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はなかご  作者: 和音
別れの季節
101/104

全てが上手くいきますように

前半椿視点、後半咲視点です。

「それでは今から午後の部を開始したいと思います。」

屋上でぼんやりしていると午後の部の始まりを知らせる放送が流れる。

とはいえ午後からはアタシのやることは特にないためこうやって屋上で休むしかない。今はどこも人がいっぱいで静かになれる場所が限られる。

それに屋上は静かで程よい風が吹いていて落ち着く。今日は色々と疲れたから午後の部が終わるまではここで休んでおくつもりだ。ただ最後に咲達のクラスに寄って行くのはアリかもしれない。咲にはお世話になってるし蜜柑のメイド姿は見てみたかった。

そういえば咲は無事劇を終わらせることができるのだろうか?無事劇が終わってひまりを連れ戻せるならアタシとしても嬉しいが今のひまりを説得するのはかなり難しいと思う。

この前に蜜柑達がひまりが文化祭に来るように説得したと言っていたが本当に来てくれるかすら分からない。ひまりとしても傷つくことは分かっているだろうからそれが嫌で来ない可能性はある。アタシだってその気持ちは痛いほど分かるから。やっぱり恋というのは誰かが苦しまないといけないのか。好きな人のことを思うほど胸が痛くなる。

ただもしひまりが前へ進もうとするのであればその時はアタシも頑張って見ようかなと思う。アタシだっていつかは前に進みたい。このままのアタシじゃ嫌だから。そんなことを思っているとあっという間に時間だけが過ぎて行く。

「ふう、今日はすごく疲れたよ。って椿ちゃんじゃん。こんなところでどうしたの?」

誰かの声がしたと思い後ろを振り向くとそこには楓先輩の姿があった。楓先輩とは中学の頃からたまに話すくらいの関係だ。楓先輩もよく屋上に来るため今でも屋上で会った時だけ話すことがある。

「別に暇だからここで休んでるだけですよ。先輩だってそうでしょ?」

「今日はたくさんのお客さんが来たからもうクタクタだよ。本当にこの学校はすごい人気だよね。それに椿ちゃんとは久しぶりにゆっくりとお話ししたいかな?」

楓先輩はそう言って勝手にアタシの隣に座った。楓先輩はいつも勝手なところがあるから困った物だ。せっかく一人で休めると思っていたのに。

「何か用事がある訳ではないんですよね?それならアタシは戻るんで。」

今日は気分的に1人でいたかった。アタシは立ち上がって屋上から出ようとするが楓先輩に腕を掴まれて逃げられなくなる。

「まあ、ちょっとでいいから話そうよ。少し気になることがあるからさ。」

「気になることって何ですか?アタシは1人でいたいんですけど。」

楓先輩はいつも強引で何を考えているか分からないからやはり苦手だ。中学の頃からいつも笑っていてその上自由だから掴みどころがなくて怖かった。とはいえこの後、特にやることもないし今は楓先輩の話を聞くことにした。

「いや、椿ちゃん何か悩んでいるようだったから気になったんだよ。私でよければ椿ちゃんの悩みも聞くよ?」

楓先輩のその一言にアタシはビクッとした。この先輩はどこまで見ているのだろうか。まるで全てを見透かされている様だ。

「別に楓先輩に相談することなんて一つもないですよ。これはアタシだけの問題ですから。」

「あはは、椿ちゃんはドライだね。多分だけど椿ちゃんが悩んでいるのって恋愛絡みだよね?」

「何でそう思うんですか?アタシってそんなに顔に出てますか。」

図星だったためアタシはきつい目つきで楓先輩を睨んだ。楓先輩はこういうことを平気で言うから苦手だ。

「やっぱりそうなんだ。椿ちゃんは隠してるつもりかもだけど意外と分かりやすいよ。それで誰が好きなの?」

「そんなの教える訳ないじゃないですか。それに楓先輩には関係のないことですよ。」

「んー、でもやっぱり私も女の子だし恋バナとか好きだから。やっぱり幼馴染の蜜柑ちゃんのことが好きなの?それとも咲ちゃんとか?」

興味深々に聞いてくる楓先輩にアタシは何と言ったらいいか分からなくなる。ただこの気持ちを他の人にバレたくはなかった。

「だから教えませんよ。そんなこと言ってるくらいだから楓先輩は好きな人がいるんですか?」

「うーん、どうだろう。いるかもしれないし、いないかもしれないよ。」

誤魔化して笑う楓先輩にアタシは小さなため息を吐いた。

自分からはグイグイと来るのに自分のこととなったら途端に隠し出す。一見近づいてるように見えて実際は近くない。それがアタシには不気味に見える。

この人は多分無理してるだけで本質はアタシとあまり変わらないと思う。だからアタシは楓先輩のことが苦手なのかもしれない。

「とりあえずアタシからは何も言うことはありませんから。それじゃあアタシは教室に戻りますね。」

もはやこれ以上楓先輩と話すことなんてなかった。前から楓先輩のことは苦手だったが今日は特に拒否反応がある。だから早く此処を出たかった。

アタシが今度こそ屋上を出ようとするとポケットの中のスマホが震えた。

「待って、もしかして椿ちゃん怒ってる?嫌だったなら謝るよ。流石に無神経過ぎたかな。」

楓先輩は悲しそうな表情でアタシを見つめる。流石に反省したのかもしれない。

この先輩はどこまで本当でどこからが嘘なのかが分からない。今日も先輩と出会ってうんざりしたが収穫は会った。今日のことはそれに免じて許してあげることにしよう。

「大丈夫ですよ。嫌でしたけど謝ってくれたので。それよりアタシと一緒に来てくれますか?」

「いいけどどうしたの?もしかして重要な話?」

「まあ、そんな感じです。とりあえず行きましょう。」

アタシは困惑している楓先輩を連れて咲達のクラスに向かった。これで蜜柑が少しでもアタシを見てくるといいな。










「はあはあ、これでどうですか?」

「ああ、これなら大丈夫だ。部員が足りてないから本当に助かったよ。特に日野はすごく手際がいいな。経験でもあるのか?」

「はい、小さい頃から少しだけやっていたので。」

私達はあれから一時間ほど園芸部の手伝いをしていた。私は元々田舎に住んでいたこともあり、こういった園芸の作業は得意だった。

最初こそ菫先輩は怖い人だと思っていたが会話しているととても優しい先輩だった。それにしても顔と言葉遣いが怖いとは思うけれど。

「約束通り野菜はやるよ。それよりさっきも言った通り人が足りてないんだ。だから日野が良かったら部活に入ってくれないか?」

「咲はもうバスケ部に入ってるからダメです。それに咲が園芸部にまで入ったら私と一緒にいる時間が減るからダメだよ。」

「そうですね。今の私には少し難しいかもしれません。それでも忙しい時はいつでも手伝いますよ?」

先輩がいると言うのに当然のように抱きついてくる蜜柑に呆れながらも菫先輩の誘いは断ることにした。

これ以上は忙してくて勉強に支障が出る可能性がある。バスケ部だって今が限界だし。

「本当か!忙しい時に手伝ってくれるだけでも助かるよ。それじゃあ私は作業の続きをするから日野達は文化祭を頑張ってくれ。」

「こちらこそ、今日はお世話になりました。またよろしくお願いします。」

私は菫先輩に深くお辞儀をする。

菫先輩は野菜を渡すとそのまま畑の方へと向かっていった。たくさんの野菜をもらったしこれなら作れる料理も増えるはずだ。それにしても優しい先輩だったな。楓先輩や雲雀先輩といい今のところ、大体の先輩は私に優しくしてくれている。

「いやあ、まさかあの菫が人を名前で呼ぶなんてね。咲ちゃんのこと相当気になったんだろうな。」

「そうなんですか?とてもそうには見えないですけれど。」

「いえいえ、菫は初対面であそこまで近づきませんから。日野さんには人を惹きつける力があるんでしょうね。」

「そうなんですかね?あまりそういうことは言われたことないんですけれど。」

雲雀先輩や黒花ちゃんは私を過大評価しすぎだと思う。私にはそんな才能はないように思える。

その証拠に中学の頃もそこまで友達は多くなかったから。

「いーや、咲は魅力だらけだよ。咲は確かに人を惹きつけるけどできればあまり他の人と話して欲しくないな?だって私が咲を独り占めしたいし。」

頬を少し赤らめてボソッと恥ずかしそうに口にする蜜柑に私は不覚にもドキッとしてしまう。これは俗にいう嫉妬というやつだろうか。蜜柑が私のことをそこまで思っていてくれたことがただ嬉しい。

「もう、蜜柑ってば恥ずかしいよ。」

まあ、一つ言いたいことがあるとすれば蜜柑だって普段たくさんの人と話していることだ。私だってたまに蜜柑が他の人と話してモヤモヤしていることに気づいてほしい。恥ずかしいから本人には絶対に言わないけれども。

「こら、二人だけの世界に入らないでよ!なんかこっちまで恥ずかしくなるじゃん。アタシも咲ちゃんに抱きついたよ。」

「だからダメだと言っているでしょう。それにもう時間もないんですから。」

「先輩方には感謝していますがもう時間がないので行きますね。」

蜜柑に言われて時計を確認すると既に2時半で午後の部も残り半分になっていた。急がないとこのままじゃ午後の部に間に合わなくなる。それに安立さんも怒っているはずだ。それにまだ野菜しか見つかってなくて他の食材も劇の代役も見つかっていない大ピンチな状況だった。

「ええ、私達こそお二人の役に立てて嬉しかったですよ。今後ともよろしくお願いします。」

「だね、また困ったことがあったら言ってよ。アタシ達はいつでも助けに行くから。それと楓を見つけたら連絡もするからね。」

「お二人とも本当にありがとうございました。またどこかでお礼をしたいです。」

大きく手を振る二人に私達も軽く手を振りながら走る。

私と蜜柑は二人に感謝を述べて急いで教室へと向かった。二人とも笑顔で手を振ってくれて心が温かくなる。

こうやって優しくされるともっと文化祭をよくしたいと思ってしまう。










「た、ただいま。えっとその遅れてごめん!」

私は怒られることにビクビクしながら教室に入った。何も言わずにサボった挙句、収穫は野菜だけとなるとどんなに叱られても仕方がない。

「あっ、日野さん達遅かったわね。すごい朗報があるんだよ。」

「あれ、怒らないの?それに何でお客さんが?」

私は怒られるのを覚悟していたが安立さんはそれに反してとても笑顔だった。周りを見るとそこには西園寺さんや椿までいた。さらに食材はほぼないはずなのに何故か普通に営業していた。

「実は西園寺さんのクラスが食材を分けてくれたんだ。」

「はい、日野さんには午前にお世話になったのでお礼をしたいと思いまして。私のクラスは食材が有り余るほどあったので丁度良かったです。」

「本当に?そんなことあるの?」

「ええ、日野さんには感謝しても仕切れないので恩を返せて良かったです。困った時はお互い様なのですから。」

ふわりと笑う西園寺さんに私まで自然と笑みが溢れる。お互いが困った時に助け合うのは何だか友達って感じがして感動する。

それにしても私達が頑張っている間に料理の問題が解決してるとは思わなかった。西園寺さんのクラスの食材に私達が集めた食材を出せば後一時間半は絶対にもつ。

午後だというのに相変わらず人が多く、なのちゃん達まで働いてくれていて涙が溢れそうになる。なのちゃんに達には後でアイスを奢ろう。

ただ食材の件は解決されてももう一つ問題はあった。

「えっと、それで実はまだ演劇の代役が決まってなくて。もう時間が。」

私は今度こそ終わりだと身構えたがその考えも杞憂に終わった。

「それに関しては大丈夫だよ。蜜柑に言われた通り椿さんを呼んでおいたから。」

「流石椿。椿は頼りになるね。」

「ちょっと、そんなに近づかないで。」

「任せてよ咲ちゃん。私が咲ちゃんを全力でサポートしてあげるから。」

そこには楓先輩と椿がいた。楓先輩は既に王子役の服を着て準備万端だったし椿もだるそうにしながらも優しい眼差しで私を見ていた。もしかして椿が楓先輩を見つけてくれたのだろうか。そして楓先輩は急だというのに劇に参加してくれるというのか。

「ほら、という訳だから安心して。日野さんは南雲さんのために全力で劇をすればいいから。」

「そうだよ。だから日野さんは休んでていいよ。私が料理をするからね。」

何ということだろうか。みんなそこまで考えてくれていたなんて。みんながいたからハプニングを乗り越えられた。その事実がただ嬉しくて気づけば我慢していた涙が洪水のように溢れていた。

「うぅ、みんなありがとう。みんながいてくれたおかげで私はまだ頑張れそうだよ。

「もう、咲ってばまだ泣くのは早いよ。みんなで泣くのはひまりを見つけてからだよ。」

「えっ、何でみんなで泣く話になってんの?アタシは別に泣かないんだけど。」

「だーめ、椿だってひまりのこと心配でしょ。だからみんなで泣こうよ。」

「そうだね、だから今はみんなで我慢しよっか。

蜜柑の言う通りだ。ここで泣いていたらダメだ。ここまで支えてくれたみんなのためにも私は今から全力で頑張りたいと思う。

全てはひまりと話し合うために。待っていてねひまり。

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