第98話 霊峰オリンポシアの話なんだぞ☆配信
----霊峰オリンポシア。
そこは、かつて研鑽の神アカデミアを祀っていた教会のある総本山。
しかし、現在は違う。
研鑽の神アカデミアが、魔王ユギーを封印するための掛け声だという事が判明。
そして、自己啓発配信により全員がハイテンションとなって、さらには本当に祀るべき神々の名前も分かって、教会全体の神聖術のレベルが上がった。
法王カーラ・スパイシィは、神聖術『天使降臨』のさらに上位系、『天使派遣』を使えるようになった。
この神聖術は、その名の通り、天使をただ数名降臨させるだけではなく、雇用という形で大量の天使を神界から降臨させて雇い入れる神聖術である。
いままでは聖職者の人数だとか、その場所自体の危険度とかで、教会内の聖職者の人数が足りなかった場所に積極的に天使を仕事として派遣した。
天使達も、彼らにとっては働くことは楽しい事らしく、笑顔で積極的に仕事をしてくれている。
聖職者の方も、いままでは人数的に出来なかったことが出来るようになり、喜ばしい限りなのだそうだ。
カーラ法王の立場と権威はさらに高まる。
そして彼女が神聖術を使って呼んだ天使達を見て、他の聖職者達も神様を信じられるようになり、神聖術の理解が深まり、高度な神聖術を使えるようになる。
いま、教会は、物凄い勢いにて信仰心が高まっていた。
そして、教会では、さらに大きな出来事が起こっていた。
それが、【派閥】である。
調査した結果、教会が信仰すべき神は、研鑽の神アカデミアではなく、5柱の神である事が分かっている。
----農耕神ジビエ。
----知識神コーギョク。
----魔術神ビルド。
----武闘神ミリタリ。
----治癒神。
いままではただ祈り、そして研鑽を積むことこそが、教会のやり口だった。
しかし今では、ただ研鑽を積む事よりも、どの神を信仰しながら研鑽するかどうかの方が重要となっていた。
たとえば、ただ武術をするだけでは、成長はそれほど速くはない。
知識神コーギョクへの信仰を意識しても、成長の伸びは良くない。
だがしかし、武闘神ミリタリへの信仰を強く意識すれば、武術の成長は格段に速まっていた。
つまりは、自分が何を伸ばしたいのか、そしてそれを司る神は誰なのかをしっかりと意識する事で、どんどん強くなっていったのである。
そして、それによって教会の中でも、どの神を信仰するかが分かれるようになり、それが【派閥】と呼ばれるようになった訳である。
そんな中、1つだけ、成長の伸びが弱い派閥があった。
そう----治癒神。
教会が信仰せし5柱の神々の中で、未だ名前が判明していない神様であった。
無論、他の4柱よりも治療に興味がある者は、教会内でも少なくはない。
しかしながら、やはり神の名前が分かっていないからなのか、他の派閥と比べると、成長率が弱いように思えたのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「はぁ……治癒神様のお名前は、どうやったら分かるのでしょうか」
ススリアと出会い、いち早く『天使降臨』を使えるようになった聖職者タメリックもまた、治癒神の派閥の1人であった。
『天使降臨』を使えるようになった彼女は、カーラ法王ほどではないが、教会内でもかなりの重要人物として扱われた。
『安心しなされ、タメリック。そのうち、治癒神様の名前も分かるようになるでしょう』
『そうそう。サラダの言う通り、分かる時はきっと来るでしょう』
彼女が降臨させた天使サラダと天使ラード、2柱ともそう言ってくれるが、タメリックとしては何の手掛かりもない事に焦っていた。
ちなみにこの2柱の天使、サラダは武闘神ミリタリ、ラードは魔術神ビルドに元々は仕えている神様らしく、治癒神の姿は知っていても、名前は知らないのだそうだ。
「そもそもおかしくないですか? 治癒神に仕える天使様が、1柱も降臨しないのって」
ぷーっと、タメリックは思わずそう愚痴ってしまう。
『天使降臨』を使えるようになった聖職者は、カーラ法皇を除いて42名。
そしてその42名が使った『天使降臨』で呼び出された天使の数、87柱。
----その中で、治癒神に仕える天使は、1柱も居なかった。
もちろん、カーラ法王が使った『天使派遣』で呼び出される大量の天使の中にも、治癒神に仕える天使は1柱もいない。
明らかに可笑しい。
サラダやラードの話によれば、1柱の神につき、天使は10万以上ずつ存在している。
それは勿論、治癒神にも、同じ数の天使が付き従っているという。
そのはずなのに、治癒神の天使だけ降臨しないのは、やはり治癒神の名前を、未だに分かっていないからなのだろう。
「どうしたら良いのかしら」
今日も、総本山にある膨大な書物が保存されている書庫の中から、探し出すしかないのか。
そう思っていたその時である。
「やっほー☆ お探しの、治癒神さんだぞ☆」
キランッと、探していた治癒神は、タメリックの前に現れて、凄くハイテンションでそう言って来たのである。
「----あっ、ちなみにちなみに、名前についてはまだ内緒なんだぞ? いや、名前自体が『マダナイショ』って訳ではなくて、秘密って意味なんだぞ☆
ほら、秘密を持つ女ってかっこいいっていうか、ミステリアスで良い女感マシマシじゃないっすか? そういうのを、神様としても持ちたいって言うか、あっ、お餅は食べたいって言うか」
……なんか、随分と個性的だなと、タメリックはそう思うのであった。




