食材を求めて
「よーし、園芸部の部室に来たし早速野菜を貰いに行こっか。」
私達は野菜を貰うために急いで園芸部の部室までやって来た。既に残り時間は後少ししかなく午後の部に間に合うかはギリギリだった。
「本当に先輩がいれば野菜を貰えるんですよね?もしこれで何も収穫がなかったらどうするんですか?」
蜜柑はぶつぶつと文句を言っているが確かに蜜柑の気持ちも分かる。一度断られたと言うのにいくら先輩の力があろうと本当に野菜を貰えるのだろうか。
「不安になるのは分かりますが今は私を信じてください。彼女なら私の話も聞いてくれるでしょうから。」
「というかこんな時間の部室に人がいるんですか?もう午後の部が始まると思うんですが。」
「それに関しては大丈夫だよ。あの子は少し変わっているから文化祭にも多分参加してないと思うから。とりあえずドアを開けてみなよ。」
まだ不安なことはたくさんあったが時間もないし今は二人を信じて扉を開けることにした。
「ああん?こんな時間に誰か用でもあんのか?」
そこにはとても目つきの悪い女性が一人いた。その女性は私を見つけるとその鋭い目で睨んでくる。
蜜柑もそれに応じるようにその女性を睨みつけている。相手は先輩だと思うが蜜柑は怯むことなく私を守るように立っていた。
私は怖かったがとりあえず声だけでもかけてみることにした。
「あの、こんな時間に来てすみません。実は文化祭で使う野菜が尽きてしまって。それで少しでいいから分けて欲しいのですが。」
「またその話かよ。だからウチにそういうのは求めてくんじゃねえよ。材料が尽きたのはお前らの奢りだろ。」
「はあ?少しくらいくれても良くないですか?私達は今困っているんです。」
「だからそれはお前らの問題だろ。なんでそれでウチらが丹精込めた野菜を渡さなきゃなんねえんだよ。」
先輩らしき人は明らかに私達のことを歓迎してるようには見えずこのままでは野菜を貰えるようには見えなかった。本当に黒花ちゃんはここから野菜を貰うことができるのだろうか?
「そこをなんとか出来ないですか?私達の仲じゃないですか。そうですよね菫?」
「チッ、お前の知り合いかよ。だとしてもここの野菜を渡すわけにはいかねえ。」
この二人がどんな関係かは分からないが二人の中はあまり良さそうには見えなかった。ましてや今から野菜を貰えそうにもなかった。
「えー、お願いだよ菫。私達からもお願いするから咲ちゃん達に野菜を分けてあげて。」
「あのなあ、今園芸部が人不足なのは知っているだろ?それなのにせっかく作った野菜をこんな見ず知らずの奴に渡せとでも?」
「お願いです。どうしても文化祭を成功させたいんです!少しでいいので私に分けてください。」
菫先輩の言ってることは正しいが私としてもここで引き下がる訳にはいかなかった。絶対に午後からもみんなに文化祭を楽しんで貰いたい。それに午後からはもしかしたらひまりが来るかもしれないんだ。
「ほら、日野さんがこんなに頼み込んでいるんですよ?少しくらい分けてあげてもいいのでは。それに私の恩を忘れたとは言わせませんよ?」
黒花ちゃんの発言で少し空気感が変わった。いつも優しそうな黒花ちゃんが今だけは少し怖く感じる。それに恩と言うのも気になる。
「それを持ち出すのはずるいだろ。ウチがどれだけ苦労したと思って。あー、もう分かったよ。野菜をコイツらあげればいいんだろ?」
菫先輩は諦めたようにため息をついた。
「流石菫ですね。そう言ってくれて嬉しいです。」
そう言って密かに笑う黒花ちゃんに私は少し恐怖を覚えた。これから絶対に黒花ちゃんには逆らわないようにしよう。
それにしてもまさか本当に野菜を貰えるとは思えなかった。黒花ちゃんは一体何者なのか疑問だけが深まる。
「正し条件がある。流石にタダで野菜はあげられねえ。今から少しの間園芸を手伝ってもらう。これでどうだ?」
「はい?今から園芸なんてしてたら午後の部に遅れるんですけど。」
「それくらいいいだろ。野菜が本気で欲しいんだろ?」
蜜柑の言う通り既に時間はなく、今から園芸を手伝うなんてことをしたらかなりの時間を消費してしまうことになる。それは私達にとってかなりまずいことだった。
ただそれでも私達はこの条件を呑むしかなかった。早く園芸を終わらせて野菜を手にするのが一番な最適解だと思う。
「分かりました。それなら私はやります。先輩の役に立てるくらい頑張ります!」
「流石咲ちゃん。もちろんアタシと黒花も手伝うから安心してよ。」
「そんな、先輩達にまで負担はかけられないですよ。」
ただでさえ先輩にはお世話になっているというのにこれ以上お世話になる訳にはいかなかった。
「そんなこと気にしなくていいから。だからみんなで頑張って私作業を終わらせるよ。ほら、蜜柑ちゃんも。」
「はあ、分かりましたよ。咲がやる気なら私もやりますよ。」
蜜柑もだるそうにしながら作業を手伝ってくれる。四人で頑張ればきっとすぐに終わるはずだ。
「おう、それなら時間もないし早速作業に取り掛かるぞ。まずはこの種を埋める作業からだ。」
私達は早速作業に取り掛かることにした。絶対に午後の部も成功させて見せる。
「はい、それでは一緒にラブラブキュン♡」
「うおお、このメイドめっちゃ可愛いくない?」
「ああ、俺何度でも通えるぜ。」
私の目の前には可愛らしくポーズを取るなのの姿があった。相変わらずなのは可愛くて見惚れてしまう。どうしてなのはこんなにも愛おしいのか。
今日は咲の文化祭に四人で集まって楽しくいろんなクラスを回る予定だった。なの達と会えるのが楽しみで仕方がなかった。そのために忙しい予定もなんとか空けてきた。だと言うのに。
「なんで私達がメイド服を着ているんですか?私達はお客様のつもりで来たんですが?」
私は怒りのあまり思わず叫んでしまう。私はメイド服を着て接客している今の現状に不満を抱いていた。謎違う学校で接客をしないといけないのか。それに何故二人は当たり前の様に接客ができるのか。
「鈴蘭の気持ちは分かるが今はとりあえず私達が接客するしかないよ。ただでさえ人が足りてないのに咲達がどこかに行ってしまったんだ。」
「そこが問題なんですよ。ただでさえ緊急事態だと言うのに何処かに行くんですよ?」
咲は突然いなくなるから困った物だ。まあ、咲のことだから何か作戦があってのことでしょうが。
「確かに人が足りてないのは分かります。なのだって楽しそうにしているからそれはいいでしょう。しかし私は接客が苦手なんですよ。」
なのはみんなの前で明るくて誰にでも優しくできる。空も芸能人な上に昔からよくモテていたから接客は得意分野だろう。しかし私は人と関わるのが苦手だ。
特に男性は下心丸出しで話したくもない。今だってなのと楽しそうに話している男性にイラついて仕方がない。明らかになののことをいかがわしい目で見ていてイラついてしまう。
「とはいっても鈴蘭は料理ができないじゃないか?」
「出来ないことはないです。ただちょっと個性的なだけですから。」
昔一度だけ咲達に私の料理を振る舞ったことがあったが三人とも倒れてしまった。それ以降なのに料理は作るなと言われたのを覚えている。
「それに鈴蘭は美人で男女両方からウケがいいし咲のためと思ってやってくれないか?」
空は目を輝かせて頼んでくるが私はすでにうんざりしていた。
「だから嫌なんですよ!なんで私が咲の手伝いをしないといけないんですか。」
咲はもちろん友達ではあるが、なのの件もあってあまり手を貸したくはない。咲はいつも天然だから困る。というか南雲さんの件といい西園寺さんの件といいすでに私はかなりの力を費やしていると思う。だからこれ以上力を貸すのは癪に触ってしまう。
「そこをなんとか頼むよ。ほら、なのはからも何か言ってやってくれ。」
「ちょっと、なのを使うのはずるいでしょう?」
「ほら、鈴っちもやろうよ。とっても楽しいよ?鈴っちなら絶対に出来るからさ。」
丁度接客が終わったなのが抱きついてきて私は何も言えなくなる。そんなことされたら嫌だなんて言えない。昔からなのにお願いされると断れなくなるのだ。
「はあ、そう言うことなら少しだけやりますよ。ただし咲が帰ってくるまでの間だけですからね。」
「おー、鈴っち頑張れ。丁度お客さんが来てるから対応してよ。」
なのに言われるがまま面倒くさいと思いつつ私はお客さんの対応をすることにした。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか。あれ、西園寺さんではないですか?」
お客さんを対応しようとするとそこには西園寺さんの姿があった。西園寺もびっくりした様な様子で私を見ていた。
「篝さんこそどうしてここにいらっしゃるんですか?」
「実は色々とありまして不本意ですが咲の手伝いをしているんですよ。」
「なるほど。それで今日は日野さんにお礼をしたくてここに来たのですが日野さんはいらっしゃいますか?」
西園寺さんとは何度か会ったことがあるがやはり礼儀正しい。それにしてもこの学校はお嬢様が多すぎではないか?
「はあ。咲は今お取り込み中ですよ。とりあえず席に着いて待っていてください。」
私は西園寺さんを席につかせて大きなため息を吐いた。咲は一体どこで何をやっているのだろうか?




