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はなかご  作者: 和音
別れの季節
105/106

伝えに行かなきゃ

ひまり視点です。

「ど、どうかな。変じゃないよね?」

あたしは恥ずかしい気持ちを抑えながらなんとか二人の前に出る。

いつもより可愛い服を着てあたしはもじもじとしていた。

今日は初めてのお仕事ということで劇を演じることになった。とは言っても小さな建物の中でやる為、そんなに人は来ないのだがそれでも恥ずかしいものは恥ずかしい。

蜜柑ちゃんも椿ちゃんも来てくれて楽しそうにアタシを見ていた。

今日は二人を絶対に満足させたい。だから絶対に失敗は許されなかった。

「似合ってるから心配しないで。今日はこの日のためにお父さんから大きなカメラを借りてきたんだから。」

「蜜柑ってば気合い入れすぎだってば。ひまりが余計緊張しちゃうでしょ。てな訳でアタシ達はここで見てるからひまりは頑張ってね。」

さっきまでずっと緊張していたが二人を見た瞬間に一気に緊張が緩んだ。なんだか体が軽いし今なら完璧な劇が出来そうだった。

周りを見ると思ったより人が多くてびっくりする。この中で演技をしてみんな喜んでくれるのか不安になる。

「それじゃああたしはもう行くから二人はそこで見ててね。絶対にいい劇にするから。」

「ひまりなら絶対にいけるから。だからちゃんと笑ってね。」

「緊張しちゃだめだよ。アタシ達が見てるから。」

二人はいつもの様に応援してくれる。この気持ちに絶対に答えたい。この劇を見にきてくれたお客さんを全員喜ばせてみせる。

「大丈夫だよ。二人がいるって分かってるから。」

あたしは二人にそう言って笑って見せた。

あたしは絶対にいい劇にするんだと心の中で誓った。









それからのことは今でもずっと覚えている。

あの後無事に劇を終えることができてお客さんからも好評だった。

あたしをあまり褒めてくれないお母さんも珍しく笑ってくれたしマネージャーも絶対に伸びるって褒めてくれた。

あたし自身も蜜柑ちゃんの持ってきたカメラで見たがとても綺麗で美しかった。まだ所々変なところはあったがもはやそんなことは気にならなかった。

あの時はただ二人に想いを伝えたかった。その想いが劇に反映されていて本当に一番の劇だった。あれから演技も上達して何度も劇をしたが正直超えることはないと思う。

それはあの劇にはあたしの想いが全て込められていたからだ。

そうだ、全部思い出した。だからあたしは今泣いているんだ。

咲ちゃんの劇がこんなに美しくて目が離せないのは咲ちゃんの想いが全て伝わってくるからだ。

そして昔のあたしを思い出すからだ。

この劇が終わって欲しくない。ずっとこの幸せが続いて欲しい。

「会いたいよ咲ちゃん。本当はずっと我慢してたんだよ。転校だってしたくないしずっとみんなと一緒にいたいよ。」

あたしはその場で泣き崩れた。我慢していたことが全て口に出てしまう。あれからずっと演技の練習はしたが涙脆いところだけはずっと変わらない。

また二人に怒られちゃうな。

「うう、苦しいよ。なんで女優になんてなったのかな。なんで咲ちゃんと出会っちゃたんだろう。」

苦しいのに何もできない。泣いてもなんの解決にも至らないのに。

あたしが苦しんでいると城戸さんがポンと肩を軽く叩いた。

「ねえ、これだけは聞いて欲しいの。私はずっと南雲さんのファンでデビューした時からずっと見ていた。あの時の南雲さんはずっと輝いていたし私の憧れだったけど日野さん達と一緒にいる南雲さんはどんな時よりも輝いていたわ。」

「私も南雲さんともっと一緒にいたいよ。もっとみんなでいろんな所にも行きたい。だから絶対に諦めないで。南雲さん以外のみんなは諦めてないから。」

あたしだって本当は諦めたくなかった。でもお母さんやマネージャーがこんなことを認めてくれるとは思わなかった。あたし一人のせいで他の人に迷惑はかけられない。

それに咲ちゃんだってあたしのことを待ってるとは限らない。拒絶されたくなんてない。

「やっぱり無理だよあたしなんか。きっと迷惑になるだけだから。」

昔から嫌なことがあれば自分に言い聞かせていた。あたしが悪い。あたしだけが我慢すればいいんだって。

「そんなことない!」

城戸さんの突然の大きな声にビクッとする。城戸さんは少し怒っている様だった。

「今更何言ってるのよ。近くにも貴方が戻ってくるのを待ち望んでいる人がいるというのに。貴方一人が我慢する必要なんてないのよ!」

「でももう遅いんだよ。何もかも。」

しかし二人は全く諦めてる様子はなく、柳さんから何かの鍵を渡された。

「今からでも遅くはないわ。日野さんは今でも待ってるから今すぐ行ってあげて。」

「私の車が外にあるからそれに乗って。急げば絶対に間に合うから。それとその鍵で屋上に入れるから。」

文化祭の中、わざわざここまで駆けつけてくれた二人に頭が上がらない。

城戸さんは一時期咲ちゃんと仲が悪かったというのに今はあたしと咲ちゃんの為に動いてくれた。

それにあたしのことをそこまで思ってくれたことが嬉しかった。

柳ちゃんも咲ちゃんのことが好きなはずなのにあたしを助けてくれたことが嬉しかった。

柳さんにはもしかしたらよく思われてないかもとか思っていたから動物園のことも含めて気にかけてくれてたことは意外だった。

きっと、これからはもっと二人とも仲良くなれる気がした。

「それじゃあ、あたしは行ってくるから。二人共ありがとう。」

二人にお辞儀だけしてあたしは柳さんの車に乗った。

もう、逃げたりなんかしない。拒絶されても、転校したとしてもこの想いだけは咲ちゃんに伝えるんだ。











「ふう、なんとか混まずに目的地に着きましたね。日野さんは屋上で待ってるはずですよ。」

ここまで運転してくれた緑さんに軽くお辞儀だけしてあたしは全速力で屋上を目指した。

「えっ、ひまりちゃんだ。そこまで急いでどうしたんだろう?」

廊下にはそれなりに人がいて、あたしを驚いた様に見ていたがそんなことは気にならないくらい頭には咲ちゃんのことしかなかった。

大好きな人に会いに急いで屋上に行くこの感覚も懐かしい。

一歩一歩が軽くて気付けばあっという間に屋上についていた。

あたしが扉を開けるとそこには咲ちゃんの姿があった。

「あっ、ひまりだ。ちゃんと来てくれたんだね。忙しい中来てくれて嬉しいよ。」

そう言ってあたしに微笑む咲ちゃんはとっても可愛くて釘付けになる。服装も劇のドレスのままで見惚れてしまう。

「あたしこそずっと咲ちゃんを不安にさせてごめん。本当はあたしも咲ちゃんとずっと会いたかったよ。」

やっと咲ちゃんに会えたことに安堵する。あたしは咲ちゃんをぎゅっと強く抱きしめる。

この温もりがずっと続いて欲しい。

「戻ってきてくれて嬉しいよ。私はひまりと二人で話したかったから。」

「あたしもだよ。だけどその前に咲ちゃんに伝えたいことがあるんだ。」

あたしは緊張しながら深呼吸をする。みんなが支えてくれたおかげでもう怖くない。

あたしはこの想いを咲ちゃんに伝える。

「咲ちゃん、あたし咲ちゃんのことが大好きだよ。」

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