トレーニング
「はあはあ、もう無理。一回休ませて。」
柳さんは汗だくで今にも死にそうだった。
「まだ始まったばっかりだよ柳ちゃん。もうちょっと頑張ろうよ。」
「このままだと死んじゃうから少しだけ休むませて。」
柳さんはそう言うと日陰に入りお茶を飲んだ。
私達は顔を合わせ大きくため息を吐く。
私達は運動が苦手だという柳さんのために体育祭に向けて特訓することになったのだが正直私は舐めていた。まさか柳さんがここまで運動音痴だとは思わなかった。
私達は最初柳さんの実力を測るために50メートルを走らせて見たのだがあまりに遅く、一回走っただけで息が上がってしまった。
その後も柳さんが出る種目をやって見たのだがどれも上手くいかず正直私達は諦めかけていた。
「ちょ、このままじゃ本当にまずいで。どうするん?」
「うーん、ちょっとずつ慣らしていくしかないんじゃない?」
涼と綾乃はもうお手上げだと言わんばかりの表情をしている。
「やっぱり私、迷惑かな?」
二人の会話を聞いて、柳さんがしょぼんとするので私とひまりは慌ててフォローする。
「そ、そんなことないよ。これからあたしたちと頑張ろう。」
「そうだね。私達四人で付きっきりで見るから。」
「ならいいのだけど。私、どうしたらいいかわからなくて。」
「そうやな。まずは基礎を身につけるところからや。」
「基礎?」
「そうね。毎日少しでも運動することで体力をつけるのよ。」
柳さんは理解したのか静かに頷く。
「それじゃあ早速ゆっくりでいいからグランドを走らない?もちろんみんなで。」
ひまりの提案で私たちはグランドを軽めに走ることにした。柳さんを真ん中にしてみんなでグランドを走る。
最初はほぼ歩きから始まり少しずつ速度を上げる。
「はあはあ、運動部のみんなは毎日こんなことしててすごいね。」
「大丈夫だよ。ちょっとずつほぐしていけば体育祭までにはかなり良くなってると思うから。」
私は柳さんに優しく声をかけた。私も最初はバスケ部の運動に追いつけなかったが最近はかなり動けるようになったから柳さんもコツコツ運動すればいける気がした。
「そういえば純粋な疑問なんやけど柳ちゃんは今までの体育どうしてたんや?」
「私今まで体育の授業はサボってたの。」
柳さんはにこっとしながら言ったがそれはヤバいのではと思った。確かにこの前の体育も柳さんは見学していたけど。
「それじゃあ今回も休めばええんちゃう?」
「ううん。日野さんの足は引っ張りたくないから私も頑張りたいの。」
柳さんはそう言って私の服のすそを掴む。そんなことを言われると私までやる気が出てくる。
「そう言うことなら任せてよ。これからずっと付き合うからさ。」
私がそう言って微笑むと柳さんは顔を真っ赤にする。
「えへへありがとう。日野さんが教えてくれるなら私頑張れるよ。」
それから私達はグランドを何周か走った後、休憩することにした。
「ふー、それにしても体育祭が待ち遠しいね。」
ひまりの言葉にみんな頷く。やっぱり体育祭はわくわくする。
私達が休憩をしていると楓先輩が話しかけてきた。
今日は部活はないはずだけど自主練だろうか。
「あれ、咲ちゃんだ。こんな所で何してるの?」
「えっと体育祭に向けてみんなで練習してたんです。先輩こそ自主練ですか?」
「そうなんだ。みんなすごいねー。私もバスケの大会が近いから自主練してるんだ。それじゃあ咲ちゃんも練習頑張ってね。」
楓先輩は微笑むと体育館に向かって行った。やっぱり楓先輩は凛としてカッコいいな。
「なあ、咲ちゃんは楓先輩と知り合いなんか?」
「うん。部活の先輩でとっても優しいんだよ。」
「楓先輩は私でも知ってるわよ。頭が良くて運動神経も良くてすごくモテるらしいわ。」
私達が楓先輩の話をしてる時、涼だけは普段と違いとても真面目な顔つきになっていたが何かあるのだろうか。
私は少し気になったが聞かないことにした。
とりあえず私達は休憩を終えまた練習を再開することにした。
「うへー、もう疲れたよ。今日は終わらない?」
ひまりが今日は終わろうと提案すると、柳さんは大きく頷く。
「そうね。今日はもう終わりにしましょうか。」
「やっと終わったー。もう眠りたい。」
柳さんは汗だくでもうくたくたになっていた。運動に慣れてる私達でもそれなりに疲れた。帰ったら早くお風呂に入りたい。
「それにしても最初は無理だと思ってだけど体育祭の日までには何とかなってるかもしれないわね。」
今日の1日だけで柳さんの壊滅的な運動センスが少しだけ良くなった気がする。
「そうだね。これからもあたしたちが教えるから頑張ろうね柳ちゃん。」
「うん、みんなありがとう。私、今とっても嬉しいよ。みんながいてくれて良かった。」
柳さん笑顔で微笑むとそのまま迎えの車に乗って帰って行った。
「それじゃあまた明日ねー。」
「うん。それじゃあまた明日。」
私はみんなと別れて寮に戻る。
私は急いで自分の部屋に入った。
「ごめん蜜柑待った?」
もしかしたら怒ってるかもしれないと思い私は恐る恐る声を掛けたが蜜柑はソファーの上で眠っていた。
「蜜柑寝てる?」
「うーんむにゃむにゃ。」
私が声を掛けても一切起きずぐっすりと眠っていた。
もしかしたらずっと私のことを待っていたのかもしれない。そう考えると申し訳なくなる。
しかし、蜜柑の寝顔が可愛くてずっと見たくなる。
私は蜜柑の寝顔を見つめる。
「うーん咲、大好きだよ。」
私が蜜柑を眺めていると蜜柑は突然寝言を呟く。
蜜柑が突然大好きと言うから起きたのかとびっくりした。
そういえば蜜柑はよく私のことを好きって言ってくれるけど多分蜜柑の好きと私の好きは違うと思う。もし私の気持ちが蜜柑にバレてしまったらどうなるのだろう?
もしかしたら拒絶されてしまうかもしれない。そう思うと怖くてこの気持ちを伝えられなかった。
それでもいつか伝えられる日が来ればいいのだけど。




