少し遠い気がして
「それで影山さんはどうしてここに?」
私は挙動不審の影山さんを連れて人気のいない場所に移動した。影山さんは人が多いところが苦手なはずだからこんなところにいるのは珍しい。
「いつも西園寺さんにお世話になってるので何か贈り物をしたいと思って外に出たんですけど人が多くて。日野さんがいて安心しました。」
「そっか、それなら私もお買い物に着いていくよ。私もついでに買い物したいし。」
この後は特に予定もなかったし影山さんに着いていくことにする。蜜柑が少し怒りそうだけどまあいいや。
「あ、ありがとうございます。こんなこと日野さんくらいにしか頼めないので。」
影山さんはおどおどしながらも私に頭を下げる。それにしても普段おどおどしてるけどこうやって見ると可愛らしい。
「その服とっても似合ってるね。」
「そ、そうですか?流石に外に出るのにTシャツはまずいと思ったのでこの格好にしたんですけど変じゃないですか?」
いつもとは違う清楚な服でとても似合っていた。いつもの少しボサボサな髪も整っているし。
「うん、とっても可愛いと思うよ。」
「そう言われると少し恥ずかしいです。とりあえず目的地へと向かいますよ。」
影山さんは話を逸らしてそのまま目的地へと向かった。
「それでどこに向かってるの?」
「えっと、とりあえずショッピングモールに行こうと思います。この前西園寺さんがコップが古くなったと言っていたのでコップを買いたいです。僕が買ったコップを喜んでもらえるかは分かりませんが。」
「いやいや、そんなことないよ。誰だって心の籠った贈り物をすれば喜ぶと思うよ。」
影山さんは相変わらずネガティブだけど心配する必要はないと思う。西園寺さんは影山さんのことを大事に思ってるようだし西園寺さんはとても優しいから。
「それならいいんですが。それにしてもこの辺は人が多くて怖いです。僕は基本的に人混みが苦手なので。」
「影山さんが一人で歩いてるからびっくりしたよ。私がいなかったらどうしてたの?」
「それはそうなんですけどどうしても西園寺さんにプレゼントしたいと思って。西園寺さんは僕にも優しくしてくれるんです。それに最近は西園寺さんとよく話すのでここら辺で感謝の気持ちを伝えたいんです。」
その気持ちは分かる。蜜柑は面倒くさい時もあるけど優しくて私の大事な人だからいつも感謝してる。本人にらは言わないけど蜜柑のことが大好きだから。私もたまには感謝の気持ちを込めて贈り物をしてもいいかもしれない。
「そっか、影山さんにとって西園寺さんは大切な人なんだね。」
「そっ、それはまあそうですけど急に言われると恥ずかしいです。というか西園寺さんはすごい人なんです。優しくて優雅でとても強い心を持っています。だから僕は西園寺さんに憧れているんです。」
突然早口で喋り出す影山さんに思わず笑みが溢れる。
「す、すいません。突然語り出して気持ち悪いですよね?」
「ううん、西園寺さんのことが大事なんだなと思っただけ。それに私も蜜柑のことが好きだから。」
「そうですね。最近は西園寺さんともよく話すので一日が楽しいんです。本当にこんなに楽しく学校生活を送れたのは西園寺のおかげですよ。」
確かに最初に会った時より影山さんは明るくなっているし今も私と普通に話せている。これも西園寺さんといたからなんだな。
「中学の頃は本当に最悪でしたので。」
その一言はとても重たくて何か抱えているようだった。
「ってすみません。こんな話興味ないですよね。それよりショッピングモールに着いたので早速入りましょう。」
影山さんは唐突に話を変えてショッピングモールの中へと向かっていく。私は影山さんについてもう少し知りたかったが今はとても聞ける雰囲気ではなかった。
私達は雑貨店の前まで来たが影山さんは初めて見るような目で雑貨店を見ていた。私は何度かこの店に来たことがあるがやっぱりオシャレなところだ。
「すごいオシャレなところですね。僕雑貨店に来るのは初めてなので日野さんが教えてください。」
「雑貨店に来るの初めてなんだ。それなら私が案内するよ。」
「はい、そもそも普段はネットで買い物するのでほとんど店には行かないんです。」
嘘でしょ?いくら影山さんがコミュ症とはいえここまでとは思わなかった。もしかして今回外に出たのって相当凄いことなのでは?
そういうことであれば私が影山さんをサポートしないといけない。とりあえず私達は雑貨店の中へ入り西園寺さんの贈り物を探すことにする。とりあえずコップが見たいと言ってたのでコップエリアにいき二人で探す。
「思った以上にたくさんありますね。その上にこんなにおしゃれで僕が来ていい場所じゃないですよ。」
「大丈夫すぐになれるから。それより早速選ぼうよ。」
猫や犬などの可愛い系から花や鳥などの美しいものまで揃っておりとても悩ましい。西園寺さんは綺麗で優雅だからどんなものでも似合うとは思う。しかし影山さんは一つ一つを真剣な目で確認してどれが西園寺さんに合うのか考えていた。最初はコミュニケーションが取れずに困っていた二人が仲良くしていて私としてもとっても嬉しい。
「あわわ、こんなオシャレなところに僕なんかがずっといたら迷惑ですよね。それに日野さんも僕といてもつまらないと思いますし。」
「そんなことないよ。私は影山さんといて楽しいよ。それにいつまで待つから焦らないでいいよ。」
影山さんは優しくてとてもいい人なのだがあまりにも自己肯定感が低すぎる気がする。西園寺さんが普段どう接してるのかとても気になる。
とりあえず影山さん一人では決まらなそうだから二人で西園寺に合いそうなものを考える。
「どれもいいものばかりで迷います。西園寺さんがどれで喜ぶか見当もつきません。」
「西園寺さんならどれでも喜ぶと思うよ。だから影山さんがいいと思ったものでいいんだよ。」
「そうですか。そうだと嬉しいんですけどね。」
影山さんは長い時間考えて一つのコップを購入した。それはとっても綺麗で西園寺さんなら絶対に喜んでくれる。影山さんもとても満足そうな表情だ。
「それにしてもここは人が多いね。とりあえず買い物も終わったしここから出ようか。」
「そうですね。早く西園寺さんに渡したいです。ってあれは?」
私が店を出ようとすると影山さんはその場で立ち尽くしていた。その表情は絶望してるようだった。一体どうしたというのだろうか。
「な、なんでここに?ここにはいないはずなのに。ど、どうして。」
「ねえ、これちょーヤバない?」
「それな、利佳これ買おうぜ。」
そこには男女四人組がおり、影山さんはフードを被り私の後ろへと隠れた。四人組はこちらには気付いてないようだが影山さんはずっと震えていた。
「大丈夫こちらには気付いてないし、タイミングのいいところで店を出ようよ。」
しかし影山さんは何かを思い出したのか涙を流して震えていた。
「なんでこんなところにあの人たちが。そのためにここまで逃げてきたのに。どうして。」
影山さんはぶつぶつと独り言を言ってずっと私のところに隠れている。私も何かしたかったが今の私にできることなど一つもなかった。
「影山さん大丈夫だから!とりあえず落ち着いて。今ちょうどあっち側に行ったから早くここを出よう?」
「す、すみません。今すぐに出ましょう。」
とりあえず私は声をかけて影山さんの手を握ったままこの店を出た。手を握っている間もずっと震えていたが何があるのだろうか。とても気になるが今は聞ける雰囲気ではなかった。
「さっきは見苦しいところを見せました。本当に申し訳ありません。」
あれから私達はショッピングモールを出て寮へ帰ろうとしていた。影山さんは落ち着いてやっと普通に喋れるようになっていた。
「影山さんは悪くないんだから謝らなくていいよ。それよりもう大丈夫なの?」
「はい、もう大丈夫です。そもそも僕が外に出たのが悪いんです。西園寺さんともっと仲良くなりたいと思ったのが。」
自分を責める影山さんを見てると心が痛くなる。まるで過去の私を見てるようだ。
「それは違うよ。影山さんは悪くない。何かに憧れて変わろうとしていいんだよ。」
「それはそうですけど昔のことを思い出すと辛くて僕は結局変われないと思ってしまうんです。それに西園寺さんはみんなの人気者で僕には勿体無い人だから僕は一人でいた方が。」
影山さんの話を遮って私は手を握る。影山さんの手はひんやりと冷たい。
「その気持ちは私にもわかるよ。なんだか少し遠いなって思うことはあるから。だからこそ私はその人のために何かしてあげたいと思うんだ。だから影山さんはもっと自分に自信を持っていいし西園寺さんとももっと一緒にいていいんだよ。それに影山さんの昔のことは分からないけど嫌な人だったら無視していいから。」
影山さんの自己肯定感の低さも過去に何かあったのかもしれない。でもきっと影山さんは優しいからどんなに自己肯定感が低くてもやっていけると思う。それに私達が影山さんを守るから。
「うっ、そんなこと初めて言われました。」
「急に泣いてどうしたの?」
影山さんの突然の涙に私は困惑する。もしかして変なこと言った?
「だって西園寺さんも日野さんも僕なんか優しくしてくれるので嬉しくて。今日は日野さんと一緒に買い物できて良かっです。」
こうやって寮のみんなと仲を深めることができて私としても嬉しい。また今度暇な時に西園寺さんや影山さんとお出かけしたい。
「私も楽しかったよ。また、今度お出かけしようね。」
気づけばもう学校におり私達は寮の前で別れることにした。
「はい、今日のことは絶対に忘れません。僕も日野さんの力になりたいので困った時は言ってください。それでは。」
「それじゃあまたね。」
私は挨拶をして影山さんと別れた。やることも終わったし今日は早く眠ろう。そんなことを考えつつ扉を開けようとする。
「えっと、久しぶりだね。咲ちゃん。」
私が振り返るとそこにはひまりの姿があった。
「ただいま戻りました。西園寺さんはいますか?」
「あら?影山さんが外出なんて珍しいですね。どこに行っていたんですか?」
僕が扉を開くと西園寺さんは真っ先に出迎えてくれる。西園寺さんはいつも笑っていて太陽のようだ。
「えっと、実は日野さんと買い物に行ってました。」
「私に内緒で日野さんとですか。何をしてたんですか?」
なんと言っていいか分からずに私は困惑する。西園寺さんは少し怒ってるようにも見える。やっぱり僕といたら嫌なのかもしれない。
「えっとただ日野さんと色々買い物してただけです。別に変なことはないですよ?」
「そ、そうですか。私は別に何とも思っていませんが。しかし私も影山さんとどこか外に出かけてみたいものです。今度影山さんが嫌でなければ私と外に出てくれませんか。」
ああ、やっぱりこの寮のみんなは優しくて暖かくなる。こんな僕にもみんな普通に接してくれて安心する。だから僕も変わりたいと思うんだ。
「はい、僕でよければ。それと西園寺さんに渡したいものがあるんです。」
私は今日買ったひまわりの絵が描かれたコップを西園寺さんに渡す。
「これはどうしたんですか?」
「そのいつも西園寺さんにはお世話になっているので。実は西園寺さんにプレゼントをしたいと思って外に出たんです。僕と仲良くしてくださりありがとうございます。」
思い切って西園寺さんにコップを渡した。キモいと思われてないか心配になる。もしかしたら昔みたいに。私が恐る恐る顔を見上げると西園寺は涙を流していた。
「西園寺さんどうしました?やっぱり気に入りませんでしたか?」
「ちっ違うんです。ただ本当に嬉しくて。影山さんが私のために外に出てプレゼントしてくれたことが。」
どうやら喜んでくれたようでホッとする。西園寺さんにまで嫌われたら僕はおかしくなるから。
「喜んでくれて良かったです。変に思われないか心配だったので。」
「思うわけありません。このコップ大切にしますね。それと私も影山さんといていつも幸せですよ。」
そうやって笑う西園寺さんはとても綺麗で目を瞑るほどに眩しかった。




