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はなかご  作者: 和音
別れの季節
104/106

溢れる想い

ひまり視点です。

『キンコーン、カーンコーン』

「それじゃあまた明日ね。ひまりちゃん。」

「うん。それじゃあまた明日。」

放課後のチャイムが鳴ると同時にあたしは急いで教室を出た。

あたしは興奮を抑えきれないまま駆け足で屋上を目指す。早くこの嬉しさを二人にも伝えたかった。誰よりも先に二人に知って欲しかった。

というのもあれから何度も練習して遂にオーディションに受かったのだ。

あたしも今日の朝通知を見た時は夢かと何度も疑った。メールで伝えようかとも思ったがやっぱり直接伝えたかった。

これも二人がいたおかげだった。二人がいつも一緒にいて心の支えになってくれたおかげだ。

屋上の扉を開くと学校が終わったばかりだというのに既に二人とも来ていた。あたしは興奮したまま二人にこの嬉しさを伝える。

「二人とも聞いてよ!ついにこの前のオーディション受かったんだ。」

あたしがそう伝えると二人は一瞬驚いた表情を見せた後すぐに笑顔になる。

「本当に?頑張ったねひまり。」

「これも私達が手伝ったおかげだね。本当におめでとう。」

「いや、アンタはそんなに手伝ってなかったでしょ?」

二人とも祝福してくれて心が爽やかな気持ちになる。ここまで諦めずに頑張ってきて良かった。

しかし一つだけ大きな問題があるのをこの時のあたしは忘れていた。

「それにしてもひまりが今まで以上に遠い存在になっちゃうな。テレビをつけたらひまりがいるってことでしょ?」

「あたしもまだ全然実感が湧かないよ。それにオーディションに合格したのは二人のおかげだよ。」

人と関わるのが苦手だったがあたしに優しく接してくれたおかげであたしはもっと頑張ろうと思うことができた。辛いことがあっても二人がいたから諦めないで続けられた。

屋上で嫌なことがあった時だけ会うような関係だったけどその短い時間に三人共救われていたと思う。

「いや、オーディションに受かったのはひまりの実力だから。アタシ達は一緒にいただけだから。」

「そうだよ。だから私達にそこまで感謝しなくていいから。ひまりがテレビに出る時は言ってね。絶対に見るから。」

「二人ともありがとう。二人に会えてよかったよ。」

気がつけば自然と涙が流れていた。泣かないって決めていたのに二人といると制御することなんてできなかった。

「もう、ひまりったら涙脆いんだから。そんなので演技なんてできるの?」

「まあ、今日くらいはいいんじゃない?せっかくだし何処か寄らない?」

「うん。それなら丁度行きたいカフェがあるんだ。」

あたしは涙を拭いて二人と笑いあった。今のあたしは今までにないほどの幸福を感じていた。








「それでは今から色々と説明させて頂きますね。二人とも大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です。」

あたしともう一人の合格者は返事をして椅子に座った。どうやら合格者が二人いることはかなり珍しい様だった。

今日はオーディションに受かった人の説明会の日だ。あたしは緊張して仕方がなかったが二人のことを思い出しながらなんとか緊張を治める。

事務所は思ったより小さくて人も少なかったが私はそれでもワクワクした気持ちを抑えれなかった。

「二人とも中学二年生なんだってね。その年で合格するなんて凄いことだよ。」

あたしは隣のもう一人の合格者に目をやる。確か名前は鏡音空と言ったはずだ。鏡音さんは堂々としておりあまり緊張していないようだった。

「二人は歳も近いし同時デビューということで一緒に共演することも多いかもだから仲良くしてね。」

「はい、分かりました。」

あたし達はお互いに軽くお辞儀をした。鏡音さんはカッコよくて身長が高いから遠目で見たら男と勘違いしてしまうほどだった。オーディションに合格するのも当然のことだった。

「それじゃあ一つずつ説明していくからちゃんと聞くようにね。」

そう言って始まる説明をあたしはメモしながら真剣に聞く。オーディションに受かって終わりではない。むしろここからが本番だった。二人に下手な演技は見せられないから。

「これから二人にはいろんな仕事が来ると思うけど場合によっては転校したりすることも視野に入れてね。」

あたしはその言葉で一気に背筋が凍りついた。まるで時間が止まったようだった。

「ちょっと待ってください!転校することなんてきいてません。」

心臓がバクバクする。つまり女優をする中で二人とは別れないといけないというのか。そんなの嫌に決まっている。

「まあ、気持ちは分かるよ。でも遠くで撮影がある時は毎回通うなんて無理でしょ?だからこれはしょうがないことなんだよ。」

「それでもあたしは転校なんて。」

二人と一緒にずっと笑いたかった。これからも屋上で笑いあいたかった。二人がいないと女優活動を頑張れるかも分からない。

「そんなに嫌なら女優になるのやめる?今なら間に合うから。」

「そ、それは流石に。女優は絶対にやりたいです。」

「あのねえ、女優になるならちゃんと責任を持って貰わないとこっちも困るんだよ。そこら辺は理解してるよね?」

泣きたかった。本当は今すぐに二人と話したかった。

でもマネージャーの言う通り女優になるのであれば覚悟を持たないといけない。

「もちろん理解しています。急に取り乱して申し訳ありません。」

「そっか、分かってくれて良かったよ。それじゃあ続きを説明させてもらうね。」

辛いけど女優を諦めるわけにはいかない。あたしのずっと目指した夢だし何よりここで辞めたら二人に合わせる顔がなくなる。

ただ今のあたしには全てが真っ暗に見えて、この後の説明もほとんど頭に入らないまま終わった。

この先あたしはちゃんとやっていけるだろうか?

「それじゃあ、今日の説明はこの辺でいいかな。いずれ仕事が入ってくると思うからそれまでは気長に待つといいよ。」

そう言って担当の人は部屋を後にしてあたしと鏡音さんだけが残った。

あたしは大きなため息を吐いた。体がずっと重くて辛い。こんなに辛いのは二人に会う前以来だ。

「やあ、少しお話ししないかな?せっかくの同期なんだ。」

「どうしたの鏡音さん?あたしは少し休みたいかな。」

あたしが休んでいると鏡音さんが話しかけてくるが鏡音さんはあまり動揺してるようには見えなかった。

「同期なんだしそんな堅苦しくしなくていいよ。初めて見た時からひまりのことが気になっていたんだ。」

「そんなこと言われても今のあたしには答える気力なんてないよ。」

当たり前のように話しかけくる鏡音さんにあたしは苛立ちを隠せなかった。あたしはこんなにも苦しいのになんで鏡音さんは平気そうな顔をしているのだろうか?

「少しくらいいいじゃないか。私は他にも合格者がいたことが嬉しいんだ。私は緊張してしょうがないんだ。」

「そんな風には見えないけど?」

「いや、これでも緊張しているよ。友達にも内緒でここに来たからね。」

あたしはその言葉に耳を疑った。そんなことあるのだろうか?

「友達に女優になることは言ってないの?」

「ああ、みんなにはいつも通りいてもらいたいからね。変に気遣われても困るんだ。」

あたしにはその気持ちが全く分からなかった。だって喜びは全て共有したかった。

「それじゃあ何も言わずに転校するの?転校することが怖くはないの?」

あたしは大きな声で鏡音さんに問う。あたしがこんなに辛いというのに何も動揺していない鏡音さんが怖く感じた。だって友達と離れ離れになるというのに薄情すぎる。

あたしはイライラしていたが鏡音さんは落ち着いて優しく答える。

「怖くはあるかな。本当は私だって離れたくはないさ。」

「じゃあ、なんでそんな平気な顔をしてるの?あたしにはそんなことできないよ。転校したくなんてないよ。」

あたしは我慢出来ずにその場で泣き崩れた。やはりあたしには女優は向いてなかったのかもしれない。

あたしが泣いていると鏡音さんは優しくてを握ってくれる。その手はとても暖かくてびっくりする。

「辛いけど私はみんなを信じているから辛くないんだ。みんなは優しくて暖かいから。それに離れ離れになったくらいじゃ私達の絆は壊れないよ。ひまりは違うのかい?」

その言葉にあたしはハッとした。確かにあたしは一人で考え過ぎていたのかもしれない。勝手に一人で塞ぎ込むところだった。そうだ、離れて終わりになる訳ではないはずだ。

「ありがとう空ちゃん。あたしは一度二人と話し合うよ。」

あたしがそう誓うと空ちゃんは優しく笑ってくれる。空ちゃんはとても優しくて空ちゃんとなら今後の活動も一緒にやっていける気がした。

「うん、一度みんなと話し合ってみるといいよ。それじゃあまた会おうね。」

あたし達はお互いに手を振り合ってその場を後にした。

早く二人に会いたくて仕方がなかった。

明日あの場所で二人に話そう。








あたしは緊張しながらなんとか扉を開けた。辛かったが空ちゃんの言葉もあり覚悟は出来ていた。

あたしは扉を開ける今日もすでに二人ともいた。今日はあたしの方から用事があると言って呼んだ。

「今日はどうしたの?用事があるなんて珍しいじゃん。」

「そうだよ。今まで適当に会ってたのにね。」

「実は今日は二人に伝えたいことがあるの。聞いてくれる?」

あたしは震えながらもなんとか声を絞り出した。きっとここで話さなければ何も言わないまま二人と別れることになる。それがあたしは嫌だった。

「もちろん、ひまりの話ならなんでも聞くよ。嫌なことでもどんな悩みでも。」

「椿の言う通りだよ。だから緊張しなくていいよ。ゆっくりでもいいから。」

二人の優しくにあたしは涙が流れそうになる。あたしはなんと涙脆いのだろうか。

あたしは頑張って二人に転校のことを伝えた。話してる間もあたしは辛くて仕方がなかった。それでも頑張って最後まで二人に話した。

すると二人とも少し悲しそうなそれでも薄々分かっていたような表情をする。

「そっか、ひまりは転校しちゃうんだ。それじゃあこれからは寂しくなるね。」

「えー、それじゃあ今度から椿と二人ってこと?暇になるなあ。」

「何それ。アタシ一人じゃ不満ってこと?」

「まあまあ、そんなに怒らないでよ。椿がいるだけでもいいから。」

あたしの話が終わると二人はいつものように口喧嘩をしていた。

二人が思ったよりも悲しんでいなくて唖然とする。もしかして二人ともあたしがいなくてもなんとも思っていないのだろうか?

「えっと、もっと驚かないの?だってこれからもう一緒にいられなくなるんだよ?」

二人はいつもと変わらないように笑っていてずっと悩んでいたあたしがバカのように思える。

「そりゃあ悲しいよ。それでも別に永遠の別れって訳でもないでしょ?それよりもアタシとしてはひまりが女優としてデビューしたことの方が何倍も嬉しいから。」

「椿の言う通りだよ。暇な時はまたこっちに戻って来ればいいし、なんなら私達がひまりの現場にでもいくよ。私達は離れていても一緒でしょ?」

あたしはその言葉を聞いて唖然と立ち尽くす。

二人は当たり前のように答えてくれる。一人で抱え込もうとしていたあたしはバカだ。あたし達はずっと友達なんだから。

せっかく我慢していたのに涙が溢れてきてしまう。涙のせいで前を見ることができなかった。

やっぱりあたしは女優失格だ。

「もう、ひまりってば泣き虫だね。撮影までにそのすぐ泣く癖を直さなきゃ。」

「まあ、今日くらいいいんじゃない?今日はいっぱいここで話そうよ。」

今日のあたしは目が真っ赤になるまでずっと泣いていた。

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