言いたいこと
「大丈夫ですか日野さん?」
足から血が流れ、顔を歪ませていると近くにいた西園寺さんと影山さんが血相を変えてやって来る。
「う、うん。足に激痛が走っただけだから。」
私は椅子に座り靴を脱いだ。靴の中にはガラスが入っており、足の裏が血だらけになっていた。
「まあ、誰がこんなことを。とりあえず私が日野さんを保健室へ連れて行きますので影山さんは浅野さん達にこの事を伝えてください。」
「分かりました。二人ともお気をつけて。」
影山さんはそう言うとグラウンドの方へ向かって行った。
「さあ、それでは私達も向かいましょうか。」
そう言って西園寺さんは私を抱っこするが私は慌てて止める。
「ちょっと待ってください。別に抱っこまではしなくても。」
「いいえ。今の貴方は怪我をしてるのだから大人しくしてください。それでは行きますよ。」
抱っこは恥ずかしいがこの足で歩くのは危ないので大人しく抱っこされることにした。
「それにしても酷いですね。誰がこんなことを。」
その声色はいつもより低く明らかに怒っていた。
「はい。私もよく分からなくて。」
とは言ったがなんとなく犯人はわかっている。おそらく城戸さんであろう。しかし、証拠がない今城戸さんがやったと決めつけることもできない。
「誰が犯人だとしても許されません。それに今日は体育祭ですよ?一番足が大事だと言うのに。」
西園寺はぶつぶつと呟いて怒りを露わにしている。私の為にここまで怒ってくれるとうるっときてしまう。
「失礼します。先生はいらっしゃいますか?」
私達は保健室に着き、ドアを開けるとそこに先生はおらず生徒が一人いた。
「あら、ごめんなさい。今先生は留守にしていて。」
「そうですか。緊急で見て欲しかったんですが。」
「ってあら、その足どうしたの?ガラスが刺さってるわ。」
私はさっき玄関で起こった事を話す。
「まあ、誰がそんな酷い事を。それなら私が治療するからそこに座って。」
先輩らしき人はそう言うと、治療箱を取り出し私の足を治療してくれる。
「すいません。それで貴方は?」
「あらー、自己紹介がまだだったわね。私は3年生の美園聖亜よ。保険委員の委員長をやってるわ。本当は勝手に手当てをするのはダメなんだけど今は緊急だから特別よ。それであなた達は?」
美園先輩に聞かれ私達も自己紹介をした。
「あらー、咲ちゃんとメリアちゃんね二人とも可愛いわー。」
美園先輩はとてもふわふわしていて優しそうな先輩だった。
「それにしても酷いわー。誰がこんなことをしたのかしら?こんな奥までガラスが刺さってて痛そうだわ。」
美園先輩が優しく手当てしてくれるお陰で痛みはほとんどなかった。
「はい、とりあえず消毒して包帯は巻いたわ。ただししばらくは足を動かしすぎないことね。もちろん午後からの体育祭も出てはダメよ。」
「分かりました。しばらくは安静にします。」
まだ私の競技は二つ残ってるし、出たくてしょうがなかったがとりあえず安静にすることにした。
「咲ー、大丈夫?怪我したって本当?」
私が休んでいるとすごい速度で蜜柑がやってきたと思うとすぐに私に飛び込んでくる。
「うん。ちょっと痛かったけどもう大丈夫だよ。」
「うう、咲が無事でよかった。咲が怪我したって聞いた時はびっくりしたよ。」
蜜柑は涙目で私に抱きつく。
「あらあら、どうやら私は邪魔みたいね。先生にも伝えておくからここは自由に使ってね。」
「それなら私達も戻りますね。行きますよ影山さん。」
そう言ってみんな持ち場に戻って行きこの場には私と蜜柑だけになった。
「咲の足、こんなボロボロになって私心配だよ。」
本気で心配してる蜜柑に私はどんな顔をしたらいいか分からずに困る。
「私は全然大丈夫だから。」
私はいつものように笑って返すが蜜柑は明らかに怒っていた。
「大丈夫なんかじゃない!この前だって体操着隠されたり服びしょびしょになってたりしたじゃん。私は咲が心配なんだよ。辛いことは私に言っていいんだから。」
「だけどこれ以上は本当に迷惑だから。」
「迷惑でも構わないよ。私だって普段から咲に迷惑かけてるし、困った時はお互い様だよ。」
蜜柑の温かい言葉に私は涙が溢れた。今まで我慢してた言葉があふれる。
「うん。私、本当は悲しいよ。足だって痛いし、体操着を隠された時も怖かった。」
「うん。もっと聞かせて?」
私の話に蜜柑は優しく相槌してくれる。
「私も本当は言い返したかったけど何も言えなかったし誰も頼れなかった。」
「うん。それなら私の事を頼って。」
蜜柑に悩みを打ち明けると心が明るくなった。今なら自分の言いたいことが言える気がする。
「ねえ、蜜柑。私やりたいことがあるんだけど手伝ってくれる?」
「もちろんだよ。だけどその前に一つだけ。」
蜜柑はそう言って私の顔に近づくと私のほっぺを触って唇を近づける。私は反射的に目を瞑ってしまったがこのままじゃキスをしてしまう。だけどもそれでも私は構わなかった。
「咲、私咲のことが。」
「コラー!アンタ達何やってるのよ!」
唇同士が触れる距離まで来たところで綾乃達がやって来る。私は慌てて蜜柑から離れる。
「チッ、いいところだったのに。」
「咲は怪我してるってのになんて破廉恥なことしてるのよ!」
「咲ちゃん大丈夫だった?」
「日野さん安静にしてね。」
顔を真っ赤にする綾乃と心配してくれるひまりと柳さん。みんな私に優しくしてくれる。そう思うと私は嬉しくてたまらない。
「ねえ、みんな。私今から城戸さんの所に行こうと思うんだ。協力してくれる?」
みんなのおかげで私は前を向くことができる。
あれから時間が経ち、体育祭は終わった。午後から私は観戦することしか出来なかったけどみんなが頑張ったおかげで無事一位で終わることができた。柳さんもかなり動けるようになってたし、見てるだけでもとても面白かった。振り返ると今日の体育祭はとても楽しかった。だけれどやらないといけないことがまだ一つある。
体育祭を終えた私は屋上で城戸さんを待っている。来てくれるか分からないけど私は城戸さんと二人でお話ししたかった。もちろん何かあるといけないので蜜柑達が隠れてはいるけど。
静かな屋上で待っているとガチャとドアが開く音がした。
「ねえ、私をこんな所に呼んでなんのつもり?」
「一度二人で話したいなと思って。城戸さんのこともっと知りたいから。」
「はあ?アンタのそういう所が嫌いなんだけど。誰にでも可愛い媚び売っちゃって本当気持ち悪い。」
城戸さんは嫌味を吐いて私を睨みつけるが引くつもりは一切ない。
「少し聞きたいことがあるの。私の体操着を隠したり、靴にガラスを入れたのは城戸さん?」
まずは事実確認から始める。
「ええそうよ、アンタがうざいからやったの。」
「なんでやったの?」
「だからアンタがうざいからやったって言ってるでしょ。ただそれだけよ!」
「本当にそれだけ?私がウザいというだけでここまでやるの?」
私が尋ねると城戸さんは少し動揺した。私は思ったのだ。城戸さんが私を嫌っているのは分かったが私がなぜここまで嫌われてるのか。城戸さんが突っかかって来た時期や城戸さんの発言を察するに答えは一つしかないと思った。
「何がいいたいのよ?」
「城戸さんはひまりのことが好きなんじゃないの?だからいつも近くにいる私が嫌いだった。違うかな?」
「それよ。そのひまりってのやめてよ!馴れ馴れしいのよ。」
私の言葉に城戸さんは顔を真っ赤にする。それでも私は話を続けた。
「やめないよ。私はひまりの友達だから。でもひまりとは友達なだけで変な関係じゃないから。」
「うるさい!うるさい。うるさい。うるさい。うるさないのよ!私はずっと小さい頃から南雲さんのことが好きだったのにアンタみたいなぽっとでのやつが全て奪うのよ。アンタみたいな媚びを売ることしか出来ないカスが腹立つのよ!」
城戸さんは声を荒げるとそのまま私の方へ向かって来る。
城戸さんはすごい勢いで拳を振るうがその拳が私にくることはなかった。
「これ以上咲を傷つけさせないよ。」
「チッ蜜柑。」
「さっきの話は聞いてたよ。だから中学の時、私にもよく突っかかって来たんだね。」
「だから何よ。アンタらみたいなやつ私は。」
木戸さんはそう言うとまた私達の方向へ向かって来る。蜜柑は私を守る体制になる。
「もうやめて!」
南雲さんが蜜柑を殴ろうとしたその時、扉からひまりがやって来て大きく叫んだ。
「城戸さん、もうやめてよ。私のことが好きなのは分かったから。これ以上二人を傷つけないで。」
「ごめん。でも私南雲さんのことが大好きなの。死にたいと思った時、テレビに映った南雲さんを見たの。そこに映る南雲さんはカッコよくて私にとってのヒーローだった。そんな南雲さんがぽっとでの女に優しくしてるのを見ると私無性に腹がたって。」
城戸さんはそう言いながら大きな涙を流す。やっと自分のやったことの大きさが分かったように。
「ありがとう。私の事を好きでいてくれて。あたしをここまで思ってくれるファンがこんな近くにいたんだね。」
ひまりはそう言って城戸さんに優しく微笑む。その姿はまさに天使だった。
「でもね。ひまりも蜜柑もあたしの大事な友達なの。だから二人にしたことは誤って欲しい。」
ひまりの言葉に城戸さんは素直に頷く。
「ごめんなさい。二人とも悪くないのにアタシの逆恨みで傷つけて。」
城戸さんは私に深く頭を下げて誤った。
「うん。謝ってくれてありがとう。これからは城戸さんとも仲良くしたいな。」
私はそう言って手を差し出し城戸さんもその手を取る。
「はい。こちらこそ。」
色々とすれ違いはあったがこれでようやく城戸さんとも仲良くなれる気がした。
「もう、次咲に手を出したら容赦しないからね。」
「じゃあみんなで帰ろっか。」
私達は話しながらこの屋上を後にした。
それから数週間が経ち気づけば七月の中盤まで差し掛かっていた。
体育祭が終わった後先生たちにも色々聞かれることとなった。
城戸さんとはあれから仲良くしているが城戸さんも流石にお咎めなしとはいかなかったようで色々とペナルティがついたらしい。
とはいえ私達はあれから仲良く出来てるのでよかった。数週間経つと足も回復して、今ではかなり歩けるようにはなっていたし夏休みにはいっぱい遊べる。
「咲ー暇だよ。遊ぼう。」
「そうだね。というかもうすぐ夏休みだけど何か予定あるの?」
「うーん。咲と遊ぶ毎日かなー。」
「そうだね。それなら今の内に予定決めとこうか。」
こうして体育祭は無事終わることができ、次は夏休みという大きなイベントが始まるのだった。




