルン気分で隣の部屋に向かおうとする。スキップに加え歌まで口ずさんでいる彼女は超がつくほどの機嫌がいい
ふんふんふ~ん
だが、そこで待ったをかけられる。
「お嬢様、湯浴みの準備ができましたことをご報告させていただきます。」
そんな声がトビラの外から聞こえてきたのだ。
ゲームが一式そろった部屋の扉の前で硬直するゆーの。そして驚くほど一瞬で先ほどまでの高揚から真逆の気分まで転落するゆーのの心の中。
私が言ったことだよ?でもさ、さすがに早すぎない?ゲームしたかったのに。
「今向かう」
「かしこまりました。」
ゆーのは廊下側のトビラを開け廊下に出る。
風が気持ちいい。
なぜ涼しく感じるのか、単純明快。それはあの玄関と同じように誰もいなかったから。そして、冷たい風が流れているのにもかかわらず、窓もきっちり閉められていた。大きな屋敷だから人手があるはずなのに誰もいない。その様子や環境を不気味に感じる人しかいないと思う。しかし、その不気味さも彼女は気に入っていた。気に入る、がただその環境に順応しただけという事実に彼女が自覚するのはいつのことになるのだろうか。
何をするんだっけ?
彼女は何をしようと思っていたのか、ついさっきまでの思考を失くした。
えっと……?まあ、いっか
そう思って部屋に戻ろうとする。
違う、湯浴みに行くんだった。
一瞬でその事実を思い出し、二階の湯浴みへと向かっていく。一般家庭では今もお風呂という名で親しまれているが、ここは屋敷、いや、一つの城といっても過言ではない広さと豪華さを持つ家だ。湯浴みという呼ばれ方をしており複数の場がある。もちろんどれも豪奢で見る者を圧倒させる。もちろん、実用性も多く取り入れられており、アットホームな雰囲気を感じられるよう設計者の工夫が組み込まれている。
しかし、ゆーのは設計も製作者の意図もこれっぽちも気にしない。もったいなさすぎるよこの野郎!
まっすぐ、ともすればループしているのではという錯覚に陥ってしまいそうな廊下をゆーのは歩いていく。
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