第81話 久しぶりの3人衆配信
「「「お久しぶりです、ススリアさん!」」」
道場に行くと、見知った3人組の姿があった。
ケンタウロス族のスグハ、羊獣人族のイボーク、ダークエルフのスルーヨ。
『錬金術師大会』冬ブロックにて、私と競い合った武人達である。
錬金術師の大会に行ったはずなのに、何故か武術勝負のようになってしまったあの冬ブロック決勝戦の対戦相手達である。
彼らにはあの後、酒場でちょっとした指導をした後、別れたきりだった。
その後の話は、こうだ。
王都の騎士団所属というエリート街道を歩いていたスグハも、きっぱり王宮勤めを辞め、3人揃って冒険者となったのだそう。
そして、昼は冒険者暮らし、夜は錬金術の勉強をするという生活をしてたんだそう。
王都には初心者錬金術師向けのワークショップがあるらしく、そのワークショップで3か月ほど頑張った結果、錬金術師としてのイロハを学び、現在は中級錬金術師、1人で店を開店できるレベルになっているんだそう。
これは才能云々よりも、ワークショップを開いた先生が凄いという話だった。
詳しく話を聞いてみると、そのワークショップを開いたのは、私の知り合いだった。
そう、私がベンチャー企業であるメガロ錬金工房に居た頃の同僚。
そんな彼がワークショップを開いていたらしいので、彼らの成長っぷりも納得である。
そうして、錬金術師としての力を獲得した彼らは、私の所にやって来て。
その後、タラタちゃんの推薦もあって、この道場にやって来たんだそう。
「----にしても、全員ガラッと変わってるなぁ」
3人の姿は、思わず私がそう言っちゃうくらい、ガラッと変わっていた。
スグハは、ケンタウロス族という自分に合わせた、新たな金属鎧を身に纏っていた。
全身を覆いつつ、自分の動きやすいように作ったオーダーメイド品であり、さらには【軽量化】を施しているため、騎士団に居た時の鎧よりも強いそうだ。
さらには、槍の穂先に【吹き飛ばし】の魔術付与をしているために、ダメージを与える度に相手を吹き飛ばすという仕様になっているらしい。
硬くて、なにより相手を吹き飛ばすのは、普通に盾職として優秀と言えよう。
ケンタウロス族なのだから、速さもあるだろうし、これは正当な強化と言えよう。
イボークは、自らが汚して硬くしていた毛を、身体からカットして、武器に改造したんだそう。
イボークが毛を使って作り上げたのは、なんと"大剣"である。
羊獣人の毛をどうして剣にしようかと思ったのかは分からんが、それにより特殊な効果【もこもこ】が発動したんだそう。
これにより、イボークが大剣で斬った場所は、一定時間、ふわふわとした柔らかい状態となる。
イボークの攻撃は突進が多いため、曲がり切れない場合、自分もダメージを負うという欠点があったのだが、それを柔らかい状態にすることで解決、さらには強い弾性で弾かれることで軌道を読まれない戦い方が出来るようになったそうだ。
大剣を、自らの欠点を補う補助武器にしたのは凄いことではあるが、それだったら槍の方が良いんじゃないかと思ったのは、私だけだろうか?
そんな中、一番変化したのは、ダークエルフのスルーヨ。
前回の大会では弓矢を使っていたのだが、それを錬金術を使って魔導弓に変えたのだ。
魔導弓は、弓矢を全て魔力で生成して放つタイプの弓であり、私が指摘した「弓矢以外の武器も試してみたら?」という発言を受けて、魔法を加えたようだ。
魔導弓は、前世で言う所の機関銃のように、弓矢と比べると連射性も高く、その上で一斉に大量に放つ武器である。さらには魔法で大きさやら動きなどもある程度操作できるために、魔導弓にする事で強くなったのは事実だ。
他にも射程が伸びる剣や、燃え盛る炎を纏える盾など、一人だけ明らかに武装が増えている。
……彼女は、ちょっと間違った方向に進化してるな。
確かに弓矢以外を勧めたのは私ではあるけど、これはやりすぎ。
どんな人物であろうとも、全ての武器を満遍なく使えるようにはならないのと同じように、彼女の場合、とりあえず使えるから使ってみました感がにじみ出ている。
これは取捨選択、本当に使うべき代物をえり好みして、戦いの方向性をきちっと立てるべきだね。
とまぁ、3人ともそれなりの成長を遂げており、私としても後輩錬金術師が育ったのは嬉しい限りだ。
なにより、前の職場で離ればなれになった相手の動向を知れたのも、なによりだ。
「よし、しばらく身体を動かしてなかったからね。ちょっくら、揉んであげましょうか」
あっ、この場合の「揉む」というのは、戦うっていう意味ね。
説明する必要はないかと思ったが、スグハが身体をサッと隠そうとしたので、追加補足しておく。
……というか、ケンタウロス族は珍しいけど、そんな揉み揉みしたいとは思わないよ。
普通に揉めるなら、スコティッシュさんのようなふわふわな毛がいっぱいある獣人の方が好みだし。
「----さて、3人ともどれだけ強くなったのか。ちょっくら、確認させてね」
私はそう言いながら、3人を連れてグラウンドの方まで移動した。




