二つの問題点
「僕のせいで劇を台無しにしてしまって本当にごめん!」
東くんはみんなの前で頭を下げるがこれは別に東くんのせいなどではない。誰だって怪我することなんてあるしそこまで卑屈することはないと思う。
それ以上にどうやってその穴を埋めるかが重要だった。何と言っても東くんの役は変わりが効かないのだ。
「別に東は悪くないから大丈夫。それよりもこれからどうするかが問題だよね。東の代わりを探さないとだし食材だってこのままじゃ足りないよ。」
安立さんの言った通り問題は二つあった。
まず食材が殆ど尽きてしまったため、どうにかして食材を探さないといけなかった。しかし、安立さん達が園芸部やクラスを回っても殆どもらえなかったと言う。どのクラスもカツカツだろうから当たり前だが。
「それなら私がお金を出しますからスーパーで食材を買いましょう。」
「それはダメだよ。文化祭用のお金でしか物は買っちゃダメで後は自分達で探すルールなんだから。もちろん先生の力も借りれないし文化祭で得たお金も使うことはできないんだよ。」
鈴ちゃんはお金で解決しようとするが蜜柑に止められる。新しく買うのがダメで他のクラスから貰うのも無理となると本当に詰んでいる気がする。
「ねえ城戸さん、残ってる食材で新しい料理を作れないかな?」
柳さんの発言に城戸さんはものすごく悩んでいた。
「そうね、出来なくもないかもしれないけど結局すぐになくなると思うわ。どのみち食材を見つけるほかないんじゃない?」
もし今からなけなしのメニューを作ったとしても結局すぐに無くなっては意味がない。城戸さんの言う通り、食材を探すしかないと思う。
「んー、それならメイドカフェはやめて、お化け屋敷だけにするとかどう?それなら食材の方の問題は解決でしょ?」
「流石なのです。それなら午後も文化祭に参加できますね。」
盛り上がっているなのちゃんと鈴ちゃんに対して安立さんは顔を暗くしたままだった。
「うーん、それも考えたんだけどそれだと他のクラスと被っちゃうのよねえ。やっぱり個性を出したいしこのままできるのが一番理想的なんだけど。」
「そうなると中々に難しいな。それにしてもまさか午前だけでこんなに来るとは。」
「本当だよ。これも咲が可愛すぎるのがいけないんだからね。」
蜜柑に私が悪いみたいにされているが一旦無視して考え事をする。
せっかくの文化祭をこんなところで終わらせるわけにはいかない。私は何か方法がないか頭を巡らせる。
「東、今戻ったぞ。」
私が考えごとをしていると何人かのクラスメイトが戻ってきた。
「悪い、友達の演劇部にも頼んだけどいきなりは無理だってさ。」
「私の方も無理だったよ。今からセリフを覚えれる訳ないでしょって。」
「はあ、そりゃそうよね。やっぱり劇は諦めるしかないか。」
今から劇の内容を覚えれる人なんている訳がない。やっぱりこっそり空ちゃんに出てもらうしかない気がする。劇はひまりを説得するのに必要なんだ。諦めたりはしない。
「こうなったら僕が出るよ。大丈夫、怪我してても劇くらいならできるから。」
「その怪我で劇ができる訳ないでしょ。もういいのよ。劇に出れないのは残念だし午後から何もできないのは辛いよ。それでもお金自体は稼いだし、何より文化祭は楽しめたでしょ。」
「そうだけど私はまだやりたいよ。咲だってそうでしょ?」
「うん。私ももう頑張りたい。全力でやってダメなら諦めるよ。」
ここまでみんなで頑張って来たんだ。今更諦めたくなどない。絶対に何かいい方法があるはずだ。
「ねえ鈴っち、私たこ焼き食べたいよ。この後一緒に行こうよ。」
「さっきご飯を食べたばかりでしょう。それに今はそういった雰囲気じゃないですよ。」
「でも、祭りといえばたこ焼きじゃん!確か三年のクラスでたこ焼きやってるって聞いたよ。」
「たこ焼きって確か楓先輩のクラスだよね。いや、待てよ。」
なのちゃんと鈴ちゃんの二人の会話で私に電流が走る。これなら全てを解決することができる。
「それだよ!まだ一つ方法があるよ。私、ちょっと楓先輩のクラスに行ってくる。」
「もしかして何かいい方法を思いついたのですか?」
みんなが唖然としてる中、私は立ち上がって扉を開ける。
「うん、だからちょっと出かけてくる。絶対に二つとも解決してみせるから。」
「待って、それなら私も行くよ。咲だけに負担はかけさせないから。」
私と蜜柑は急いで楓先輩のクラスに向かった。午後の部が始まる前に絶対に二つの問題とも解決してみせる。
「休憩中すみません。楓先輩はいらっしゃいますか?」
私は蜜柑と一緒に楓先輩のいる二年二組の教室へとやって来た。しかし中に入っても楓先輩の姿は見当たらなかった。
「あっ、咲ちゃんだ!もしかして楓に用がある感じかな?それともアタシに会いに来たの?ほら、抱っこしてあげる。」
「チッ、雲雀先輩は黙っていてください。今は緊急事態で急いでいるんです。」
相変わらず抱きつこうとしてくる雲雀先輩に対して蜜柑は鋭い目で睨みつける。
雲雀先輩も相変わらず明るくてノリが軽い。さらに後ろの方から黒花ちゃんも出て来た。
「おや、急ぎの用事ですか?それなら私達がお話だけでも聞きますよ。」
「ありがとうございます。実は今大変なことになっていて。」
楓先輩はいなかったがとりあえず雲雀先輩と黒花ちゃんにざっと事情を説明することにした。
二人であれば楓先輩の場所も知っているだろうしもしかしたら食材を分けてくれるかもしれない。楓先輩が休憩時間なのにいないのが少し気がかりではあるけれど。
「なるほどね。それで楓なら劇をやってくれそうだと。確かに楓なら快く引き受けてくれると思うよ。」
「それで楓先輩の場所を知りませんか?時間がなくて急いでいるんです。」
時計を見るとすでに休憩時間は三十分しかなかった。さらに午後の部は三時間しかなく、午後の部が終わるとすぐに劇が始まってしまう。
だからこの三十分の間に楓先輩を見つけた上で食材を入手しないといけなかった。
「実は私達も楓がどこにいるか分からないんだよね。ほら、楓って割と自由なところあるからさ。」
「あの先輩はいつも自由ですね。そもそも休憩時間に行く場所なんてあるんですか?」
蜜柑はものすごく大きなため息を吐く。蜜柑はずっと接客をやっていただろうから疲れるのも無理はないと思うが先輩がいるのに私に抱きつくのだけはやめて欲しい。それに雲雀先輩が羨ましそうに見ていて何ともきまずい。
「まあ、二人が焦る気持ちも分かるけど流石に休憩時間が終わったら戻ってくると思うよ。一応メールは入れておくし、見つかり次第また二人に連絡するから。ということで咲ちゃんのメール教えて?」
「ダメです。咲のメールは絶対に教えません。何かあったら私に連絡してください。」
「いいじゃんメールくらい。だって咲ちゃんってば、ものすごく可愛いんだもん。」
「下心で咲を見る人にメールは教えられません。それに咲は私とだけ会話すればいいんですから。」
蜜柑と雲雀先輩が揉めてるのを私と黒花ちゃんは二人でぼーっと見ていた。相変わらず黒花ちゃんは小さくて私より年上には見えない。でも振る舞いや仕草はれっきとした先輩だった。
「はあ、二人とも時間がないのですから争うのはやめてください。それよりも、もう一つの食材の件について話しましょうよ。」
黒花ちゃんの言葉で私達は元の目的を思い出す。そういえばそれが目的でここに来たのだった。
「そ、そうですね。それで雲雀先輩のクラスは余っている食材とかありませんか?」
「そうだね。アタシ達はたこ焼き屋さんだからそこまで渡せる食材はないかもだなあ。あっ、卵とかならたくさんあるから渡せるよ。私がミスってたくさん買っちゃったから。」
「本当ですか?それだけでもものすごく嬉しいです。」
卵だけでも作れる料理の幅が格段に上がるためこれは美味しい収穫だ。確かにそこには大量の卵があったがどうやったらそんなミスをするのだろうか?
後は米と野菜があれば完璧なのだがそれは高望みし過ぎかもしれない。
「一ついい方法がありますよ。園芸部から野菜をもらえばいいんです。」
「それがクラスの人が頼んだらしいんですが無理だったらしくて。」
園芸部がダメならもう野菜は諦めないといけないと思っていたが黒花ちゃんは何やら笑っていた。もしかして何か作戦があるのだろうか?
「それなら私にお任せください。私には伝手がありますので。まずは私と一緒に園芸場へと向かいましょうか。」
よく分からないが今は黒花ちゃんの指示に従うことにした。
「黒花はいつも頼りになるよね。それなら私もついて行くよ。人は多い方がいいでしょ?」
そう言って優しく笑ってくれる二人が頼もしくて仕方がない。まさか私達にここまでしてくれるなんて。
「ですがそんなこと悪いですよ。卵をもらった上でここまでしてもらうなんて。それにもうすぐ午後の部が
始まってしまいます。」
「そんなこと気にしなくていいから。だから一緒に行こうよ。ほら、手を出して。」
ここまで助けてもらった上で二人に迷惑をかける訳にはいかない。それでも二人の優しさを無碍にすることもできなかった。
私は雲雀先輩の手を優しく掴んだ。雲雀先輩の手は握っていて何だか安心する。
「分かりました。それならみんなで行きましょう。」
「よーし、時間もないし今すぐ目的地にレッツゴー。それとこのまま手を繋いだまま行ってもいいよね?」
「いい訳ないでしょ。咲から手を離してください。」
雲雀先輩が私の手をずっと繋いでいると蜜柑がパチンと雲雀先輩の頭を叩いた。蜜柑ってば先輩に対してなんてことするのだろうか。
「痛いってば。ちょっと触ったくらいでそんなに叩かなくてもいいじゃん。蜜柑ちゃんってなんか私に当たり強くない?」
「咲に近づく先輩が悪いです。ぐちぐち言ってないで早く行きますよ。」
「この二人は愉快でいいですね。見てて飽きませんよ。」
喧嘩する二人とそれを楽しそうに見てる黒花ちゃんを見て私は大きな溜め息を吐くしかなかった。




