二人で
「いやだー。私もついて行く!」
「だめだよ。柳さんが二人で遊びたいって言うから今日はごめんね。」
「別に私がいてもいいじゃん!柳さんは二人きりになって咲にやましいことをする気だよ絶対!」
「柳さんはそんなことしないよ。本当にただ遊ぶだけだし、不審者にも気をつけるから。」
蜜柑は不審者に遭遇することを危惧してるのだろうか。確かに不審者に会うのは私も不安だ。
「うう。辛い、私も行きたいよー。」
「てか昨日はギリギリ承諾してくれたじゃん。」
「そうだけどやっぱり辛いよ。だってその間私は一人きりってことでしょ?」
そう実は昨日も蜜柑とこの話でずっと争っていたのである。
それは柳さんからの電話がきた時のことだった。
「明日柳さんと遊ぶことになったから明日は出かけるね。どんな格好して行こうかな。」
私が明日のお出かけを楽しみにしていると後ろから蜜柑が抱きついてくる。
「ねえ。私も行く!柳さんのこと私まだ信じきれてないし、二人きりにさせたら大変なことになるよ。」
「蜜柑は柳さんを何だと思ってるの。」
「いやだって唐突過ぎない?絶対変なことされるよ。
体中を舐められたり、色んなところ触られたりするに決まってる!」
蜜柑の柳さんに対する評価が大変な事になってるのはこの際無視するとして、実際急だなとは思った。柳さんってあんまり人と関わるのも好きじゃないって言ってたし、こうやって誘って来るのは確かに意外だった。とはいえ柳さんとはゆっくり喋りたかったし、もっと仲良くなりたかったからちょうどいい機会だ。
「まあ、とりあえず柳さんに蜜柑もついてきていいかだけ聞いてみるよ。無理って言われたら諦めてね。」
そう言って私はLINEで柳さんに聞いてみた。しかし蜜柑の望まない結果となった。
「どうだった?」
「えっと無理だって。私とゆっくり話したいらしくて。」
「はあ?やっぱり変なことするつもりだよ。咲ちょっとスマホ貸して。」
蜜柑はそう言うと、私の手からスマホを奪い、柳さんに電話をかけた。
「もしもし日野さんどうしたの?」
「私だよ。」
「浅野さんどうしたの?」
「明日咲と遊ぶんでしょ?なんで私がついてきちゃだめなの?私も咲とお出かけしたいんだけど。」
「だって日野さんと二人きりで遊びたいもの。」
「何かやましいことするつもりなんでしょ。」
「そんなことしないよ。というか浅野さんはいつも日野さんと一緒にいるんだからとやかく言えないでしょう?なんなら浅野さんのほうがやましいことしそうだよ。」
突然電話をしたと思えば喧嘩するなんて私はどうすればいいのか。少なくとも今は二人の喧嘩を止められそうにはなかった。
「それに最近この辺りで不審者がいるのは知ってる?二人だと危ないし、柳さんじゃ咲を守れなさそうじゃん。」
「まあ確かに、私と柳さんだけじゃ危ないかも。この前それで不審者に会った訳だし。」
またこの前のようなことがおきれば今度こそ私は立ち直れなくなるかもしれない。
「それに関しては大丈夫だよ。私の周りには常にボディーガードが数人いるから必ず危険から守ってくれるの。」
ボディーガードがいるってことはやっぱり柳さんはかなりの金持ちかもしれない。蜜柑もその後かなり考えていたが、柳さんがあまりにも折れないのでついに蜜柑の方が折れた。
「ぐぬぬ。わかったよ、今回だけだからね。次からは私も誘ってね。」
こうして蜜柑の方が諦めて二人で行くことが決定した。
「うん。それじゃあまた明日ね。楽しみだね日野さん。」
「うん、また明日ね。」
こうして蜜柑も納得したし一件落着だと思っていた。
そして今に戻る。
「昨日行かないって言ったからには今日は来ちゃだめだよ。約束は守らなきゃ。」
「うん。まあそうだよね。本当は行きたすぎるけど今回は諦めるよ。じゃあさその代わりまた今度私と二人でデートしようね。」
「はいはい、考えとくね。それじゃあ行ってきます。」
「はーい。何かあれば私に電話してね。すぐに蜜柑の元に駆けつけるから。」
いや蜜柑は私のお母さんかと心の中でツッコミを入れて私は外に出た。それにしても最後はやけに簡単に引いてくれて逆に何か怪しくも感じる。とりあえず私は柳さんとの集合場所へと向かった。えっと確か校門前に集合だっけ。グランドでは今日もバスケ部が活動していた。そこには楓先輩の姿もあり、私に気づくとそのまま近づいてきた。
「やっほー、咲ちゃん。」
「お疲れ様です楓先輩。そういえば昨日、バスケ部に体験入部に行きましたよ。」
この前行った時は楓先輩はいなかった。
「らしいね。きららが楽しそうに話してたよ。本当は私も居たかったんだけど、昨日は急な用事ができちゃってさ。」
「そうなんですね。きらら先輩達はとても優しくて昨日はとても楽しかったです。」
「それは良かった。きらら達も喜ぶと思うよ。また、今度来てよ。今度は私も教えるから。」
「ありがどうございます。それではまた。」
「はいはい、またねー。あと不審者にも気をつけて。」
楓先輩に優しく手を振って目的地へと向かった。これ以上柳さんを待たせる訳にはいかない。校門に着くとそこにはすでに柳さんの姿があった。
「ごめん柳さん。どのくらい待った?」
柳さんはとても可愛らしい服装で少しメイクがされており、ただでさえ儚げな雰囲気で可愛いのにメイクと服装も相まって、ものすごい美少女だった。
「私も今来たところだから大丈夫だよ。それより日野さんものすごく可愛い。ただでさえ可愛いのに私服だとより可愛いよ。」
日野さんは私の服装をベタ褒めしてくれて少し恥ずかしくなる。このためにおしゃれをした甲斐がある。田舎の人間と思われたくなくて蜜柑にメイクしてもらった。
「ありがとう。柳さんもその服似合ってて可愛いしそのメイクも綺麗だよ。」
私がそう言うと柳さんは顔を真っ赤にしてもじもじした。
「えっとありがとう。咲にそう言われるとなんだか照れちゃうな。この日のために準備した甲斐があったよ。」
やっぱり柳さんは可愛いなあ。さっきから男子がこちらをチラチラ見てくるし、やっぱりすごくモテるんだなあ。
「ここはやらしい視線が多すぎるし早く目的地に行こうか。」
「そうだね。それにしても、柳さんってよくモテるんだね。」
私がそう言うと柳さんは私をじーっと見てくる。何かおかしいことを言っただろうか。
「咲さんは鈍感だよね。」
「えっ、何かおかしいこと言った?」
「はあ、まあいいや。それよりちょうど車が来たから乗って。」
柳さんはそう言われて車の中に入ったけどこれって高級車だよね?黒塗りの車で中には執事のような人が乗っている。
「あの柳さん?これって高級車じゃないの?」
「うん?そうだよ。」
柳さんは当たり前のように言っているが高級車なんて初めて見たし、まさか乗ることになるとは。今度お母さんに自慢しようかな。
「もしかして柳さんの家ってお金持ちだったりする?」
「うん。お父さんが社長なんだ。」
えー、そういうのってさらっと言っちゃうんだ。道理でいつも警備がしっかりしてるわけだ。ということはもし私が柳さんの気に障るようなことしたら、私の人生終わるのでは?私は一人勝手に身構える。
それから二人で楽しく雑談しているとすぐに目的地に辿り着いた。
「目的地に着いたよ。それじゃあ行こっか。」
「うん。そういえばここってどこなの?」
「そっか言ってなかったね。ここはデパートだよ。」
「デパート?何それ?」
私にはデパートが何か分からず、柳さんに質問すると柳さんは目を開いた。
「もしかして日野さんデパートを知らないの?」
「えっと私ずっと田舎にいたから、こういった建物は知らないんだ。ショッピングモールだってこの街で初めて行ったし。」
「そっか。じゃあデパートに行くのは私が初めてなんだ。」
「そうだね柳さんと行くのが初めて。」
「そっかそっか私が初めてなんだ。えへへ。」
とりあえず、最初は服を見ることにした。ここの服屋はショッピングモールの中にある服屋と違い、とても高級な感じで値段も高かった。服一枚でこの値段って嘘でしょ。これ買えるかな?もしかしてデパートって高いものしかない感じ?
「日野さんいいの見つかった?」
「うん。可愛いのはたくさんあるんだけど私のお金じゃ買えないかなって。」
「そんなこと心配しなくてもいいよ。私が全部払うから。」
「これくらい私が払うから大丈夫だよ。」
柳さんは笑顔で言ったが流石にこの値段を全て払ってもらうのはやばいので自分で払うことにした。
「むう。全然私が払うのに。」
「いやいや流石にこの値段は奢ってもらうわけにはいかないから!」
「そんなものかな?」
「柳さんの金銭感覚が怖すぎる。」
とりあえず私は服を一着買って休憩することにした。私と柳さんで服屋の前の椅子に座っていると男二人組が話しかけて来た。私は身構えるが、柳さんは堂々としていた。その姿はまさにお嬢様だ。
「そこの嬢ちゃん達。俺たちと一緒に遊ばない?」
「えっと、私達は今遊んでて。」
私はどうすればいいか分からずおどおどしているが月花は堂々としていた。
男二人が話しかけるが柳さんはその男達を無視しつづける。
「おい、お前ら聞いてんのか!」
無視され続けついにブチギレた男達が私達に手を下そうとする。私は身構えたが、その前に柳さんが誰かの名前を呼んだ。
「緑、この男達を始末して。」
柳さんがその名前を呼ぶと、柱から一人の男性がやってきた。
「仰せのままに。おいそこの二人、これ以上二人に近づくのであれば私も加減しないが。」
緑と呼ばれた男性が二人の男の胸ぐらを掴みながら睨みつける。
「ひっ。すいませんでした。もう二人に近づかないので許してください。」
男達がそう言って謝ると男性は手を離して舌打ちした。
すると男達は一目散に逃げて行った。あまりにも圧があるから仕方がない。
「流石だね緑。」
「ええ。柳お嬢様には指一本たりとも触れさせはしません。」
「そうだ、紹介するね。私の専属執事の緑だよ。目つきは悪いけど優しいし頼りになるんだ。」
緑さんは私をなぜかずっと見てくる。私は睨まれてビクッとする。
「なるほどこの方が日野さんですか。確かに優しそうな方ですね。」
「えっと、日野咲です。よろしくお願いします。」
「柳お嬢様はいつもあなたの事を話してますよ。なので私も一度お会いしてみたかったのです。少し不安でしたが安心しました。しかしお嬢様がそっち側だったとは。」
緑がそう言うと柳さんは顔を真っ赤にして怒った。
「ちょっと、それは咲には言わないでよ。それに不審者もいなくなったんだから早く戻ってよ。」
「はいはい。わかりましたよ。それではお嬢様を頼みましたよ。」
そう言って緑はどこかに行ってしまった。なんか執事にしては主人に対して少し舐めるような気がしたがとても優しそうな人だったな。それと柳さんの口調も少し変わっていた。二人とどんな関係なんだろうか?
「はあやっと嵐がさった。緑は頼りになるけど若干私を舐め腐ってるから。あとさっき緑が言ったことは忘れて。特にそっち側だってことは。」
「そっち側とは?」
「いやなんでもないよ。」
柳さんはそう言って話をそらしたが顔はものすごく真っ赤だった。
「とりあえず次は本屋にでも行こっか。」
「そうだね。」
「ねえ日野さん。手繋いでもいい?」
「もちろん。」
私が手を握ると柳さんはすごく嬉しそうな顔をする。蜜柑も柳さんもよく手を繋ぎたがるし、友達ってそういうものなのかもしれない。田舎にいた時もよく手を繋いで来る友達がいたし。
「やったー。えへへ嬉しいな。」
柳さんってそういたところは子供っぽいんだなあ。
「ちっ、咲にベタベタしやがって、というか咲も断ればいいのに。」
そう言って蜜柑は頬を膨らます。
「とりあえず落ち着きな。嫉妬するのはいいけどバレたら終わるんだからもっと慎重に立ち回らないと。柳さんは金持ちだし、ボディーガードも多いから。」
「この状況で嫉妬せずにはいられないよ。なんでこんな仲よさそうなところを見ないといけないの?」
「じゃあなんで尾行なんてしたのさ。アンタが行こうって言ったから来たんじゃん。」
「そりゃあ、あの二人が変な関係にならないように。」
はあ、なぜアタシがこんな目に。急に蜜柑に呼ばれたと思ったら咲を尾行するとか言い出してさ。本当にこいつは面倒くさい。
咲の事しか頭にない想い人を見てあたしは大きくため息をつく。
「椿、ぼーっとしてる場合じゃないよ。二人は本屋に入ったんだから私達も行かないと。」
「はいはいそうだね。」
私は少しモヤモヤしながらも逆にこれはチャンスだと思った。柳さんと咲をくっ付ければアタシにもチャンスがあるかもしれない。まだアタシは蜜柑への恋心を完全に諦めた訳ではない。
三人がそれぞれ真剣に考えているがそれは呑気な咲に伝わることはなかった。




