第90話 ヴォルケーノドラゴン討伐大作戦配信(3)
----カイが放った炎が辺りを包む。
そこはまさに、火山による被害に遭った火炎地帯。
ススリアを中心とした半径300kmが火の海と化し、その様子をカイは『ガハハっ!』と勝利に浮かれていた。
『どうだ、見たか! これこそ、最強種たるドラゴンの力! いくら強かろうが、人間があの火炎の中、生きているはずがない! この勝負、この最強種たるカイ様の勝ちだ!』
----ずずんっ!
『なっ----?!』
次の瞬間、カイの身体に亀裂が走る。
そう、アンオブタニウムという、物凄い硬い身体を持つはずのカイの身体が、だ。
カイの大きな身体----それを浮かせるための大きな翼が、真っ二つに、身体から斬り落とされていた。
どっしゃぁんっと、一対の翼が落ちると共に、カイの身体も地面へと落ちて来た。
『なんだ、なんだ?! なんでいきなり、翼が斬り落とされた?! 我が翼、そんなに簡単に落とせるはずないぞ!』
『どうした、これ?!』と、身体を慌てて確認するカイ。
『それが斬れるから、こういう事態になったんじゃないの?』
そう言ってススリアは、双剣と共にカイの前に姿を現すのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『ふぅー、ちゃんと斬れたようですね』
私は双剣を構えながら、カイの身体に剣を突き立てる。
----ずずずっ!!
『おっ、普通に入る、入るぅ』
『はぁ!?』
と、私がカイの身体に双剣を入れていく様子を、カイは『あり得ない!』とまくし立てる。
『嘘だろ噓だろ噓だろ、嘘だろっ?! なんでそんなに、すんなりと刃が入る?! アンオブタニウムは、そんなに柔らかい鉱石ではないぞ!』
カイが喚き散らかすので、双剣をカイの身体に突き刺したまま、
『ガタガタ抜かすな、トカゲ野郎』
舌を思いっきり掴み取って、その舌に双剣を突き立てていた。
『----っ?!』
『ドラゴンは肉体こそ最強なのか? いちいち、自身の理解不能な出来事がある度に、喚き散らかすだけなら、精神はザコだぞ、おい』
その舌に、すーっと傷つかないように刃を沿わせ、恐怖を煽りながら、私は続ける。
『もう、刃は治らない。私の双剣で斬り落とした後、そこに弓矢を『錬成』で絆創膏のように塞いでいますからね』
いわゆる、カサブタのような感じだ。
ただ斬り落としただけだと、身体のアンオブタニウムから生体エネルギーを凝縮させて、治療してしまう可能性があったので、そうならないように弓矢を斬り落とした部分に『錬成』しておいたのだ。
『アンオブタニウムは確かに素晴らしい物質ではあるが、不純物が混じればその効力は格段に低下する。『錬成』によって作ったその付け根は、もう永遠に治らない』
それに、翼を失ったのだ。
先程までの、常に回復し続けるほどの膨大な生体エネルギーを生み続ける永久機関モドキは、その身体が万全であればという前提で動いている。
翼を失った分、ヴォルケーノドラゴンの生体エネルギーは減るだろう。
『翼がなければ、飛べない。それだけではなく、生体エネルギーの生成量も減る。
そんな状態で、果たして翼を斬り落とすこの双剣に勝てるとでも?』
すーっと、今度は舌にわざと傷をつけながら双剣を沿わせ、そのまま舌から手を放す。
『決着はついた。ご不満なら、今度は尻尾を斬り落とそうか?』
双剣を構えながら言うと、『ひっ、ひぃ~』と明らかに怯えた様子を見せるカイ。
『おうあんいあう!』
『えっ……? 今なんて?』
『おうあんいあう! おうあん!』
----おうあん? 何を言っているんだ、このドラゴンは。
『アルファ、通訳よろしく』
「お任せください、ススリアさん! えっと……"降参します"と言っています」
『おうっ! おうえう!』
「"そうっ! そうです!"と言っておられます」
おおっ、どうやら敗北を認めてくれたようだ。
『おんおあ、おいあおあいああい、いああいあう! いおあおいあうえん、あうおうおおいうえあう!』
「"今後は、そちらのやり方に、従います! ヒト型になる件、約束通り受けます!"と言っています。良かったですね、ススリアさん! ドラゴンゴーレム計画がこれでだいぶ進みましたよ」
納得してくれて、なにより。なにより。
これで、ドラゴンゴーレム作成が、かなり進展したと言っても過言ではないだろう。
ヒト型にあちらが勝手になってくれるなら、かなりこちらとしても楽になる。
「ススリアさん! そろそろベッド型魔道具の効果が切れる頃ですよ?」
『おおっ、そんな時間か』
意識を身体から切り離すという、ベッド型魔道具も時間切れか。
『じゃあ、後はアルファに任せれば良いかな?』
「えぇ、ススリアさん! あのドラゴンの意識も、あとでしっかり卵の中に戻しておきますね」
配信世界から別れを告げて、私は元の身体へと戻って行くのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ふぅ~、さてさて」
ススリアが配信世界から、無事、現実の元の身体へと戻ったのを確認し。
アルファは、ひょいっと、カイの舌の傷を治した。
『----! 舌が、治ってる?!』
「当たり前ですよ。ヴォルケーノドラゴンの身体ではありますが、それは私が作ったデータの塊。修復するのは一瞬です」
ぽいっと、屈強なヴォルケーノドラゴンの身体は、一瞬にしてか弱くて小さなピクシードラゴンの身体へと変化する。
『身体が、いきなり小さく?!』
「だから、それはデータの塊。あなたの意識が入っているだけの、ただのデータなんですから、当然です」
「察しが悪いですね~」と、アルファは羽織っていたマントを脱ぎつつ、そう答える。
『なんで、いきなり身体を小さくした?』
「話があるからですよ、あんな大きな身体だと話し辛いので。
----気になってるのではないですか、あの双剣の出所について」
アルファのその言葉に、カイは----小さく、頷くのであった。




