第92話 ドラゴンゴーレムに贈る魔道具作成配信
「----ほうほう。ドラゴンの卵、いやカイからそのような打診があったのか」
翌日。
無事に、元の肉体へと帰れた私は、アルファから報告を受けていた。
----あぁ、アルファからといっても、正確には『ガンマちゃんの身体を借りて話すアルファ』という意味だけど。
アルファとは【アルファ・ゴーレムサポートシステム】そのもの、その気になれば私がこのシステムを搭載した全てのゴーレムの意識を乗っ取ることが出来るからね。
さて、アルファからの報告によれば。
カイと話し合いをした結果、カイの方からヒト型にするならばこういう姿が良いという話があったのである。
ガンマちゃんの身体を借りているのは、彼女の額には映像を投影する第3の瞳があるからだろうか。
「これがカイが作りたい身体だそうです」
「どれどれ……?」
ふむふむ、なるほどなるほど。
アルファが見せてくれたのは、小学生くらいの愛らしい少女のような姿。
ところどころにドラゴンの要素は残っており、ドラゴンゴーレムとして面白そうである。
そして要点は、3つ。
----両腕に取り付ける双剣。私の双剣を見て真似をしたいんだとか。
----尻尾の部分に、頑丈な刃。どうやら尻尾を振り回して、突き刺す武器にするつもりらしい。
----魔力を見ることが出来る魔道具【魔術師の瞳】。要するに、魔力を見る瞳が欲しいんだそうだ。
身体の方は、カイの方でなんとかするらしいので、私にはこの3つを錬金術で作って欲しいそうだ。
身体を作る際に取り込むらしいので、近くに置いて欲しい、とのこと。
別にとりわけ難しい魔道具はないので、問題はないだろう。
【魔術師の瞳】も、要はお客様の健康状態を見る高性能な瞳を取り付けたジュールの真似をすれば良いだけだし、すぐに3つとも用意できそうだ。
用意できそうなのは良いんだけど……。
「……ドリルとかは要らないのかな?」
「ススリアさん……」
ジトーッと、ガンマちゃんの身体を使ったジト目で、こちらを見つめるアルファ。
いや、良いじゃん! ドリルとか!
ベータちゃんなどと違って、ドラゴンゴーレムはただ私が作りたいだけだから、〇〇専用とかで機能を制限したりはしない。
それだったら、ドリルとか、ロケットパンチとか付けたいと思うのは良いでしょ!
「そんなんだから、頭の所に超音波発射機なんか入れる設計になるんですよ」
「良いじゃん! あれはあくまで仮案だったし!」
超音波を発射したいと思って、置ける場所があそこしかないから仮置きしてただけだよ!
あとから、「いや、これ生体だから脳は空じゃないじゃない」と気付いて、没にしたけど。
「じゃあ、5日後ね。それで、みんなで大々的に、『ドラゴンゴーレム誕生配信』とかしようじゃない」
「良いですね! カイも喜びますよ……あっ、ちゃんと名前は変えておいてくださいね。カイはあくまでも仮の名前なんですから」
アルファに言われなくても分かっている……いや、嘘を吐きました。
それでいいやとか、思ってました。
カイは、あくまでも仮の名前。
私が良く使っている『アルファ』、『ベータ』、『ガンマ』、『デルタ』のように、前世の知識にあるギリシャ文字から名付けたモノだ。
『カイ』は、未知を意味する"ミスターX"や"謎の物質X"のように、アルファベットの『エックス』と形が似ていたから付けた名前。
まだ生まれていないからこそ、仮の名前として付けただけであり、確かにちゃんと生まれるならば、きちんと法則に則った名前を付けてあげるべきだろう。
「……『イプシロン』にするか? いや、でも違うな。
前回作ったのシェフ型ゴーレムには、仕事を意味する『ジュール』から付けたし、わざわざドラゴンゴーレムとして新たな枠を作る以上は、前例にない名前にすべきなんじゃ……」
うーん、悩ましい……。
とりあえず名前の件は後から考える事、つまりは先送りにして、私は御所望の魔道具の作成に取り掛かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
まず、取り掛かったのは双剣。
対ヴォルケーノドラゴン戦で使ったアンオブタニウム製の双剣は、流石に材料的に無理なので、アンオブタニウムと同じ、前世の中では登場しないこの世界ならではの金属を使う事とした。
----ヒヒイロカネ。
色々な書物で登場する、ファンタジー金属。
その特徴は、金剛石よりも硬く、そして永久不変で錆びる事はない。
さらには驚異的な熱伝導率を持っており、普通であれば木や枝を何本も燃やさないといけないモノであっても、このヒヒイロカネで作れば木の葉数枚程度で焼けるという代物だ。
まぁ、アンオブタニウムよりかは手に入りやすいが、それでも珍しい金属ではある。
最近はドラスト商会からまとまったお金をもらっているので、記念程度に買っておいた代物があったので、遠慮なく使わせてもらう事とした。
私は、レアアイテムを最後まで取っておくタイプではなく、いざとなったら使うタイプなのだ。
続いて、刃。
これもまた、ヒヒイロカネの硬度が硬いため、こちらもヒヒイロカネで作成した。
尻尾の大きさが分からなかったので、ちょっと大きめに作っておいたが、まぁ、獲物に刺す分にはある程度大きくても問題はあるまい。
ドラゴンのパワーなら、十分振り回せる事だろう。
最後に、魔道具【魔術師の瞳】。
これは他の2つに比べると、そこそこ難しかった。
魔力という、本来見えないモノを見るようにする。
そのために魔術付与を行うのだが、これが難しい。
コンタクトレンズに、薄く文字を書き込む感じ、と言えば分かるだろうか?
目に当たる部分だから、視界を遮らないようにするために透明で書かなければならない。
さらに薄いために力加減も調整しなくちゃだし、透明だから一度書き間違えたら最初からやり直しだ。
合計12回ほど失敗しつつ、なんとか1つ完成させる。
「……両目だから、もう1個作らないとなぁ」
溜め息を吐きつつ、私はなんとか、配信を予告した1日前に完成させるのであった。
 




