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はなかご  作者: 和音
ずっと一緒だから
110/110

二人きり

「それじゃあ鈴ちゃんと遊びに行ってくるから。だからそんな顔しないでよ。」

「むぅ、今日は休みだから咲を独り占めにしようとしてたのに。」

蜜柑は私に抱きついたまま一歩も動こうとしない。

もうすぐで鈴ちゃんとの約束の時間になるというのにさっきから蜜柑が離してくれずに困っている。

「そうは言っても鈴ちゃんと会える機会も少ないんだし今日くらいはダメかな?」

中学のみんなとは文化祭の後に分かれたが鈴ちゃんだけは観光でまだこの町に残っている様だった。そして昨日電話で明日二人きりで会えないかと連絡が来たのだが。

「やーだ。私も最近咲と遊べてなかったもん。だから今日は私と構ってよ。」

蜜柑は一歩も譲る様子はなく、ずっと私に抱きついてくる。いつも以上に駄々を捏ねる蜜柑に私は大きなため息を吐いた。

「確かに最近忙しくて蜜柑とお出かけしてなかったのは謝るけど今日はだけは譲ってくれないかな?」

私達はそれぞれ別の場所にばらけたが中でも鈴ちゃんと私の町はかなりの距離がある。さらに鈴ちゃんはお嬢様ということもあり、かなり忙しいと聞く。つまりこの機会を逃せば次に会うのがかなり先になる可能性があった。

「むぅ、それなら今度の休日に丸一日デートをしようよ。今回はそれで手を打ってあげる。」

「分かったよ。それなら来週蜜柑とお出かけするから。」

「言ったね?言質は取ったから。それとお出かけじゃなくてデート!」

私がそう答えると蜜柑は嫌そうにしながらも手を退けてくれた。蜜柑は何だかんだ言って私に甘い。ただデートではないが。

それに私だって別に蜜柑と遊ぶのが嫌という訳ではないのだ。来週の蜜柑とのお出かけも今から楽しみで仕方がない。

「それじゃあ、私はもう出かけるから。」

「私の分までちゃんと楽しんできてね。それと篝さんに何かされたらすぐに私を呼んでね?」

「はいはい、それは絶対大丈夫だから。じゃあ行ってくるね。」

私は蜜柑に手を振った後ドアを開けて駅を目指した。

蜜柑は一体鈴ちゃんを何だと思っているのか。確かに鈴ちゃんは私に当たりが強いことがあるがそれでもずっと私に優しくしてくれる。鈴ちゃんは優しくてかっこよくて私の憧れでもあった。

何より鈴ちゃんは私の大事な恩人なのだ。

    










「おーい、鈴ちゃん。ごめん遅くなっちゃった。」

「はあ、やっと来ましたか。遅刻ですよ咲。」

駅に着くと既に鈴ちゃんが待っており、私を睨んでいた。

「蜜柑と話してたら遅刻しちゃったよ。それで今日はどこに行くの?」

昨日鈴ちゃんから会いたいと連絡が来たがどこに行くかまでは聞いてなかった。

「服屋や本屋を回りつつお茶をするだけですよ。それでは最初は本屋へ向かいましょう。」

鈴ちゃんはそう言ってスタスタと電車の方へ向かっていく。私も鈴ちゃんに置いていかれない速度で歩いた。

「それにしても鈴ちゃんと二人で遊ぶのも珍しいね。」

「まあ、大体なのが咲にくっついていましたからね。本当にイライラしますよ。」

鈴ちゃんはじっと私を睨んでいた。やはり鈴ちゃんはあまり怒らせないべきだ。

「やっぱり鈴ちゃんってなのちゃんのことが好きなの?」

「急にどうしたんですか?」

私が尋ねると鈴ちゃんは呆れた様な顔で私を見る。

鈴ちゃんはよく私に対して当たりが強いけどそれも私となのちゃんの距離が近いからと前に言っていた。なのちゃんのことを好きとも言っていたがその好きがどの好きなことかは知らなかった。

「鈴ちゃんのことが知りたいというか。なのちゃんのことが恋愛的に好きなのか気になっちゃって。」

鈴ちゃんは最初いいづらそうにしていたが少しの間の後諦めた様に口にした。

「ふむ、私はなののことが好きですよ。もちろん恋愛として。」

「そっか、やっぱりそうなんだ。どうしてなのちゃんのことが好きなの?って痛い痛い。暴力は反対だよ。」

「あまり調子にのらないでください。何でそんなことを貴方に言わないといけないのですか?」

鈴ちゃんは私のほっぺを引っ張って怒っていたがそれでも私は鈴ちゃんのことがもっと知りたかった。それに鈴ちゃんは恋愛なんて興味がないと思っていたから普通に気になってしまう。

「鈴ちゃんの恋愛事情は気になるから。やっぱりなのちゃんとは幼馴染だから好きだったり?」

「はあ、咲は本当にうざいですね。いいですよ、そこまで気になるのであれば教えてあげましょう。とりあえず立ち話もあれですしカフェにでも寄りましょうか。」

「分かったからそんなに無理やり引っ張らないでよ!」

私は鈴ちゃんに無理やり手を掴まれてとてもオシャレなカフェへと連れていかれた。この店は高級なカフェだとテレビで有名になっていた場所だ。

「いらっしゃいませお客様。当店は会員カードがないと入れないお店となっております。」

「それならありますよ。どうぞご確認を。」

鈴ちゃんはそう言って財布から真っ黒のカードを取り出した。何故鈴ちゃんがここのお店のカードを持っているかは分からないが。

「お客様VIPの方ですか?大変申し訳ありません。今すぐVIP席に案内します。」

店員は黒いカードを見た瞬間慌てたような様子で私達をとても高級な部屋へと連れて行った。

「何で鈴ちゃんがそんなカードを?」

「ふふっ、一度この町に来た時に来たことがあるので。」

お嬢様ということもあり明らかに高そうなカフェなのに余裕そうな顔をしていた。そういえば中学の頃から鈴ちゃんは金銭感覚がおかしかった。

「とりあえず何か飲み物を頼みましょう。何がいいですか?」

「それじゃあこのロイヤルミルクティーにしようかな。それとこのロールケーキも。」

「それでは私はこの紅茶にします。それとこの苺のショートケーキも貰いましょう。」

私達が注文するとすぐに頼んだ品がやってくる。普段行く店よりも高いせいで緊張してしまう。

「それでは咲の質問に答えるとしましょう。つらまない質問をしたら怒りますよ?」

鈴ちゃんはそう言って紅茶を飲みながら私の目を見つめていた。

「ありがとう鈴ちゃん。鈴ちゃんが初めて恋に自覚したのはいつなの?」

「なのへの恋を自覚したのは中学の最初の頃ですね。小さい頃からなのことが好きでしたがそれはあくまで友達としての好きだと思っていました。ただ中学生になるとなのが他の人と話しているとモヤモヤする様になったんです。」

鈴ちゃんは嫌そうにしながらもなのちゃんを好きな理由について語り始める。鈴ちゃんはやっぱり優しい。

「なるほど、鈴ちゃんってその時からなのちゃんが好きなんだね。ってだからその怖い顔で私を見ないでよ。」

さっきから鬼のような形相で見つめてきて心臓が持たない。確かに好きな人が別の人に抱きついてるのを見るのは苦痛かもしれないが。

「なのが貴方に抱きついているのをずっと見ているこっちの気にもなってくださいよ。本当にイライラして仕方がありません。」

「ご、ごめんってば。まさか鈴ちゃんがなのちゃんのことを好きだとは思っていなかったから。」

昔から鈴ちゃんが私に当たりが強いのは分かっていたが鈴ちゃんがなのちゃんを好きだってことは分からなかった。

「まあ、咲は本当に鈍感ですからね。ここまで鈍いとイライラしますよ。」

「それにしてもなのちゃんに告白はしないの?」

「あの、それ本気で言ってます。貴方って本当に人を怒らせるのが上手ですね。」

さっきから鈴ちゃんが怒っている理由が私には分からなかった。鈴ちゃんは普段は温厚なのに。

「もしかして私変なこと言った?」

「まあ、貴方が鈍いのはこの際いいとして私はなのに告白するつもりはありません。告白して関係が壊れたくはないので。」

さっぱりとそう答える鈴ちゃんに私は少し複雑な気持ちになった。好きな気持ちを心に秘めておくのは辛い。これは今だに蜜柑に告白出来てない私が言うので間違いない。

「それでも私は鈴ちゃんに我慢して欲しくないよ。鈴ちゃんが辛いなら私も手伝ってあげたいから。」

私はそっと鈴ちゃんの手を握った。鈴ちゃんの手はピアノをやっているからかとても綺麗でスベスベしていた。

「はあ、本当に貴方はナチュラルにうざいですね。それにそんなに偉そうにするなら貴方の恋愛事情を教えてください。」

「わ、私はいいよ。それより飲み物も飲み終わったし次の場所に行こうよ。」

矛先が私に向いたところで私はこの場を去ろうとしたが当然のように鈴ちゃんに腕を掴まれて逃げられなくなってしまった。

「逃すわけがないでしょう。貴方は浅野さんが好きなんですか?それとも南雲さんですか?」

ニヤリと楽しそうに笑っている鈴ちゃんに私は諦めてため息を吐いた。これも全部自業自得だ。

「私は蜜柑のことが好きだよ。だけどまだ告白は出来てないかな。」

蜜柑は私によく抱きついてくるし私のことを好きだと言ってくるがそれが恋愛的な好きかは分からない。私は蜜柑といるとドキドキするが蜜柑まで同じ気持ちか不安だった。

「ほむ、それでは南雲さんとキスしたことはどう思ってるんですか?」

「ちょっと?何で鈴ちゃんがそのこと知っているの?あの場所には私とひまりしかいないはずだけど。」

当たり前のように私とひまりがキスしたことを知っている鈴ちゃんに思わず大声で叫んでしまった。

「咲は全て顔に出るんですよ。それに私は南雲さんに協力してましたからある程度のことは知っていますよ。」

「じゃあやっぱりひまりも私のことを恋愛として好きなのかな?ちゃんと返事してあげるべきだよね。」

あれからひまりのこともずっと考えていたが唇にキスをするということはやっぱり私のことを恋愛的に好きでもおかしくはない。

「ほう、鈍感な咲でもキスすれば気づくものなんですね。まあ、逆にそこまでしないと気づかないとなるとやばいですが。」

「何、やっぱり私は鈍感なの?」

「ええ、それはもうあり得ないほどに。」

椿や柳さんにもよく鈍感と言われたがこういうことか。まさか周りはみんなひまりが私のことを好きと知っていたということだろうか。

新たに知った事実に私は絶望した。

「とりあえず貴方が浅野さんのことを好きと知れてよかったです。勿論今話したことは二人の秘密です。」

「勿論だよ。それでひまりのことはどうすればいいと思う?」

今の私にはひまりにどう対応すればいいか分からなかった。もし変な対応をしてまたひまりを傷つけたくない。

「そうですね、これから先で貴方がどうしたいかで考えることですね。浅野さんと南雲さんと柳さんとは特に。」

鈴ちゃんはいつものように優雅に笑うとそのまま立ち上がった。

確かに鈴ちゃんのいう通りかも知れない。もうちょっと自分で考えることにした。

ただ何故さっき柳さんの名前を出したのかだけ分からなかった。

「それではお会計をしましょうか。私が全部出しますから。」

「いやいや、それは鈴ちゃんに悪いよ。自分の分は私が払うから。」

「・・・値段を見てから言ってください。」

鈴ちゃんにそう言われた私は疑問を持ちながら値段を確認した。その瞬間私は卒倒しそうになった。

「いや、なんか五桁なんですけど?こんなの払えないよ!」

「まあ、ここは高級店ですからね。なので私が払いますから。」

「あ、ありがとうございます。」

そんなにお金を持っていない私は大人しく鈴ちゃんに奢ってもらうことにした。

そして私は二度と高級店には行かないと誓うのだった。

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