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はなかご  作者: 和音
別れの季節
103/106

あたしだって

ひまり視点です。


「それでは今日の撮影はこれで終わりましょうか。今日の南雲さんもいい演技でしたよ。次で最後の撮影なので気合いを入れていきましょうね。」

「今回もありがとうございました。それでは失礼します。」

あたしは軽くお辞儀をして、撮影現場を後にする。ドラマの撮影も本当にあっという間だった。

もうすぐこのドラマの撮影も終わるということで現場はいつも以上に和気藹々としていた。しかし今のあたしには周りのように喜ぶ気分にはなれない。

このドラマの撮影が終わればついに咲ちゃん達と別れることになってしまう。

咲ちゃんはあたしの友達で初めて好きになった大事な人だ。

昔から転校ばかりで人と馴れ合えなかったあたしに優しくしてくれた。咲ちゃんといると今まで空っぽだった部分が埋められていく。

それが嬉しくて楽しくて気づいたら咲ちゃんのことを好きになっていた。

それに蜜柑ちゃんや椿ちゃんもあたしの大事な親友だった。二人とも中学の頃からずっと一緒で辛い時はよくお互いに相談し合っていた。

あの時は二人とも本当に辛そうで見てて心苦しかった。だから久しぶりに会った時に蜜柑ちゃんが元気で安心したし椿ちゃんもなんだかんだ上手くやっていてよかった。蜜柑ちゃんをあそこまで元気にしたのは確実に咲ちゃんのおかげだ。

そして咲ちゃん達は女優のあたしとしてではなくありのままのあたしとして見てくれる。みんなといると真っ暗だった世界が浄化されていく。そんな暖かさに触れてしまったからもう離れたくはない。

本当はまだみんなと話したい。何気ない会話で笑って少しでも楽しことを共有したい。転校なんて本当はしたくなかった。

それに蜜柑ちゃんや椿ちゃんは怒ってるだろうな。三人で約束したのにあたしだけが破っちゃったから。特に椿ちゃんはよくあたしのことを心配してくれてたというのに。

一見明るくて悩み事が無いように見えるけど本当は暗くてたくさんの悩み事を抱えている蜜柑ちゃん。無愛想で怖いように見えて誰よりも繊細で優しい椿ちゃん。二人がいてくれたから今のあたしがある。

「なんでこうなったかな。みんなに会いたいよ。」

何もない所でボソッと口にする。今まで我慢していた涙が一気に溢れてくる。学校にだってもっと行きたかったし咲ちゃんとももっと話したかった。文化祭にだって行くって約束したのに。

気づけばもう既にかなりの時間が経っており、絶対に文化祭には間に合わなかった。結局何も果たせないままあたしはみんなの所から去るんだ。

「そうだよ、あたしは別に一人でも平気だよ。だからもう全部忘れよう。」

バクバクとなる心臓を無理やり抑えて立ち上がる。今までと変わらない。転校なんて何度も繰り返してきた。だからもういいんだ。

「言い訳がないでしょ!何勝手に決めてるのよ。」

「えっ、なんで城戸さんがここに?」

突然の聞き覚えのある叫び声にあたしは頭が真っ白になる。顔を上げると何故かあたしの前には城戸さんと柳さんがいた。二人とも汗だくで息切れしていた。ゼエゼエと荒い息がこちらにまで聞こえてくる。

意味が分からない。何故こんな所に城戸さんと柳さんがいるのだろうか。二人は文化祭にいるはずなのに。今更ここに来たって遅いのに。

「何が一人になっても平気よ。そんなの大嘘じゃない!平気ならなんで泣いてるのよ。」

咄嗟に涙を拭いて深呼吸をする。この際二人がここにいることは気にしない。それよりもあたしは早くこの場から逃げ去りたかった。

「別に泣いてなんかないよ。二人はどうしてここに来たの?今更来てももう遅いよ。」

「南雲さんが来ないから来たに決まってるでしょ。日野さんの演劇を見せる為に。」

「わざわざ来てくれたのにごめんね。あたしはもう行かないって決めたんだ。」

もし今のあたしが咲ちゃんを見たら心が揺るぎそうで嫌だった。もう、咲ちゃんとは会わないとそう決めたんだ。それにもう時間的にも間に合いそうにはなかった。

「大丈夫、その為に用意したんだ。ほら、これを見てよ。」

柳さんは鞄からパソコンを取り出して何かの映像を映し出した。そこには後夜祭の映像が映っていて、丁度一年二組の番だった。

「南雲さんがずっと目を逸らしてきた分、今ここで目を焼き付けなさい。」

映像に映し出された咲ちゃんを見てあたしは心臓が痛くなる。今は咲ちゃんを見たくはなかった。しかしシンデレラの格好をした咲ちゃんは綺麗で釘付けになる。やっぱりあたしは咲ちゃんのことが大好きなんだ。

あたしは今までたくさんの女優と共演してきたが今の咲ちゃんはどんな女優よりも美しく見える。

「シンデレラ、私と踊ってくださる?」

「ええ、喜んで。」

ヒラヒラと花のように舞うドレスも咲ちゃんのダンスも全てが私の眼に焼き付かれていく。まだ所々変だけどそれ以上に綺麗で目を離せない。

今の咲ちゃんを見てるとあの頃の自分を思い出す。

まだ女優として活動する前の二人といたあの頃を。



  








「何?上手く演技が出来ないの?」

「そうなの、助けてよ椿ちゃん。このままじゃ審査で落ちちゃうよ。」

学校が終わって放課後になった瞬間に私は屋上の扉を開けて二人に会いにいく。この時間が学校で一番の楽しみだった。

蜜柑ちゃんはまだ来ておらず椿ちゃんだけがそこにいた。

二人ともクラスが違うからゆっくりと話せるのは休み時間だけだった。

椿ちゃんは屋上で一人静かに本を読んでいた。あたしは椿ちゃんの隣に座るといつものように愚痴をこぼす。あたし達三人は辛いことがあればよくここで愚痴を吐くのが定番になっていた。

小さい頃から女優になるのが夢だったあたしは中学に入った頃から何回かオーディションにも応募した。しかし未だ上手くはいっておらず、ただ虚しい日々が続くだけだった。

最初こそ自信を持って応募していたが今では震えながら応募するようになっていた。

「ひまりの演技めちゃくちゃ上手いじゃん。それだけ出来て何がダメなの?」

「それが本番になると緊張しちゃって上手く出来ないんだよ。だから椿ちゃんに手伝って欲しくて。」

ずっと家で練習していたこともあって自分でもそれなりに上手だとは思う。しかし少しでも知らない人がいると緊張して下手になってしまうという問題点があった。

「よくそれで女優になろうと思ったね。女優なんて今の比にならないくらい緊張するでしょ?」

椿ちゃんの言うことは正しかったがそれでもあたしは自分の夢を諦めきれなかった。

小さい頃にテレビで見た映画のお姫様があたしにはありえないほど輝かしく見えた。その美しさが脳から離れずあたし自身が深く劇に惹かれていった。

お母さんはとても人気な役者で、よくあたしをしごいてくれていた。それに椿ちゃんや蜜柑ちゃんもよくあたしの演技を見てくれてアドバイスをくれた為、実力は次第に伸びていった。

「だからどうにかして弱点を克服しないといけないの。次のオーディションまで時間がないから椿ちゃんも手伝ってよ。私がお姫様役をやるから椿ちゃんは王子様役をやって欲しいな?」

あたしはなんとか椿ちゃんに頼み込む。蜜柑ちゃんはあまり手伝ってくれない為、こういうのは椿ちゃんに頼むしかなかった。

後はこの緊張する癖を無くすだけだ。あたしは人が苦手でどうしても震えてしまう。今だって椿ちゃんと蜜柑ちゃんくらいしかまともに話せる相手がいない。

小さい頃からあたしの周りにはたくさん人がいたけど正直言ってうんざりしていた。

顔が可愛いからって近づく人や親目当てで近づく人しかいない。それが辛くて次第に耐えられなくなっていた。特に男性と関わるのが苦手で一度街中で体を触られた時は死ぬかと思った。

その時初めて会ったのが椿ちゃんと蜜柑ちゃんだった。二人とは一緒にいてもなんだか平気で次第にずっと一緒にいるようになった。今思えば二人とも境遇が少し似ていたからかもしれない。

蜜柑ちゃんは親が社長で箱入りのお嬢様ということで学校でも人気者だった。しかし蜜柑ちゃんが無理してるのはあたしの目から見ても明らかで少し親近感があった。

この二人がいたから今もまだ頑張ろうと思える。まだ夢を追うことができる。

「はあ、またアタシがやらなきゃダメなの?アタシはひまりみたいに上手くは出来ないからね。」

椿ちゃんは嫌そうにしながらも本を閉じてあたしの劇の練習に付き合ってくれる。椿ちゃんはいつもだるそうにしてるし見た目は怖いけどいつもあたしに優しくしてくれる。

優しいからこそ人を傷つけたくなくて誰とも馴れ合わないようにしてるんだと勝手に思ってる。

「さあ、一緒に踊りましょうか?」

「ええ、こちらこそよろしくお願いします。」

優しく微笑む椿ちゃんの手を取って二人で優雅に踊り出す。椿ちゃんはさっき上手く出来ないと言っていたが明らかに上手で今の様子は見ていてとても様になると思う。

二人ともあたしの練習に付き合ってくれるから上手なのかもしれない。特に椿ちゃんは顔も可愛いし応募したら合格しそうだ。あたしよりももしかしたら才能があるのかもしれない。

二人ともあたしが困った時はいつも手を貸してくれる。いや、あたしだけでなく困った時はお互い様でみんなで協力し合っていた。

それに二人といることが幸せでずっと楽しかった。だから二人とはずっと一緒にいたいと思っていた。

「やっぱりひまりは相変わらず上手いじゃん。もっと自信を持てば絶対にいけるから。」

あたしと椿ちゃんは言葉を交わしながらダンスを続ける。とても優雅でこのダンスが今はずっと続いて欲しい。

「それは分かってるよ?でもやっぱり人が見てるとかこれが本番だとか意識しちゃって怖いんだ。」

「そっか、なら本番の時アタシ達がいると思ってよ。それなら緊張も少しは和らぐんじゃない?」

「それで上手くいくかな?やっぱり緊張しそうで。」

「大丈夫だから。アタシ達はいつだって一緒。昔からそう約束したでしょ?そう思ったら合格だって簡単だよ。」

どんな時も二人がいたから笑っていられる。そう考えると本当にいけるかもしれない。

今の椿ちゃんの笑顔を見てそれが確信に変わった。

「ごめん、今日は部活で遅くなった。って二人でなんか面白いことしてるね。」

「あっ、蜜柑ちゃんもお疲れ。せっかくだしみんなで劇をやろうよ。」

「はあ、ひまりってば元気だね。私も少しは見習いたいよ。」 

「いいよ、今日はとことん付き合ってあげる。」

そう言って三人で笑い合った。この時は本当に楽しくて辛いことなんて一つもなかった。

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