南雲ひまり
「南雲さんは困ってますよ?」
廊下を歩いていると南雲さんが困ってる様子だったので私は止めに入ることにした。
「なんだよ。まるで俺たちが迷惑かけてるみたいな言い方は。ただ俺たちはひまりちゃんのファンで話しかけてるだけだろうが。」
男子生徒は南雲さんの手や肩を平気でさわっている。ファンにしては態度が悪く。南雲さんも露骨に嫌そうな顔をしている。
「でも本人は嫌がってますよ。ファンならもう少し南雲さんの様子とか見た方がいいと思います。」
「なんだお前パッと出てきて。お前に関係ねーだろ。」
睨まれて怖かったが私はもう逃げない。困ってる人を見過ごせなかった。
「迷惑かどうか本人に聞いたらどうですか?」
「なあ、ひまりちゃんは迷惑と思ってないよな。」
男子生徒は必死に聞くが南雲さんは首を横に振る。
「えっと急に話しかけられるとあたしも困っちゃうかな。」
「ほら、本人も困ってますよ。それじゃあ行こっか。」
私は南雲さんの手を握ってこの場を去る。南雲さんの手は小さくて震えていた。
「おい、待てよ。」
私は男子生徒の話を無視して逃げる。私と南雲さんは女子トイレに隠れた。やっぱり近くで見るとすごく綺麗で見惚れしまう。
「ふう、なんとか逃げ切れた。大丈夫でした?」
「うん、貴方が来てくれたおかげで助かったよ。お名前を聞いてもいいかな?」
南雲さんは私に手を握ると笑顔で微笑んでくれる。
「私は日野咲。咲でいいですよ。」
「それならあたしのこともひまりって呼んで。後、同い年でしょ?タメ口で喋ろうよ。」
芸能人相手にタメ口で喋って反感を買わないか心配だがタメ口でしゃべることにした。
「分かった。それでさっきはどうだった?もしかして私、余計なお世話だったりする?」
「いや、そんなことないよ。あの人達私の体を触ってくるから怖くて。でもあたしのファンって言うから断りづらかったの。だから咲ちゃんが助けてくれて良かった。」
「そっか、それは災難だったね。この学校にばかりなのに。」
「うん。正直友達できるかとか、不安もあったけど咲ちゃんがいてくれてよかった。」
そう言ってひまりはニコッと笑う。芸能人というのはこんなにも可愛いものなのだろうか。金髪のショートウェーブがとても綺麗だった。
「あ、あんまり見られると恥ずかしいよ。」
私は慌てて目を逸らす。可愛いからつい見つめてしまった。
「じゃあ、私はそろそろ戻ろうかな。」
早く戻らないと、柳さんに問い詰められそうだから私は教室に戻ろうとするがひまりは私の手を掴む。
「この学校まだちょっと怖いからもう少し一緒にいてくれる?」
ひまりに上目使いの顔で見られると断れなかった。あまりにもそれは反則すぎる。
「そっか。それなら私がこの学校を案内しようか?」
「えっ、いいの?」
「うん。それじゃあ回ろっか。」
ひまりは目を輝かせる。どうせ私もやることなかったし、ひまりとはもっと仲良くなりたいから学校案内をすることにした。
「きゃあー。ひまりちゃんが本当にいる。」
「すげー、テレビで見るより百倍可愛い。」
私がひまりと学校案内をしていると、すごい人に見られる。
一つはひまりを見る視線。有名人ということもあり周りの人はものすごくうるさかった。写真を撮る人もいてひまりは嫌そうにしていた。あまり話しかけてくる人はいなくてそこは安心できる。話しかけて来る人もいたがひまりが軽く話して終わった。特に揉め事になることはなくて良かった。
そしてもう一つは私を見る視線。多分なんでひまりと一緒にいるんだという視線だった。確かに一般人の私とひまりじゃ不釣り合いかもしれないがそんなものは関係ない。私はそれでもひまりと仲良くなりたかった。
私とひまりはこの視線に耐えきれず、できるだけ人の少なそうなところに移動した。
「やっぱりひまりって人気だね。」
私が聞くとひまりは照れて頬を赤くする。
「まあ、テレビとか出てるからどうしてもね。でもあたし、あんまり人と関わるの好きじゃないんだ。」
「そうなの?てっきり得意だと思っていた。」
テレビで見るひまりはとても笑顔でいろんな人関わってるイメージがあった。
「お仕事ではそうだけど、普段は一人が好きかな。」
「そっか。お仕事って大変なんだね。」
「でもやりがいもあるし、とっても楽しいんだ。」
そう言ってニコッと笑うひまりはとても可愛いくてビクッとなってしまう。
「そういえば咲ちゃんってあたしのことあまり聞いてこないね。さっきの人達みたいにさ。」
「だって、ひまりそういうの嫌いでしょ。それに私はひまりと友達になりたいから。」
ひまりとは友達になりたかったからあまりひまりを困らせるようなことはしたくなかった。それに私は芸能人としてのひまりより、素のひまりが見たかった。
「そっか、咲ちゃんが初めてだよ。私を普通の人として見てくれたのは。大体は芸能人のひまりとしてしか認識してくれないから。アタシも咲ちゃんともっと仲良くなりたい。」
「うん。よろしく。」
私とひまりはお互いの手を握って笑い合う。
その後、私はひまりと学校案内の続きをしようと思ったが突然校内放送が流れた。
「日野咲さん。今すぐ職員室まで来るように。」
霞先生の声を聞いて、私はハッとした。そういえば私霞先生に呼ばれてるんだった。完全に頭になかった。
「ごめんひまり。この後予定あるんだった。それじゃあ、またね。」
「う、うん。それじゃあまたね、咲ちゃん。」
私はひまりに軽く手を振って、職員室を目指した。
私はすぐに霞先生の元に向かう。どうか怒ってませんように。
私は急いで霞先生のいる職員室へと向かった。中に入ると霞先生が暇そうなあくびをしながら待っていた。
「すみません。ちょっと遅れちゃって。」
「何をしてたんですか?まあ、構いませんが。それより時間がないので本題に入りますね。もうすぐ、体育祭がありますよね、その競技に出る人を決めて欲しいのですが、お願いできますか?」
そういえば私は体育委員だった。体育祭があることを完全に忘れていた。
「はい、任せてください。」
「困ったことがあれば私を頼ってくださいね。それと、最近は困ったことはありませんか?」
「はい。最近は気をつけてますし、近くに蜜柑がいるので大丈夫ですよ。」
霞先生は四月に私が不審者に襲われたせいか、あれから定期的に私に何かないか聞いてくるようになった。優しいがさすがに過保護すぎるのではないかと思ってしまう。というか霞先生は私に対してだけ少し甘い気がするのだが気のせいだろうか。
「そうですか。それならいいのですが。それではもうすぐ授業が始まるので終わりますね。」
「はい。失礼しました。」
私は挨拶をして職員室を出て、教室に戻った。教室ではもうすぐこのクラスにひまりが来るということもあり、とても盛り上がっていた。
私は自分の席に戻ると柳さん達に話しかける。
「ごめん。ちょっと遅れた。」
「なんや、えらい遅っかったな。」
「よかった日野さんがまた男子に襲われてるんじゃないか心配だったよ。」
「それは大丈夫だよ。」
柳さんはいつも私を心配しすぎな気がする。まあ、嬉しいけれど。
「ごめん。ちょっと時間かかっちゃって。」
「なんのお話だったのよ?」
「えっと体育祭の競技決めを私がやるって話だったよ。」
「あー、そういえばもう体育祭の季節ね。」
「はあ、めんどくさいなあ。サボってもええかな。」
「言い訳ないでしょ。本当涼ったら。」
「えへへ、私は日野さんと同じ競技に出たいな。」
「うん、そうだね。そうしよっか。」
「涼は足速いんだからリレーに出なさいよね。」
「いやー、リレーはええかな。走るのだるいし、汗かくし。」
私達はそれぞれどの体育祭の競技に出るかで盛り上がっていた。
あれから少し時間が経つとチャイムがなり、それと同時に霞先生が入ってくる。
「はい、それではみなさんお待ちかねの転校生の紹介を始めますよ。」
霞先生がそう言うと、普段なかなか席につかない生徒も全員席につき、みんなわくわくしていた。
かくいう私もひまりと同じクラスになれることがとても楽しみではあった。
「それじゃあ南雲さん入ってきてください。」
霞先生の合図とともにひまりは教室に入ってくる。そしてそれと同時に私はひまりと目が合う。
「あっ、咲ちゃん。同じクラスなんだよかった。」
ひまりはそう言って私に微笑む。そしてクラスメイト全員の目が私に向かう。
私はため息をつくことしかできなかった。




