先輩の頼み事
「それでお願いってなんですか?私達もやることあるんですけど?」
蜜柑は心底嫌そうな目で楓先輩を見つめる。
「蜜柑ちゃんってばそんな怖い目で見ないでよ。どうしても人が足りなくて困ってるんだから。」
楓先輩は困ったようにため息を吐く。しかし今回に関しては私たちも力にはなれそうにない。
「私も楓先輩の力になりたいのですが今は忙しいんです。実は今出し物と演劇で使う服を探しているんですがどこにもなくて困っているんです。」
草取りや衣装探しと今はそれどころではなかった。楓先輩には悪いけど今回は他を優先したい。
「ふむふむ、二人は衣装が欲しいんだね?それなら私に任せなよ。私には大きな伝手があるから二人が私のお願いを聞いてくれたら紹介してあげるよ。この条件ならどうかな?」
「それは本当ですか?ちゃんと約束は守ってくださいよ。」
「もー、蜜柑ちゃんってば怖いなあ。私が約束を破ったことなんてないでしょ?だから安心してよ。」
いや、楓先輩はよく部活に遅刻してくるし忘れごとが多かったりで信用がないのだけれど。しかし他に服を借りれそうにもないし今は楓先輩のお願いを聞いた方がいいかもしれない。
「はあ、まあ少しの時間ならいいですよ。早く済ませましょう。」
さっきから蜜柑が楓先輩に対して少し当たりが強い気がするのは気のせいだろうか。
「それじゃあ早速私の教室に行こっか。そんなに時間はかからないと思うから。」
私達はグランドを出て楓先輩の教室へと向かうことにした。
「いやあ、それにしても文化祭楽しみだよね。咲ちゃんのクラスは何するのかな?」
「先輩には教えません。内緒ですよ。」
興味津々な楓先輩に対して蜜柑はそっけなく答える。いつもの蜜柑も楓先輩に対してそっけないことはあるがここまでそっけないことは初めて見た。
「蜜柑ちゃんってばそんなに怒んないでよ。私がキスするのを遮っちゃったから?」
「そういうところですよ。せっかくの咲との時間をよくも。」
蜜柑はぶつぶつ言っているが楓先輩がいなかったらあのままキスしていると思うと楓先輩が来て良かったと思っている。別に蜜柑とキスするのが嫌という訳ではなくまだ覚悟ができていないし蜜柑が本気なのかも分からない。だから今回は楓先輩に感謝してる。
「それで咲ちゃんのクラスは何をするのかな?」
「えっとお化け屋敷とメイド喫茶の掛け合わせをするんです。楓先輩もぜひ来てください。」
「ふんふん、面白い組み合わせだね。それにしても咲ちゃんのメイド服は絶対可愛いだろうな。私とっても楽しみにしてるね。
和かに笑う楓先輩と明らかに機嫌が悪そうな蜜柑。気まずい雰囲気をどうにかするためとりあえず私は話題を振ることにした。
「そういえば楓先輩のクラスは何をするのですか?」
「私のクラスは無難にたこ焼き屋さんだよ。とっても美味しいから二人にはぜひ来て欲しいな。」
「はい、絶対に行きます。ということは楓先輩のお願いって文化祭の出し物とは関係ないんですね。」
てっきり楓先輩のお願いというのは文化祭の出し物に関係するものだと思っていた。しかし出し物がたこ焼きということは今は何のために呼ばれているのだろうか?
「まあ、直接は関係ないけど商売のために大事なことだよ。まあ、詳しい説明は別の人がしてくれるからとりあえず教室に入ってよ。」
気がつけば楓先輩の教室の前にたどり着いていた。
「分かりました。それじゃあ蜜柑も行こっか。」
「そうだね、だけど少しでも変なことしたら咲を連れてすぐに帰りますよ?」
「まあ、大丈夫だよ。二人は緊張せずにゆっくりしてればいいからさ。」
何が待っているか分からないが私達ら恐る恐る中へと入るのであった。
「ほら、ここが私のクラスだよ。とりあえず入って入って。」
楓先輩に言われるままとりあえず教室の中へと入った。みんながすごい興味津々に見てくるからとても緊張してしまう。自分よりも年上しかいないと思うと中々落ち着けない。
「もう、楓ってば遅いよ。今までどこに行ってたの?」
「ごめんってば色々あって時間かかっちゃった。それより見てよ。雲雀好みの可愛い子連れてきたから。」
「うわー、本当だ。君ものすごい可愛いね。ねえ、ハグしてもいいかな?」
オレンジ髪のギャルのような見た目の先輩がキラキラとした目で私を見る。明らかに私とは違う世界の住民だ。さらに先輩は私に抱きつこうとするが蜜柑が私を庇うようにして立つ。
「雲雀先輩、咲には触らないでください。それともう帰ってもいいですか?」
「蜜柑ちゃんってばいっつもアタシに対してきついよね。ちょっとくらいいいじゃんか。」
ムッと頬を膨らませる先輩に対して蜜柑は冷たい眼差しを向ける。
「それは先輩がいっつも抱きつこうとしてくるからですよ。まだその女好きな性格は治ってないんですね。」
よく分からないが蜜柑とこの先輩は知り合いらしい。とりあえず仲があまり良くなさそうなのは分かる。
「とりあえず今は私達のお願いを聞いてもらうのが先でしょう。喧嘩はしないでください。」
そこには祭りに時に出会った黒花ちゃんの姿もあった。なんで黒花ちゃんがこんなところにいるのだろうか?
「そうだね、とりあえずお互いの名前を知ることから始めよっか。まずこの子は咲ちゃん。私の大事な後輩だよ。そしてこのオレンジ髪のギャルが雲雀。この子は優しいけど女の子好きだから気をつけて。」
「やっほー、土宮雲雀だよ。雲雀でいいから。それにしても咲ちゃんとっても可愛いね。全校集会の時前に出てた子だよね。前から話したいと思ってたんだ。」
雲雀先輩はグイグイと攻めてくる。これが陽キャというやつなのか。
「えっと、その何というか。」
「ほら、日野さんが困っていますよ。雲雀はいつもグイグイ行きすぎなんですよ。」
私がどう対応すればいいか分からないでいると黒花ちゃんが助けてくれる。黒花ちゃんは優しいな。それと蜜柑の雲雀先輩を見る目がさっきから怖い。
「えー、だってこんなに可愛いんだよ?ちょっとくらいいいじゃんか。」
「だから咲には近づかないでください。というか先輩のお願いなら聞く理由はありません。」
「二人とも今は落ちついて。それともう一人紹介しないと。この黒髪のちっちゃい女の子が黒花だよ。ものすごいお金にがめついんだよ。」
「え、黒花ちゃんって年上なの?」
あまりもの衝撃に頭が真っ白になる。確かに学年集会とかでも黒花ちゃんを見ないとは思ってたけどまさか年上だなんて。いや、それにしては小さすぎる気が。中学生にすら見えてしまう。
「あはは、黒花は小さいからよく間違えられるんだあ。それにしても二人は黒花と面識があったんだね。」
「本当にごめんなさい黒花先輩。まさか先輩だとは思わなくて。」
私はなんてことをしていたのだろうか。とりあえず頭を下げて謝ろう。
「いえいえ、そのままで大丈夫ですよ。貴方達のおかげであの時お金も稼げましたし。それに私は小さいことを気にしていませんので。」
黒花ちゃんはなんて優しいのだろうか。それと相変わらず何考えてるかよく分からない。
「ではそろそろ本題に入りませんか?咲をずっとこんなところにいさせません。」
「じゃあ後はみんなでやっておいて。私はちょっと出かけてくるから。」
楓先輩はそのままどこかに行ってしまった。楓先輩はいつも自由だ。
「おけおけ、それじゃあ早速本題に入っちゃうよ。今回来てもらったのは二人の写真が欲しいからなの。実は文化祭の時に学校の可愛い子をまとめた写真集を売ろうと思ってそれで二人の写真も欲しいんだ。」
文化祭で写真集とはいかがなものか。先輩に協力はしたいが写真集となると流石に恥ずかしい。学校のみんなに見られるとなるとどうしても抵抗があるのだ。というか隣の蜜柑の圧がやばい。
「先輩ふざけてるんですか?咲の可愛い姿を変なやつらに見られると思うと耐えられません。咲の魅力は私だけが知ってればいいんです。」
「むー、蜜柑ちゃんって独占欲強い感じ?アタシは咲ちゃんの可愛さをみんなに伝えるべきだと思うな。」
「いやです。そもそも咲がそんなことを望んでません。先の嫌がることだけはしないでください。」
私を必死に守ってくれる蜜柑にうるっと来てしまう。蜜柑はなんだかんだいって困った時はいつも助けてくれる。先輩達には悪いけどこのまま断ってしまおう。
「ああ、せっかくいい商売になると思ったのに。残念です。それに浅野さんだって日野さんの可愛い写真は欲しくありませんか?」
黒花ちゃんの言葉に蜜柑はピクッと体を動かす。嘘だよね?
「そりゃあ、見たいけど流石にそれは。」
「それに際どいものは取りませんよ。あくまで健全なものだけですので。」
「そうだよ、咲ちゃんのページはちょこっとしか載せないし写真はちゃんと渡すからさ。」
「うーん、それならいいか。ということだから撮影しよっか。」
「いやいや、ちょっと待って。なんで蜜柑が許可してるの?」
さっきの感動を返して欲しい。
「ダメなんですか?少しだけですよ?」
「ねえ、お願い。本当に少しだけでいいからさ。」
「す、少しでいいなら。」
私は二人の先輩の圧に負けて結局撮影を許可してしまった。蜜柑や雲雀先輩が何やら楽しそうに見ているが私は恥ずかしくて前を見れなかった。どうして私がこんな目に会わないといけないのか。
「いやー、今日はありがとうね。良かったら今度アタシとお茶しない?」
「咲は私の大事な友達なんですから誘わないでください。咲は私と遊ぶんですから。」
何故か顔を真っ赤にする蜜柑を見ながら私はため息をつく。なんとか終わったけどとても恥ずかしい。
「そっか、蜜柑ちゃんに大切な人ができるなんて思いもしなかったよ。蜜柑ちゃんが守ってあげなよ?」
「もちろんです。咲は私が守りますので。」
「貴方達からは商売の匂いがするのでぜひまた協力してください。」
「そうだね、またいつかみんなで遊ぼうね。」
雲雀先輩も黒花ちゃんも優しくて面白い先輩だった。少し強引なところもあるけれど。
「それじゃあ、やることも終わったし約束通り服を貸すよ。」
私達が雲雀先輩と話しているとどこかに行っていた楓先輩が帰ってくる。そういえばそんな約束したことをすっかり忘れていた。
「やったね。とりあえず服の件はこれで解決するね。」
「そうだね、やっと目的に辿りついたね。」
「ということでここからは二人に任せるね。」
「了解。後は任せて。」
「おっけー、それじゃあ試着室にレッツゴー。」
私と蜜柑が喜んでいるときらら先輩ときらら先輩が現れて私達の腕を掴んでどこかへと連れていかれる。
「ちょっ、どこに行くんですか?」
「まあ、頑張って。」
呑気に手を振ってる楓先輩達を見ながら私達はよく分からないままどこかへと連れて行かれるのだった。




