スポーツの秋
「それでは、私と踊って頂ける?」
「はい、喜んで。」
あれから少しの間楓先輩と二人で劇をすることになり、とりあえず練習した通りにやることにした。楓先輩と二人ということもありそこまで緊張することはなかった。私は安立さんに言われたことに気をつけながら劇を進めていく。出来るだけ自然な表情を作りながら自然な流れで進めていく。
それと楓先輩は初めてとは思えない程に役作りが上手くて、見た目も相まって相当様になっていた。
それに私の表情が硬くなると先輩は柔らかな笑みで微笑んでくれる。そのおかげで私は自然と劇に集中出来る。
「やはり貴方がシンデレラだったのね。ぜひ私と結婚してくれるかしら?」
「私も王子のことを従っておりました。こんな私ですがよろしくお願いいたします。」
気がつけばあっという間に劇は終わり、疲れがどっとくる。いくら練習でも最初から最後まで通してやると疲れてしまう。ここまで通してやったことは今までなかったが自然と様になっていた。これも全部楓先輩のサポートがあったからだ。バスケをしてる時から思っていたが楓先輩が相手だと、とてもやりやすい。楓先輩はちゃんと全体を見通している。その力が私には足りてないのが分かった。
「うん、ちゃんと出来てるよ。これなら本番も心配する必要はないと思う。」
「全て楓先輩のおかげです。私一人ではこんなに上手くはいけません。」
楓先輩もひまりも他とは違う華やかさがあった。オーラのような他人を引き寄せる力は私にはない。主役は誰よりも目立たないといけないというのに。
「うーん、咲ちゃんは劇を勘違いしてると思うよ?劇というのは一人でやるものではないでしょ?主役が一番目立つのは当然として主役を際立たせるのが他の演者の役目だよ。主役一人じゃどれだけ頑張っても限界があるからね。それでいうと咲ちゃんは少し自分のことだけ考えすぎかも。劇はみんなの息を合わせて初めて完成するものだから。」
その言葉に私はハッとした。私は緊張や周りの目ばかり気にしてあまり他人に気を遣えないでいた。全部私の実力不足だと思っていたが他人に少しでも合わせたら変わっていたからもしれない。もっと東くんや他の役者のことを知らないといけない。
「楓先輩のおかげで何か分かった気がします。絶対に本番はいい劇にして見せます。」
「おやおや、それはいいことだね。力になれたようで良かったよ。それと今の咲ちゃんにはもう一つ問題があるよ。」
「問題ですか?」
他にも何かあるのだろうか。私にはそれが何か分からずキョトンとした。
「咲ちゃん、何か悩み事があるでしょ?関係のないことばっかり考えてたらいい劇は出来ないよ。一度頭を空っぽにしてみなよ。」
まさか、そこまで透かされていたとは。この先輩にはどんな隠し事も意味がないように思える。楓先輩の言う通りひまりのことや文化祭が上手くいくかなどの不安が常に付き纏っていた。それが足を引っ張っているのも薄々は分かっていた。
「そうですね。最近は悩み事が増えてしまってどうしても考え込んでしまいます。私は昔からどうしても溜め込んでしまうタイプで。」
「それなら私にいい考えがあるよ。ただ今は流石に時間がないかな。そうだなあ、咲ちゃんは放課後時間あるかな?」
「はい、今日は特に予定もないので大丈夫ですよ。」
今日は部活も誰かと遊ぶ予定も特にはなかった。蜜柑が少しうるさそうだが我慢してもらおう。蜜柑は毎度私が他の人と遊ぼうとすると邪魔して来る。別に少しくらい遊んでいいと思うのだが。
「そっかそっか、それなら放課後グランドに来てくれるかな?」
「分かりました。何かするんですか?」
グランドで何をするのか見当もつかないが劇のためなら今はなんだってする。何故ながら文化祭までに残された時間はほぼなかった。
「ふふっ、それは後でのお楽しみだよ。それじゃあ一旦戻ろっか。流石に黒花に怒られそうだし。」
楓先輩はそれだけ言って自分の教室へ向かっていった。あの先輩は本当にいつも自由な人だ。
時間を確認すると既にかなりの時間が経っていた。いくら暇だったからとはいえ安立さんに怒られそうだ。
これも楓先輩に言いくるめられたからだ。心の中で楓先輩に文句を言いつつ、私は教室に向かった。
「もう!一体どこに行ってたの?」
私が教室へ戻ると案の定安立さんに怒られてしまった。蜜柑もすごい眼圧で私を見てくるしとても居た堪れない。
「えっと、その屋上で休んでただけで。その迷惑かけてごめん!」
私が謝ると安立さんは呆れた様子でため息を吐く。
「はあ、まあ無事ならいいけど次からは連絡しなよ?」
「僕も安立さんも心配してたんだよ。」
二人とも心配してくれていたのか。そう思うと申し訳ない。
「心配してくれてありがとう。それで私思ったの。もっみんなのこと知りたいなって。劇をするにあたってもっとお互いのことを知った方がいいと思ったから。」
私は思い切ってみんなの前で自分の気持ちを伝える。クラス一丸となって文化祭を楽しめたらこれ以上嬉しいことはないのだから。
「それはそうかも。なら時間はあるしみんなでお話ししよっか。」
安立さんはため息を吐きながらも私の意見に賛同してくれる。
「俺、日野さんと話したかったんだ。日野さんってどんな人がタイプ?」
「私も日野さんと話したい。日野さんってなんでこんなに可愛いの?」
「えっと、その一人ずつ話して欲しいな?」
みんな一気に私に話しかけてくる。まさかこんなに私に話しかけくれるとは思わなかった。私は困惑しながらもみんなと楽しく会話する。私はクラスのみんなを少し怖いと思っていたけれどただ私がそう思い込んでいるだけだったのかもしれない。だって今はこんなに楽しいんだから。
「浅野さんはみんなの間に混ざらなくていいの?いつも見たいに暴れたりしないんだ?」
「まあ、咲がみんなと楽しく話してるのはいいことだから。私はいつだって咲が笑ってくれたらそれでいいから。それに咲に友達がどれだけ増えようが咲のことを一番理解してるのは私だしね。」
「•••後方彼氏面しないで。浅野さんの考えは分かるけど私の方が日野さんと仲良いから。」
「それはないよ。私の方が咲のこと大好きだから。」
後ろで何やら蜜柑と柳さんがいい争っているように見えるがそんなことを気にする暇なく次々に話題が振られる。
クラスのみんなで話あっているとすぐに時間が経つのだった。
「それじゃあ、またね日野さん。」
「うん。それじゃあまた明日も文化祭の準備を頑張ろうね。」
クラスのみんなは私に手を振って教室を出ていった。既に放課後で教室にはほとんど誰も残っていなかった。私のクラスは大体の人が部活をやってるためすぐに教室ががら空きになる。
私もすぐに帰りの支度をして教室を出た。それにしても今日はみんなで話せて楽しかった。クラスのみんなと仲が深まったしラインも交換した。これで劇がより良くなるといいな。
教室を出た私は楓先輩を待たせないために早くグランドへと向かう。しかしその途中の廊下で蜜柑とばったり会った?これは終わった。私はこの瞬間死を覚悟した。
「ん?一体どこに向かおうとしてるのかな?今日は私と一緒に帰ろうよ。」
「今日はその楓先輩と約束があるから。蜜柑は先に一人で帰っていいよ。」
静かに怒る蜜柑を私はなんとか宥める。
「そっか、それじゃあ私もついて行くよ。別にいいよね?」
「はい、大丈夫です。」
私は恐怖のあまり静かに頷くことしか出来なかった。まあ、楓先輩なら蜜柑がいても許してくれそうではある。
私達がグランドへ向かうとそこには既に楓先輩の姿があった。
「やっほー、咲ちゃん。それに蜜柑ちゃんも一緒なんだね。それなら三人で遊ぼっか。」
「すみません、蜜柑がどうしてもって言うので。」
「そりゃあ咲を一人にするのは危ないので。私が咲を守ります。」
蜜柑は楓先輩の前だというのにお構いなしに抱きついてくる。恥ずかしいから人前で抱きつくのはやめて欲しい。
「あはは、蜜柑ちゃんは本当に咲ちゃんのことが大好きだね。私の前でそんなにくっついちゃて。」
「今日は何をするんですか?」
何も内容を聞かされていない私は頭を傾げた。楓先輩は体操服を着ているし何か運動でもするのだろうか?
「ふっふっふ、今日はスポーツの秋と言うことでいろんなスポーツをやろうと思いまして。」
「何故スポーツなんですか?咲はバスケ以外のスポーツは出来ませんよ?」
蜜柑の言う通りだ。私は元々スポーツをしてこなかったためほとんどのスポーツが出来ないでいた。それにいきなり体を動かせた言われても困る。楓先輩はいつも話が唐突すぎる。
「そんなのどうでもいいよ。体を動かすことに意味があるから。それじゃあ早速やろうよ。最初はサッカーからね。」
楓先輩はそう言ってボールを私達の前に軽く蹴って渡す。
「二人で私にボールを取られないように頑張ってよ。それじゃあスタート。」
その瞬間楓先輩がボールを奪おうとこちらに向かって来る。私は蜜柑と交互にボールをパスし合って楓先輩にボールを渡さないよう上手く立ち回る。
楓先輩はボール捌きがとても綺麗で油断していたらすぐに取られそうになる。しかし蜜柑も負けておらず楓先輩の視線を掻い潜り私にボールを回してくれる。私も二人に負けずとなんとか取られないようにしつつ上手く立ち回った。サッカーはしたことがなかったが少ししたらコツを掴み初めて気がつけばそれなりにボールを捌けるようになっていた。それから何回もボールを取られたり取り返したりしながら三人でずっと遊んでいた。
そして気づけば二十分が経ち既に汗だくになっていた。
「いやー、疲れたね。体を動かして少しは頭の中スッキリしたんじゃない?ほら、咲ちゃんは何でも溜め込んじゃうタイプって言ってたでしょ?」
「はい!大分軽くなった気がします。体を動かすのは気持ちいいですね。」
楓先輩は私に気づかせるためにサッカーをしたのかもしれない。確かに最近の私は焦って大事なことを忘れていた。実際今のでかなりマシになった気がした。
「良かったよ。それじゃあサッカーの次はテニス。テニスの次は野球。どんどん体を動かすよ?」
「はあ、まだやるんですか?咲はもうヘトヘトなんですが。」
「体を動かすのは大事だから。ということで二人とも早く立って。」
楓先輩はそう言って無理やり私達の手を掴んだ。せっかくいい感じだったのに何故こうなるのか?蜜柑と私はお互いに顔を合わせて諦めた顔をする。
結局私達は夜遅くまで楓先輩とスポーツをする羽目になったのだった。




