椿の休日
椿視点です。
「ああ、もうこんな時間か。」
アタシは目覚まし時計を止めると時間を確認して大きなあくびをする。窓を開けると冷たい風が頭をなびかせて清々しい。
今日は休日ということもありいつもよりゆっくりできる。最近は文化祭の準備やバイトが忙しかったからゆっくりする予定だ。とりあえずまだ寝てるであろうみゆを起こしに行くことから始める。
お母さんは今日も家にはいないだろうからみゆと二人で過ごすことになるだろうな。今日は休みだしみゆの好きなパンケーキを作ってあげてもいいかも。アタシがパンケーキを作るとみゆはいっつも喜んでくれる。
「ほら、早く起きな。」
アタシはみゆの部屋に入って布団を剥がす。みゆはこうすれば大体起きてくれる。蜜柑とは大違いだ。
「ん、もしかしてもう朝?おはようお姉ちゃん。」
アタシが布団を剥がすとすぐにこちらに気づいて笑顔で微笑む。みゆの笑顔を見ると今日も一日頑張れる。
「ほら、起きたら服を着替えて顔を洗ってね。そうしたらみゆの大好きなパンケーキを作ってあげるからさ。」
「やったー。それなら私顔洗って来るね。パンケーキ、パンケーキ。」
みゆは楽しそうに顔を洗いに洗面所へと走って行った。みゆは本当に可愛いくてアタシが守らないとと常々思ってしまう。とりあえずみゆが着替える間にパンケーキを作っておかないといけない。
「お姉ちゃん、パンケーキは?私もうお腹すいたー。」
「はいはい、今作ってるから椅子に座って待ってな。それとそこまだ寝癖ついてる。」
「はー、お姉ちゃんのパンケーキ楽しみだなあ。そういえばお母さんは今日もいないの?」
私が無言で頷くとみゆは少し残念そうな顔をする。あの親はいつもそうだ。アタシ達のことを何とも思ってない。小さい頃からそうだったアタシはみゆには孤独になってほしくなかった。だからその分アタシがみゆを守らないといけないのだ。
「そっか、でもねお姉ちゃんがいてくれるから私は寂しくないよ。お姉ちゃんは忙しいのにいつも私に優しくしてくれてありがとう。」
そうやって満面の笑みで微笑むみゆにこっちまで笑ってしまう。みゆはまだ小さいのにこんなにいい子だなんて。みゆがいるからアタシは頑張れるんだ。
「はいはい、パンケーキできたから冷めないうちに食べてね。」
「やったー。お姉ちゃんのパンケーキいただきます。って熱いよ、」
「もう、火傷しないように覚ましな。冷めないようにとは言ったけど火傷しないようにゆっくり食べなよ。」
アタシもパンケーキに手をつける。うん、今日もちゃんと美味しい。
「やっぱりお姉ちゃんの料理は世界一だよ。それで今日はお姉ちゃんどこか出かけるの?」
「いや、今日はバイトもないしゆっくりするかな。それか二人でどこか出かけてもいいよ?」
みゆを残して一人で外に出られる訳がない。みゆを一人にすると何が起こるか分からなくて不安だ。
「本当に?それなら私お姉ちゃんと公園に行きたい!お姉ちゃんとボール遊びをしたいな?」
「ふふっ、いいよ。それじゃあ朝ごはんを食べ終わったら外行こっか。」
「えへへ、楽しみだな。ってチャイムの音がするよ?」
アタシとみゆで今日の一日の予定を決めていると玄関からチャイムの音がした。こんな時間に誰だろうか?不審者や借金取りじゃないといいのだが。
私が恐る恐るドアを開けるとそこには私のよく知る人物がいた。しかし今はその顔を見たくはなかった。
「やっほー椿。実は咲が柳さんと二人で出かけたんだ。不安だから椿も一緒に尾行してくれない?」
「何で?一人で尾行すればいいじゃん。アタシも暇じゃないんだけど。」
せっかくみゆと二人で過ごそうと思ったのに朝からこんなうるさいやつと会うなんて。それに何で好きな人と一緒にその好きな人の尾行をしないといけないのか。アタシからしたら地獄でしかない。
「いいじゃん少しくらい。親友でしょお願い!」
こういう時親友という言葉を出さないで欲しい。アタシは蜜柑と友達でいたくないのに。
「えー、そもそも私はみゆと。」
「お姉ちゃん大丈夫?って蜜柑お姉ちゃんだ。おはよう。」
私がどう断ろうか困っていると部屋からみゆが出て来る。みゆと蜜柑は何度か会ったことがあり、みゆは蜜柑にも懐いている。
「やっほーみゆちゃん。今日一日椿を借りてもいいいかな?」
「うん、蜜柑お姉ちゃんなら大丈夫だよ。それじゃあ二人共楽しんでね。」
「ちょっ、みゆを使うのはずるじゃん。」
「いいじゃん、いいじゃん。それじゃあ早速出発だよ。」
「二人とも行ってらっしゃい。」
みゆには笑顔で送られてとうとう私は断れなくなってしまった。ここまで来たら腹を括るしかない。アタシはただ静かに過ごしたいだけだったのにどうしてこうなったのか。ため息が出てしょうがない。アタシは全てを諦めて蜜柑と外へ出るのであった。
アタシ達は早速外へ出て咲達の尾行をすることにした。二人ともこちらには気づいておらず仲良さそうに会話していた。楽しそうに遊んでるんだからそっとしてあげればいいのに。
「ぐぬぬ、私だって咲とお出かけしたいよ。あんなにくっついちゃって。」
「はあ、蜜柑はいっつも咲とくっついてるじゃん。別に少しくらい他の人と遊んでも許してあげなよ。」
「やーだ。咲は私とだけ遊べばいいの。できるだけ他の子には触れせたくない。」
「そっか、蜜柑は本当に咲のことが好きなんだね。」
「うん、私にとって咲は大切な人なんだ。咲が私を変えてくれたから。」
蜜柑は咲と出会ってから変わった。いや、蜜柑だけでなくひまりもだ。二人とも中学の頃はどこか息苦しそうにしていた。蜜柑とは二人で夜遊びとかもしてたかな。なのに二人とも咲と出会ってからは毎日が楽しそうだ。二人の純粋な笑顔をアタシは見たことがない。だから咲と出会った時純粋にすごいなと思った。しかし蜜柑は咲に依存しているしひまりは今後のことでずっと悩んでいる。もちろん咲には感謝してる。それでもこうやって二人の仲の良さを見せつけられるとどうしてもモヤモヤしてしまう。それに蜜柑もひまりも中学の時から大きく変わったというのにアタシだけがずっと昔のままでいる。アタシは今もまだあの頃の日常が忘れられないでいる。だからどうかアタシだけを置いてどこかに行ってほしくなかった。ただそれだけだ。
「そっか、それなら絶対に手を離さないようにね。大切なら絶対に守らないと。」
アタシは蜜柑への恋を諦めたつもりはない。ただ今は二人の間に入れないと痛感している。それに今は他にも問題があるから。例えばひまりとの問題。ひまりと蜜柑はどちらも咲のことが好きでお互いに心の中で悶えている。今はひまりが咲と距離をとっているけどずっとこのままとはいかない。その上でひまりと蜜柑で話すこともあるだろう。もちろんアタシもひまりと色々話したいことがある。
「分かってるよ。それはずっと誓ったことだから。それにしても椿は優しね。いっつも私達のことを考えてくれる。椿が友達でよかったよ。」
そう言って笑う蜜柑はまさしく太陽で暗いところを好むアタシには眩しすぎる。それでもアタシは結局その眩しさを求めてしまうんだろうなと思う。
あれから少し歩くと二人はすぐに美術館の中へ入って行った。
「二人とも美術館に入ったけどアタシ達も入る?」
「いや、ここで中には入らないでおこうかな。美術館の中まで尾行してたら不審者と間違われるし。」
「はあ?じゃあずっとここで待っておくってこと?」
いや、それなら今日尾行する意味なかったんじゃ。せっかくのアタシの休日が何でこんなことに。本当に何故アタシはこんなやつが好きなのだろうか?
「いやいや、流石にそんなことはしないよ。ちょうどそこにカフェがあるし二人でお茶しない?」
はあ、そんなこと言われたら断れなくなってしまう。
「まあ、それならいいけど。」
「やったー、それじゃあ一緒に行こう。」
そう言って蜜柑はアタシの手を握ってカフェと向かった。その手は温かくて落ち着く。昔の蜜柑とは本当に変わったんだなと痛感する。きっとこれからも蜜柑もひまりは変わってしまう。アタシはどうしたらいいのか。
「えへへ、こうやって二人で話すのもなかなかないよね。」
カフェに着いたアタシ達は飲み物を頼み雑談をする。やっぱりこんな寒い時はコーヒーに限る。
「そりゃあ、クラスが違うしアンタがずっと咲といるからでしょ。」
麻莉や椿と遊んでた時も懐かしいな。今じゃなかなか遊ばないから寂しく感じる。
「もしかして椿嫉妬してる?私ともっと遊びたかった?」
「なっ、そんなわけ。別に嫉妬なんかしてないけど。」
「そっか、でも私はこうやって椿と二人で話せて嬉しいよ。何だか最近の椿は距離をとってるように感じたから。」
やっぱり蜜柑には全てがお見通しなのか。アタシだって本当はもっと蜜柑と話したいし一緒にいたい。でもアタシは素直になることなんてできない。
「それは蜜柑の気のせいでしょ。蜜柑も変わったけど寂しがりなところは変わってないよね。」
「む、そんなことないよ。それに椿だって本当は寂しがりなこと知ってるからね。」
「あはは、アタシは寂しがりやなんかじゃないです。」
「私だって違いますけどー。」
こうやってずっと他愛もない会話をしていたい。でもそんな幸せな時間もすぐに消えていく。そう思うと辛くて仕方なかった。




