第95話 ドラゴンゴーレム作成を中継するぞ配信(3)
ドラゴンの卵相手に使った【水球】の魔術が完全に消え、痕跡がなくなった事を確認。
これなら配信しても大丈夫だろうと思い、ガンマちゃんに映像再開の指示を出す。
(※)『うわっ?!』『映像大丈夫な所になった!』『あっ、卵が動いている!』『あの下にあった魔道具の効果かな!』『目立つな! 羨ましいです羨ましいです!』『そろそろ孵化しそうだぁ~』
そう、コメントにもある通り、そろそろ孵化する時間だ。
ドラスト商会から得た情報によれば、いま卵の中ではドラゴンが身体を作っている最中のはず。
----ピキッ!
「おっ、卵から音がしましたね」
(※)『そろそろ孵化する感じ?!』『あっ、卵からなんか出てる!』『本当か? なにも見えないが?』『大丈夫だ、俺も見えてない』『魔力じゃない? 私の方では見えてるけど』『早速、【魔術師の瞳】が必要な場面が登場したなぁ』
一部、コメントからの指摘もあった通り、私の眼も確かに捉えていた。
ドラゴンの卵の中から透明な線が伸びて行き、そして置いておいた3種類の魔道具に、確かに触れていたのである。
そして、卵から出た透明な線が、その3種類の魔道具を取り組んで行く。
あーっ、せっかく綺麗に並べておいたのに!
そんな事を思っているうちに、卵が割れて、中から女の人が現れる。
「----はいっ?」
その女の人は、アルファが見せてくれた小学生くらいの愛らしい少女のような姿……などではない。
アルファが見せてくれたのは、精々が130cm~140cmほどの小柄な少女であったのだが、私が見る限り光の人の姿は、ほとんど2mに近い身長であった。
そして、用意していた魔道具も、別の所につけられていた。
2本の双剣が真ん中で半分に分かれ、足の部分にガシッと取り付けられる。
尻尾の先に取り付けられるはずだった刃は、溶かされて右手の皮膚となって張りつけられる。
一生懸命作ったはずの魔道具【魔術師の瞳】が、4本の角となって生えていた。
「はいッス! ドラゴンゴーレム、ただいまここに参上しましたッス!」
想定とは違い、生まれたのは、ぐぐぐっと2m近い大人びた美女。
ふふふっと、糸目の大人の女性のような彼女は、細長い杖のようなモノが出て来た。
「どうッスか、この姿は! アルファ先輩と考えて生み出した、この美しい美女の姿は!」
そのドラゴンゴーレムは、目の前でいきなり杖を生み出す。
目の前でいきなり、龍を象った杖を作り出していたのである。
「----さぁ、マスター・ススリアよ! このドラゴンゴーレムに、新たな名を与えて欲しいッス!
名もなきカイなんかではなく、ちゃんとした名前を!」
杖をクルクルと回転させながら、周囲に雷の球を生み出していた。
そんな魔法使いのようなドラゴンゴーレムの姿を見つつ、私は1つの名前が思い浮かんでいた。
「【アレイスター】……」
「アレイスター、ッスか?」
そう、アレイスター。
正確には、アレイスター・クロウリー。
前世の知識にある、魔術師の名前の1つ。
実在されたとされる魔術師であり、奥さんに憑依した超常的存在と接触して魔術師としての道を歩む事となった稀代の魔術師。『一代にして大成した魔術師』。
「私の知識にある、最も偉大な魔術師の名前だよ。----多くの魔術を、一般人にも広めたとされる、そういう類の魔術師」
「魔術を広める魔術師……それに、アレイスターとは、なんともカッコいい名前ッスね! それじゃあ今日から、私の名前はアレイスター! ドラゴンゴーレムの、アレイスターですッス!」
(※)『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』『おめでとう!』
こうして、私が作成したゴーレムの中に、新たにアレイスターというドラゴンゴーレムが生まれたのであった。
いやぁ、新たなゴーレムの誕生はめでたい! めでたい!
あと、すんなりと名前も決まった事も嬉しい限りである。
「(あっ……)」
と、ここで私は思い出してしまった。
アレイスター・クロウリーといえば、『一代にして大成した魔術師』である。
それと同時に、魔術という神秘的な存在たる魔術の存在を社会に漏らした、『最悪の魔術師』でもあって、詐欺師としても名高い人物であったという事を。
「(やべぇ、『最悪の魔術師』の名前を付けてしまったんだけど……)」
まぁ、そのアレイスター・クロウリーなんてのは、私の頭の中の知識なのだから、言わなければ良いか。
生涯、墓場までこの秘密は隠し通しておこう。
私はそう、心に決めるのでした。




